授業が始まり、小テストが配られた。積分の問題だ。変数変換をすれば解けそうだが、その変換が思いつかなくて、手が止まったまま、僕は問題用紙を眺めていた。しばらく考えてみたけれど、どうしても思いつけなくて、僕はこの問題を諦め、座席番号が書いてあるプレートをなんとなく眺めていた。反射しているものにピントを合わせる(このとき、眼の筋肉が動いている感覚がする。普段動かしていないような筋肉が動いている感覚が、妙に不思議で、不気味だった)と、プレートに葉をつけた木の枝が浮かび上がってきた。白い背景に、黒いシルエットで映っていて、その枝と葉は、そよ風に吹かれて小さく揺れている。葉が所々散っていて、僕は秋を感じた。僕は、プレートに反射している、風で揺れているこの木の葉のシルエットが、とても美しいと感じた。なぜかと問われると、言葉にするのは難しいのだけど、僕はこの日常の隅にある小さな美しさが、とても美しいと感じるのだ。僕は、ずっと、この木の葉のシルエットを眺めていた。ピントを座席番号に戻すと、木の葉は消え、座席番号「2179」が浮かび上がってきて、ピントを反射に合わせると、番号は姿を消し、木の葉が現れる、というのを、僕はずっと繰り返していた。あの目の筋肉が動く妙な感覚が、なんだかおもしろかった。僕は、木の葉のシルエットを眺めながら、この小さな美しさを、誰かに伝えたいと思った。だから僕は、小テストが終わってすぐパソコンを取り出し、この文章を書き始めた。