モネ、だった。私が初めて絵というものに私の胸の奥底にある魂を引きずり込まれたのは、モネの絵を見たときだった。小学五年生の私は、美術が好きな母に連れられ、しんと静まり返った美術館を歩きながら、ぼんやりと絵や天井や柱を眺めていて、ひどく退屈していた。大きな音を立ててはいけない張り詰めた空気が立ち込め、何がいいのかわからない、救世主や聖母が描かれた宗教画が真っ白な壁に並び、人々はその絵を凝視しており、私はその理解できない空間から一刻も早く抜け出したかった。そんな私とは裏腹に、母は興味深そうに一つ一つの絵を隅から隅まで丹念に眺めていて、私はいつ帰れるのだろうかと心が落ち着かなかった。母と一緒に別の展示室に行った、そのとき、真っ先に私の目にとびこんできたのは、モネの「日の出」だった。その絵は、絵でありながら、朝の青白い冷たく澄んだ空気が漂っていて、美しい淡い水色の水面がさらさらと揺れていた。朱色に燃える太陽が、冷たい、鏡のように冴えた水面に一筋の朱色の光を写し、その光が波に砕かれ、ちらちらと、無数の破片になって光る。私には、その様子の静止画ではなく、その映像が頭の中に浮かび、そしてその場の冷たい空気感が私の肌にそっと触れるようであった。なんて美しい絵なのだろうと、私はその絵を眺めたまま、しばらく、呆然と立ち尽くしてしまった。それはただ風景を描いた絵ではなく、絵を描いた人物の感情が私に伝わってくる、何か、生命力を感じさせる、生きた絵だった。その絵には、他の絵とは違って、私の魂に作用する力があった。モネの絵は、私の心臓をぎゅっと握りしめて離さなかった。