夕焼けにある落とし物

文学少女
·
公開:2026/1/6

 夕焼けを見ているときの、あの気持ちは何だろう。太陽が燃える昼でも、月がきらめく夜でもない、陰と陽の世界に挟まれた、どっちつかずな、あいまいな時間帯。冬の夕焼けは、鮮やかに、鮮烈に、朱色に燃えたぎっていながら、透明で、ぼくは、枯れ木の奥で鮮やかに燃えているその夕焼け、透き通った夕焼けを、いつも、眺めている。そのとき、ぼくの胸には、幼い頃、忘れ物をしてしまったときのような焦燥感が、ふつふつと、湧き上がってくる、一体、ぼくは、なにを忘れてしまったのだろう。この、忘れ物をした感覚に襲われながらも、ぼくは、いつも、忘れた物を思い出せずにいる。対象のない、空虚な、漠然とした、焦燥感。谷川俊太郎の『かなしみ』という詩には「あの青い空の波の音が聞えるあたりに/何かとんでもないおとし物を/僕はしてきてしまったらしい」とあるが、ぼくは、あの鮮やかな夕焼けに、なにか、落とし物をしてしまったらしい。その落し物は、過去にあるのか? 今にあるのか? 未来にあるのか? どこまでもはてしない過去と未来と、現在を含む、無限の時空間のなかで、ぼくの落し物は、ふらふらと、悠々と、波に運ばれるくらげのように、漂っているのだ。ぼくの落し物は、逃げも隠れもしていない。ただ、それは常に動き回り、無限の時空間のなかで、定まった位置にいないだけなのだ。ぼくはいつか、その落し物を、見つけることができるだろうか?