ハイバイ

ブセさん
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ハイバイという劇団があった。今は少し形が変わってしまったようなので、あの口上がどうなってしまったかわからないが、私がハイバイの芝居を観ていた時分は芝居はいつも同じ口上で始まっていた。

曰く「飴の袋をぴりぴりとゆっくり剥くのはよせ」という。観劇にはいくつかのマナーがある。他の人としゃべるな、携帯電話を鳴らすな、撮影するな、等々。ハイバイはそれらを伝えた上で、「飴の袋をぴりぴりするな」という。飴を食うなとは言わない。ただぴりぴりと周りを気遣ってゆっくり袋を剥くと周りの客も気になってしまう。食う時はガッと剥いてバッと口に放り込め。これを毎回言う。

それ以来、色んな所で飴の袋をぴりぴり剝いている人を見るとハイバイを思い出してしまう。昨日は『梟』という韓国映画を観ていたが、隣のおじさんがずっと飴の袋をぴりぴり剥いていた。ひとつなめ終わったんだろうな、というタイミングで次のぴりぴりが始まる。年をくうと咳が出るのだ。それは知っている。梟は盲が闇の中で耳をすませる場面が多い。私の盲が耳をすませる時、たまに近くでぴりぴり音がしていた。