海は青かった。どこまでも深く、どこまでも鮮やかで、青かった。とにかく青かった。世界はとても静かで、静かで、波の音が、透明な静かな世界に沁みた。僕はひとりだった。波の音に耳をすまし、青い海と、波に砕かれてきらきら光る太陽の光の断片をみつめていた。ざば、波、ひいていって、消えていく。世界が限りなく透明だった。これは夢の景色だ。ここは戦いじゃなく、僕のなかの静かな宇宙で、ひとりの宇宙だった。波、砂の上をすべり、暗く染め、ひいて、きえていく。夢だ。透明な現象だ。透明な幻像だ。それでも、僕にはたしかにみえている。僕にはたしかに存在している。この瞳に焼きつき、こびりつき、火傷の痕を残す。僕はひとり。ここは夢だから。肉体の球体の孤独の幻像だから。僕は立っている。砂のざらついていてしめっている感触。波のつめたい感触。僕は感じている。たしかに、この波は、このつめたさは、この音は、ある。潮の匂いが、かすかに吹く風の感触が、ある。これは夢だ。こんなは現実になかった。こんな景色は、過去は、なかった。それでも僕はみつめている、光が眼を刺している、海のつめたさを感じている。幻像。羽のように軽く、ぼやけている。けれど、はっきり、みえている。感じている。青い。青い。深く、深く、鮮やかで、鮮やかで。この幻像は消える。あと少しでもすれば、なにもなかったかのように、消える。煙が空に溶けていくみたいに。どうして、こんな夢を、僕はみているのだろう。僕は立っている。ひとりで立っている。水平線がみえる。この海はきっと、永遠の海だ。永遠に広がっていて、永遠に青くて、果てはない。透明だ。透明と青だけがある。青、青、青。青、それは遠い、それはつめたい、それはどこか物憂げで、それはどこか透明だった。夢だ。ここにいたい。でもゆめだ。僕はここにいない。幻像だけがある。僕だけにたしかに存在している。