場所は、ショッピングセンターのフードコート。
舞台の中心には、テーブルについて向かい合う男女。彼氏(角田)と彼女(豊本)は交際中のカップルのようだが、口論の喧嘩をしている。
口論するカップルを横目で見ながら、そこに通りがかる男(飯塚)。
喧嘩がヒートアップした彼女は、自分の手元にあるグラスを手に取って、彼氏に水をかける。びしょびしょになる彼氏。
その瞬間に、たまたまカップルの真横を通った男。グラスから飛んだ水が、少しだけかかってしまう。
「えっ!?」と驚いて声を出し、カップルの方に目をやる男。彼氏がそれに気付き、男に平謝りする。男は驚いているが、怒っているわけではない。
彼女は、彼氏が謝っている間もうつむいて、何も言わず座ったまま。
彼氏の謝罪を受け入れ、立ち去ろうとする男。立ち去り際、男は「みんな見てますよ。せっかくの休日だし、仲良く、楽しく過ごしてくださいよ」と、当たり障りない言葉で2人をなだめて、去っていく。舞台奥へ消える男。
取り残された2人。びしょびしょの彼氏と何も言わない彼女。
彼氏は彼女に謝ろうと少しずつ喋り始める。彼女もそれに応じるが、会話から再び、喧嘩になってしまう。
ヒートアップして、声が大きくなる2人。
先ほどの男が、再び歩いてくる。手にはフードコートのお盆が。お盆の上には水が入ったグラスが乗っている。
彼女が不意に立ち上がり、タイミングよく通りがかった男のお盆の上にあるグラスを迷わず手に取る。グラス中の水を彼氏にかける彼女。
びしょびしょになって、驚き身動きができない彼氏。彼女はグラスをもったまま固まっている。男は、「えっ!? えっ!?」という表情。
彼氏、男の「僕のなんですけど…」という言葉で我に返る。先ほどと同じように、男に平謝り。
彼氏は彼女に向かって「お前もなんか言ったらどうだ」というが、彼女はうつむいて何も言わず、座ったまま。
腑に落ちない、ちょっと困った様子の男。先ほどと同じように、謝罪を受け取り立ち去る。舞台奥へ消える男。
彼氏と彼女が取り残され、再び会話がはじまるも、先と同じように激しい言い争いになってしまう。
そこに再び歩いてくる、先ほどの男。手にはお盆、その上にはストローが刺さり、蓋がついている大きめの紙コップが(中身はコーラ)。
彼女が立ち上がり、先ほどと同じようにお盆の上の紙コップをつかむ。
そして、ついている蓋を意思を持ってしっかり外して、中身のコーラを彼氏にかける。
びしょびしょになって、驚き、身動きができない彼氏。彼女は、空になった紙コップを持って、立ったまま、肩で息をしている。男は「えっ!? えっ!?」という表情。
少しの間、「えっ!? えっ!?」という時間。
男の「僕のコーラなんですけど」という言葉で、我に返る彼氏。彼氏が先ほどと同じように謝り始めるが、コーラは買ったものなので、「さっきからなに?」と少しだけ怒っている男。
彼氏が「すみません、俺があいつを怒らせちゃったんです」と謝るものの、男は彼女に向かって「お前、ちょっと理性あっただろ」「冷静にフタ開けてたじゃねえか」と詰め寄る。立って肩で息をしたまま虚空を見つめ、反応しない彼女。しかし、彼女の表情はなぜだか少しだけ満足気。
彼氏、ポケットから財布を取り出して「これで別の飲み物を買ってください」と男に千円札をわたす。
が、さっきかけられた水とコーラで千円札がびしょびしょ。
男は「こんな金、買い物に使えるか」と怒るが、彼氏は「みんな見てますから。せっかくの休日なんで楽しく過ごしましょうよ」と男に声を掛ける。「それ、俺がさっき言ったやつだから」と男。
男、最終的には千円札を受け取って立ち去る。舞台奥へ消える男。
