まじで今更ですが、『花束みたいな恋をした』を観ました。いやあ良かった。
ということで、何周遅れかで、公開時にみんなが話していたようなことを書いてみます。なんやかんやあって、ぼくは結果として麦くん寄りの感想になってしまうのですが。
絹ちゃん、たぶんそんなに家事をやらない人だと思うんですよね。
学生時代から同棲以降も、この映画で「絹ちゃんが麦くんに食事を持ってくる」シーンって一切無いんですよ。家で食事をするときは、基本、座って別のことをして待っている絹ちゃんに、麦くんが食事を作って持ってくる。
実家ぐらしの絹ちゃんが床に落ちたトーストを拾ってそのまま食べられるのは、家がめちゃくちゃきれいに掃除されているから。そしてがっつりフローリングが汚れたはずなのに大して精神的なダメージを受けず「あー」程度で済むのは、自分で床の掃除をしていないから。
「床に落ちたトーストをそのまま拾って食べられる」直接的な描写は無かったけど、そのまま食べていないのであれば、「落ちたトーストを捨てている」ことになるわけで。少なくとも「食べ物を無駄にした」ことに対して精神的に負い目を感じないタイプの女の子ではある。
実家では浮き気味だったし、たぶん家事をやってなかったんじゃないかな。
もっというと、「自分の飯を自分で買って自分で用意している」一人暮らしの麦くんが3つ用意した焼きおにぎりを、2つ食べるのが絹ちゃん。きっと、実家でめちゃくちゃ大事に育てられている。
これは別に「2個食べるのありえない」と言いたいわけではない。麦くんが好きなのは、「3個中2個、焼きおにぎりを食べる絹ちゃん」だから。
そう考えると、同棲を始めて以降の2人は、けっこう家事の負担が麦くんに集中してたんじゃないかなと思う。初期は実家からの仕送りをアテにしていたこともあるし、お財布の管理も麦くんがやっていた可能性も高い。
もしくは「財布は別々だが仕送り+イラストの収入しか無かった麦くんは、絹ちゃんには言えないけどずっとカツカツだった」。こっちの方がありそう。
そして実家ぐらしから(一人暮らしを経由せずに)同棲がはじまった絹ちゃんは、たぶん求める生活水準が他の人より高い。そして、大好きな絹ちゃんにあわせてこの生活水準を維持しないといけない麦くんは結構プレッシャーだったはず。
麦くんは絹ちゃんよりお金に余裕がないぶん、ずっと無理している。一人暮らしの時期もあるから「稼いで、食う」ことのプライオリティは割と高かったんだと思う。ひょっとしたら麦くんも「男が稼いで生活を支える」価値観の人だったのかもしれないし。
「現状維持が夢」といったのも、こういう背景を想像できたらだいぶ辻褄があう。なぜなら、絹ちゃんとの生活を維持するのに精一杯だったから。就職することを先に決めたのも麦くんだし。
自分が大事にしていたものを捨てても、絹ちゃんとの生活を守ろうとした麦くん。本当に大好きだったんだろうなあ。そのくらい、絹ちゃん素敵な女性だったんだろうなあ。
きっと皆が何度も言っている通り、麦=「食うこと」に欠かせない穀物。絹=布のなかでも高級な嗜好品。絹ちゃんじゃなくて麻ちゃんだったら生活に困っていたかもしれないけど、絹ちゃんはお金に不自由したことが無い。
そして、「絹ちゃんあんま家事をしない」問題に戻ります。
2人で就職先を探し出したときに「就職活動しながら、資格を取る」という選択肢が取れた理由も、絹ちゃんはそんなに家事をやらないから。そのぶんの時間と体力と気力を勉強に回せたんだと思う。体力と気力はまじで大事。
一方の麦くんは、就職活動+家事でクタクタ。かつ「俺が生活を維持しなきゃ」のプレッシャーがあるから、結果として就職もじっくり選べず、「決まったところに飛びつく」選択肢しか無かった。
やりたいことを大事にして就職先を探す選択肢もあったはずなのに食うために働かざるを得なかった麦くん。これは「木を切るために斧を研ぐ」選択をした絹ちゃんとは対称的。
転職する絹ちゃんが「給料が下がってもいいから、やりたい仕事を始める」選択肢を迷いなく選べたのも、これまで自分の生活を実家と麦くんが守ってくれていたせいで「食えなくなる」ことに不安がないから。
麦くんからしてみたら、がんばって今の生活を維持しているのに、彼女が「給料減るけど、おもしろそうだったし〜」なんて転職を事後報告してきたら、そりゃ怒るよ。
なんかお金の話ばっかりで悲しくなってきちゃったな。
その後の麦くんは仕事がめっちゃ忙しくなるのですが、そういう状況になったときの絹ちゃんは、たぶん「麦くんのかわりに、夕食を作る」ことをやらない。きっと外食で済ませている。
なので、2人で食卓を囲まなくなる=会話が減って、2人の足並みが揃わなくなっていく。
同棲6年うち結婚生活2年やってますが、特にたいした内容じゃなくても「会話する」ってまじで重要なんですよね。夫婦の無意味な会話にはお互いの足並みを揃える機能がある。
この時間をゆったり取れていたら、麦くんと絹ちゃん、それぞれ大事にしているものがこんなにすれ違うことは無かったんじゃないかなあ。
とはいえ。
いろいろ考えた結果、この映画でいちばん許しちゃいけないのは「麦くんに3カット1000円でイラストを発注していた編集者」だと思います。
お前が、麦くんがお金の心配をするようになった元凶だ。こいつだけは絶対に許しちゃダメだ。