もうすぐ母の誕生日なので、実家近くにできた割烹に予約をいれた。まずは下見して、よさそうだったら次の週に母を呼ぼうと思った。カウンター6席、奥にテーブルが2つ。こじんまりとした古民家風の造りだ。実家近くはドヤドヤギラギラした安い居酒屋しかないので、はっきり異質である。特異点のような店先に、無地ののれんがかかっている。電光掲示板なんてもちろんない。隣は同じような造りのイタリアンだ。マダムがお菓子教室をたまに開くらしい。お菓子教室。この大判焼きしかない町に。故郷が変わろうとしている。
割烹では野菜をいろんな出汁で煮炊きする料理がたくさんでた。日本酒もたくさん揃っている。大徳利しかない立ち飲み屋と違って、新潟や長野の、新しい蔵元のぴかぴかした日本酒の瓶が並んでいる。味はよかったので来週の予約をいれ、せっかく実家の近くに寄ったので母に会いに行った。ひとに果物を与えるのが好きな母は、店のカウンターに少しだけ明かりをつけて、バナナを一本持って待っていた。来週の約束をして別れた。いくつになるんだっけ、毎年、年を聞くのにいつも忘れてしまう。