再び2人残された彼氏と彼女。当然、先ほどと同じように激しい言い争いになってしまう。
4度目なので、すぐに喧嘩に入るのがよい。
喧嘩で激しく言い争っている2人……だが、彼女は口喧嘩をしながら、たまに後方をチラリと見る。口喧嘩をしながら、彼女が後方をチラリと見る。口喧嘩をしながら、彼女が後方をちらちら見る。後方=男がいつも歩いてくる方向。
彼氏、彼女が後方をたびたび後方を見ていることに気付く。彼氏、「お前、待ってんのか?」と彼女に聞く。彼女「なにを?」。彼氏「来るのを待ってんだろ」。彼女「待ってないわよ」。彼氏「あいつが来るのを待ってんだろ」。彼女「何言ってんのあなた、いい加減にしなさいよ」。
これまでで最高にヒートアップしてきた喧嘩。
そのとき、後方から歩いてくる先ほどの男。手に持っているお盆のうえには、大きな丼(中身はうどん)が。足元に気をつけて、バランスを崩さないように、ゆっくりと歩いている男。先ほどよりもゆっくりと、2人のもとに近づいてくる。
彼女は、後方に男の姿と、男が持っている丼を認めた瞬間に、少しテンションが上った様子。うわずった声で、彼氏と喧嘩を続ける。
2人の真横まで到着した男。ボルテージが最高潮に達した2人の喧嘩。
彼女、男の手元にある丼を奪うために立ち上がる。
が、その瞬間に転んでしまう男。彼女が立ち上がった瞬間、動いた椅子に躓いてバランスを崩し、彼氏の頭にうどんを丼ごとぶちまけてしまう。
彼氏、うどんを頭からかぶって硬直。驚き「やってしまった」という表情で、硬直。彼女、立ち上がったままで硬直。
しばらくの間。
ちなみに、かけるものはうどんじゃなくてもいい。「頭からかぶって硬直」ができればいいので、熱いものじゃないほうがいいかも。
しかしこの後の怒りのボルテージからいって、めちゃくちゃ汚れるものがいい。パフェとか?
彼氏「どっちがやった?」。誰も反応しない。
もう一度。彼氏「どっちがやったの?」。しばらくして男が「僕です」。彼氏「あんたですよね」。男「すみません」。
怒る彼氏、平謝りする男。
男、「すみません、汚してしまったお洋服はこれで」「いま現金がこれしかなくて」と千円札を財布から出すが、そのお札は、先ほど彼氏からもらったびしょびしょの千円札。彼氏「これ、さっきのやつじゃねえか」。
怒る・怒られるくだりのなかで、「どうせ(うどんより前に)コーラかぶってるんだから、それ以上汚れたって大差ない」とか、そういうくだりを入れたい。
このくだりで、明確に「男が彼氏のことを憎む、嫌いになる」ような描写をしたい。「お前が何も考えないで馬鹿みたいに横を通りがかるから、俺はこんなことになっているんだ」とか。
男、完全に参った表情、涙声で「みんな見てるのでぇ……」「せっかくの休日ですからぁ……」。
彼氏の怒りのボルテージが収まる。立ち去ろうとする男。
彼女が、立ち去ろうとする男を「すみません」と呼び止めて、財布からお札を出して男に渡す。
彼氏「いや、かけられたのは俺の方。どうして渡すんだ」。彼女「何言っているの、もとはといえば私たちが悪いんでしょ」。
男に向かって彼女「喧嘩に巻き込んでしまってすみません、これで、他でお食事してください」。
その後に、彼女が含みがある表情、トーンを落とした口調で「この先に、チゲ鍋のおいしいお店があるんですよ」。
男、お札を受け取って、彼女と彼氏を交互に見て、何かを察した表情で「はい」と言って、舞台の奥へ消えていく。
同じく、何かを察した彼氏。恐ろしい表情で、目が泳ぎ始める。
彼女、テーブルの元の場所に座る。数回、”鍋を抱えて彼氏にぶちまける”動きを練習のようにする。彼女、彼氏へ「さて、どこまで話したっけ?」。
彼氏、恐怖の表情で目が泳いだまま。その顔のままで暗転。