僕は「カイエ」をぱらぱらとめくり、シオランの病気に関する記述を探していた。〈病弱に次ぐ病弱。私の肉体は私の拷問者だ〉(p.47)。拷問者! 僕の頭痛にこれほどふさわしい言葉はないだろう。
「カイエ」の記録。
『実をいえば、どこもかしこも、生のどんな行為も、私には「解決不可能なもの」だらけだった。なぜなら、何ものにも解決などないから。どんな現実でも掘り下げてみればいい、現実が何に帰着するか分かるだろう』
『私は、非実在性のヴィジョンから客観的ヴィジョンに辿り着いた。つまり〈影の夢〉から過酷な幻滅に』
『もう子供のときから、私は時間が時間でないすべてのものから切り離されているのを知覚し、時間の自立的存在を、存在の地位から分離された時間独自の地位を、時間固有の世界を感じていた。時間の世界、時間の王国、時間の帝国』
僕は海に行った。初夏を思わせる、おだやかで鋭い日差し。空は激しく晴れ渡り、燃えるように鮮やかな青を広げていた。強風が吹きつけ、僕の髪は暴れていた。そして、目の前に、海があった。空を反映するように、海は鮮やかな青色で、海に降り注ぐ太陽の光は波に破壊されて粉々になり、ちらちらと白く輝いていた。おだやかで小さな波が、ささやかな音を立てていた──しゃららら、しゃららら──。僕は目を閉じて、そのささやかな波の音に耳を澄ませていた……。強風が僕の背中を押す。目を閉じたまま、僕は想像した。その風に身を任せ、海の方に運ばれ、そして、海の底へと、静かに潜っていったのなら……。そこは冷たいがあたたかく、音が遠のき、視界は海の青一色の、安らぎの世界。僕は目を開いた。僕は海底にはいなくて、浜辺に立っていた。あの想像は、幸福な自殺だったのだろうか。
川のほとりで、沈んでいく太陽を眺めていた。そのとき、世界は静かだった。あらゆる音は、僕を攻撃しなかった。他人の話し声、足音、飛行機の音。このとき、世界の音は、僕の敵ではなかった。いつもは僕の鼓膜を通って脳を突き刺し、神経を削る「音」。その「音」が、僕と調和していた。静か、だった。太陽は沈んでいくごとに、夕焼けを激しく燃えさせ、姿が見えなくなるころには、周囲を真っ赤にさせていて、炎、だった。