のんが旭と付き合うようになってちょっとして、講義が終わった夕方ごろからデートできないかのんが誘うけど、旭は用事があるから今日はちょっと無理かな……って返してくる。のんはまだ旭が自分と付き合ってくれるとは言っているけど……って関係性にちょっとした不安をいだいているので、旭くんはおれなんかと出かけたくないのかも……としょんぼりしていたら、「あー、でも待って」と旭が事情を説明してくれる。
「実はさ、ってほどでもないんだけど、まだ小さい妹がいて、今年小学校に上がったばかりでさ。一人で家に居させておくわけにもいかないし、まあ学童があるんだけど、それでもなるべく早く迎えに行くようにしてるんだよね」
「ああ、そうなんだ。えっと……、それなら仕方ないっていうか、あの、ぜひ妹さんを優先してあげてほしい」
「うん。ありがとう。だからさ、いっしょに迎えにいってそのまま家おいでよ」
「……え!? いや、それは、さすがに悪いし……、うんんん、で、でもいっしょにはいたいかも……。あ、あの……わがまま、言っていい? 迷惑じゃなければなんだけど……、おれも学童の前まではいっしょに、行きたい」
「え! もちろん! やった~、行こ行こ。なにも迷惑なことなんてないけど、家にはのんが不安なくなったときおいでね」
「へへ……うん」
学童につくかつかないかくらいで、「あさひくん!」と呼ぶ女の子の声が聞こえる。
「あ、ゆーひじゃん。外遊びに行ってたんだ? 帰るよ~」
「うん。……ねえ、お兄さん、あなた、もしかして、のんくん?」
「え、あ、うん……。えっと、はじめまして……」
「! はじめまして! ゆーひちゃんはね、ゆーひって言うの。あのね、あさひくんがね、のんくんと仲良くなったっていっぱいお話聞かせてくれてね。会えてうれしい!」
「え、え、え……」
「ほほえまし~~。ゆーひ、のん、俺先生にちょっと話すことあるからさー、二人でお話しときな」
「旭くん!?」
「わかった! あさひくんいってらっしゃい」
突然小さい子と二人にされておろおろしていたら、手を軽く引かれるのでかがんであげる。
「ねえ……、ゆーひちゃんにないしょで教えて。ゆーひちゃん知ってるのよ。のんくんはあさひくんの恋人なんでしょ? あさひくんのどこが好き?」
「え!? 知ってるんだ。あの……そうだな。……おれにもこういうのをくれるところかな」
オロ…としながら、付き合う前、自分がかわいいものが好きって知られてから、旭がくれたかわいいシールをクリアケースの中に入れたスマホの背面を見せる。
途端に夕陽はすごーーくうれしそうにして、
「ねえ、ゆーひちゃんもね、あさひくんのことものんくんのことも好きよ!」
「????」
結局、そのまま流れで家に行くことになるし、その後も一緒に遊ぶようになる。
実は、シールは夕陽が旭に渡したもの。
夕陽が好きなキャラクターのフィギュアのガチャガチャコンプを目指して、○回分だけねって親に渡されたお金とお小遣いを全部使った結果、一番欲しいカラーが出なかった。
ううう……ってなってたら、旭が「それ、被ってるやつ、一個くれたら一回分お金あげる」って言うのでそれに応じた。
「あさひくんいつもこういうの好きじゃないでしょ? なんでほしいの?」
「ん? こういうの好きな子がいるからあげようかと思って」
「え……」
だって、このキャラクターが好きって小学校の子たちに言ったら、みんなに「夕陽ちゃんもう小学生なのにまだそんなの好きなの?」って言われた。夕陽はそれでも自分の好きを譲りたくなかった。だから、自分だけこれを大事にできたらいいんだって思ってた。そんな、この子の、良さが、わかるなんて!!
「ねえ、あさひくん。その子にこのシールも一緒にあげて。ぜったいよ。ぜったいにぜったいよ!」って旭に託した、それをのんは喜んで使っていてくれる。のんくんがあさひくんのこと好きなのはわたしのおかげでもあるのよ、なんて。でもゆーひちゃんものんくんのこと好きになってもいいでしょ?
しばらく仲良くしてから、「ねえ、のんくん。ゆーひちゃん、やっぱりのんくんのこと『のんちゃん』って呼んでもいい?」って聞いたら、ちょっとびっくりしたあとに、うれしそうに「いいよ」って言ってくれた。だからそれから夕陽はのんのことを「のんちゃん」って呼んでる。だって、ちゃんの方がかわいいもんね。