夜中に目が覚めてしまった。暖房が暑すぎたようだ。僕は汗をかいていた。家族は皆寝静まっていて、時刻を確認すると、午前2時50分ごろだった。僕は急な階段を下り、お茶を飲んで乾いた喉を潤した。覚めてしまった頭をなんとか眠らせようと、僕は本を読もうと思った。僕は志賀直哉の「城の崎にて」を読んだ。寝起きの、少しぼんやりとした頭で、志賀直哉の洗練された美しい文章を、一つ一つ読んだ。文章が心に透き通るようであった。志賀直哉の作品の中でも、「城の崎にて」の文章は、別格というか、極限まで磨かれた至高のものだと思った。「城の崎にて」を読んでいると、段々と眠気が湧き上がってきた。僕はその眠気に素直に従って、階段を上り、ベッドに入った。
朝、凍えるような、鮮やかな冬の青空が広がっていた。青空は澄んでいた。肌を刺すような冷たい空気が漂っていた。灰色の枯れ木が重なるその奥で、太陽が白く燃えていた。枝と枝の間を、日光が鋭く射抜いていた。空の端は朱色に燃え、美しい朝焼けが見えた。ぴよぴよと、小鳥の軽やかな美しい鳴き声が僕の耳に浸透した。山から眺めるからだろうか、鮮やかな青空がいつもより近くにあるような気がした。すぐそこにあるのだと思った。僕は、昨日見た山々を眺めていた。昨日ははっきりと見えたその山々は、白い霧に隠され、ぼやけた姿を浮かべていた。僕はその山の姿が、とても美しいように思えた。昨日はっきりと見えた山よりも、霧に隠され白く霞んでいる山の方が、美しいと思った。いい青空だった。
高速道路を走る最中、僕は窓から流れる景色を眺めていた。車にしろ、電車にしろ、流れてゆく景色をぼんやりと眺めているのが好きだ。開けた町が流れてゆく。鉄塔から鉄塔へ、電線が流れてゆく。木から木へと流れてゆく。僕はその流れる景色に心を預ける。心を託す、というべきか。僕はそんな景色を眺めながら、長編小説をどうしようかと考えていた。