https://www.amazon.co.jp/dp/4299049314
マネックスグループの取締役でもある山田尚史さんの著作で、第 22 回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。読んだ理由は単純に山田さんに興味があったから。改めて読み返しても彼の経歴はちょっと異常である。開成高校から東大松尾研で学び、弁理士としてソシデア知的財産事務所に入所。翌年 PKSHA Technology を設立し、CTO として創業 5 年で東証マザーズに上場を果たした。PKSHA 退任後、今度はマネックスグループの取締役に就任したと思いきや、今度は文壇でも活躍し始める —— 本当に一人の人間かと疑うような経歴だ。弁理士であり、テクノロジーの専門家であり、小説家でもある。同じく仕事をしながら小説をしている作家は他にも多いが(たとえば芥川賞受賞作家の上田岳弘は、IT 企業の役員でもある)、社会的な成功度合いで言えば群を抜いているだろう。
そんな山田さんの作品は、エジプトを舞台にしたミステリー。まずこれが意外である。てっきり専門分野であるテクノロジーを活かした作品を描くのかと思いきや、本人はインタビューで「なまじ裏側を知っていると、厳密性を優先してしまい面白く書くのが難しい」と語っている。
さて感想だが、冒頭のとっかかりは正直少し弱い。またミステリーと言っても、かなりファンタジー色も強いため、謎解きの爽快感はあまり無い。何しろいきなりミイラが現世に蘇るところから始まる話なのだ、何があっても不思議ではない。ただ、第二章で奴隷少女カリが出てきたあたりから徐々に物語に引き込まれていき、儀式の失敗から神官が追われる立場になってからは緊張感のある展開が持続する。後半はどんどん話が大きくなっていき、結末は爽快。
「このミス大賞か」と言われるとやや疑問符がつくけれど、一つの小説としては楽しく読めた。何より、当時のエジプトの死生観や文化を、カリを通じて少しずつ理解できたのも楽しかった。