・年始早々なかなか身動きができない状況なので、去年のM-1を見て考えたことをつらつら書いてみます。
・2023年のM-1で「真空ジェシカの新しさ」みたいな話を見て、漫才を「ハードウエア」と「ソフトウエア」で考えると良いのでは、と思った。
・ハードウエア=漫才のスタイルや形式。ソフトウエア=ボケや笑いの文脈や前提になる知識。
・その二項で考えると、ここ数年でよく話題になる「システム漫才」は「ハードウエア側の進化」と考えるととてもしっくり来る。
・たとえばミルクボーイはボケの内容とか必要な文脈はとても保守的だけど、漫才の”形”がどんどん新しくなっている=ハードウエア側が進化している。
・そう考えると、真空ジェシカはネットミームとかミレニアム世代に刺さる文脈でボケを用意しているので、ソフトウエアは進化している。でもやっていることはコント漫才なので、保守的なハードウエアでネタをやっている。
・なので個人的には、真空ジェシカの漫才に新しさはあまり感じない(好きだけど)。でも同世代だし「俺たちの世代を代表する漫才師」が出てきたのはとても良いこと。
・真空に対するM-1の講評で「もうちょっと尖らせてほしい」という話があったけど、これでハードウエアまで新しくすると、それはもうなんのこっちゃわからんくなる。
・なので、多分今の方針のままでいいと思う。彼らは別にM-1で無理して勝たなくてもいいと思う。個人的には「サワムラー」のネタが好きなので、もっとお茶の間をキョトンとさせてもいい気がする。
・一方で、M-12023で優勝した令和ロマンは、けっこう「新しいものを見ている」気持ちになった。
・令和ロマンは、ソフトウエアもハードウエアも「めちゃくちゃ新しくする」のではなく、バージョン1.5くらいの、「ちょっと新しくする」程度のアップデートに留めているのが上手いなーと思った。
・演者同士のコンタクトとか舞台の使い方みたいなハードウエアの更新と、サブカルチャーとかネットの話題を上手に取り込むソフトウエアの更新。一般の人が振り落とされない程度の、ちょうどいいレベル感の新しさを意識的に狙っている。
・ちょっと語弊がある言い方をすると、「視聴者のレベル感に合わせる」令和ロマン、「視聴者に対して手加減しない」真空ジェシカ。
・今後、漫才は令和ロマンのスタイルがニュースタンダードになるのかなーと思った。
・一方で、「令ロ、めっちゃおもしろい! 新しい!」と手放しに褒めたいわけではなく。
・令和ロマンが勝ったのは、たぶん、これまでのM-1王者とか先人たちのスタイルをうまく取り込んだ編集とかパッチワークみたいな、いわゆる「コラージュ」的な上手さがあったからだと思っている。
・フリッパーズ・ギター的な。なので、完全に新しいものを発明しているわけではない、と思う。しかし、彼らの本質は分析を自分の形に取り込んでいく、理論と実践の精度。そのセンスがずば抜けている。すごい。
・しかし、そんな令和ロマンが器用に優勝しちゃった結果、これまでのM-1の優勝者が決まる瞬間にあったみたいな「そう来るか〜!」というおもしろさがあったかというと、微妙。
・個人的には、令和ロマンが2023年に「新しいルールブック」を作ってしまったことで、来年にどういう揺り戻しがあるのかがとても楽しみ。
・最後に。さや香は「正統派な漫才よりも『見せ算』が本来の姿」的な言説がありますが。
・見ている側としては、『見せ算』も『からあげ4』も「この漫才が目指しているゴール地点」が設定されていないことがストレスに感じた。
・例えば、「冒頭に提示された問題を、見せ算で解決しよう」とか「飲み屋で注文を通すためには、めちゃくちゃ良い『からあげ4』を決めないといけない」みたいなストーリーがあったら、もっとまとまりやすくなると思うんだけど。
・しかし、本人的にはこれをやりたくないんだろうなあ。