1月は諸般の事情によりとても精神的に疲弊したのだけれど、その最終日に身内が亡くなるという事態が発生して大慌てで近所のショッピングセンターに走ることになった。自分の持っている喪服が若い頃に買ったもので型が古い(スカート丈が短い・ジャケットがボレロ)のと、久々の葬儀でちまちまと足りないものが発生してしまったからだ。
通夜は18時から、動けるのは昼から。短い時間で全てのものを揃える必要がある。そういう時に真っ先に思い浮かぶのはやはり「モール(ショッピングセンター)」という業態ではないだろうか。いわゆる「イオンモール」とか「アリオ」とかそういうやつである。総合スーパーが核テナントとして存在し他は各種専門店が入っているので、一つのモールで日常の全ての買い物が完結させることができる。葬儀というものは急に発生することが多いので慌てている時に車であちこち走り回るのは大変だしそんな余裕は無い。頭の中でどの順番で回ると効率的に買い回れるかを考えて、現地に着いてすぐ動いた。
総合スーパーの婦人のブラックフォーマル売場では欲しいサイズとデザインと予算などの要望を伝えると、わかっている販売員さんはサクサクと商品を見繕ってくれる。餅は餅屋なので話が早い。試着も含めて30分ぐらいで喪服の調達を済ませ、その他必要なものを買うために総合スーパー内を最短ルートで回っていく。私の場合は行き慣れたところなのでどこに何が売っているかが頭に入っているからこそ最短で回れるのはあるが、初めて行く総合スーパーだったとしてもフォーマル売場にいる販売員さんに聞けばだいたいどこにあるか教えてくれる。弔事は宗派の違いはあれど必要なものはほとんど変わらないから。もし急な葬儀等で出先で困った時には、近くの総合スーパーの衣料品フロアの大きめのレジやサービスカウンターで聞いてみてほしい。
そんな総合スーパーという業態だけれど、今岐路に立たされている。端的にいうと儲からないのである。直近だと大手のイトーヨーカ堂が早期退職を募っていた。対象年齢が45歳以上かあ……プロパーで50ぐらいまでの人だと就職氷河期とかリーマンショックの苦しさを耐え忍んでやってきてくれた人たちだから、抜けるといろいろ大変そうだ。小売業、令和になっても精神論とか体力勝負なところがあるのも考えものだけれど、とにかくなんでもやらなければいけないので生え抜きの真面目に仕事をする人たちというのは貴重なのだ。そんな人たちがさっさと泥舟から抜け出るほうがいいのかそれとも泥舟にしがみつくのか、どちらがいいのか判断はきっと難しい。就職氷河期に生きてきた世代はとくにそう。その時代は正社員で雇用されることがすごく大変だったし、小売は転職も難しかったんだよ……(いろいろ蘇る思い出)
もし近所に「◯◯モール」「◯◯ぽーと」的なショッピングセンターがあればテナント構成を見てほしい。食品スーパーとドラッグストアと大型専門店(ユニクロや無印や家電量販店)みたいな構成になっていないだろうか。モールの核テナントから「総合スーパー」が消えつつあるのが近年のトレンドになっていて、ヨーカ堂もここ数年の新店舗は食品スーパーゾーンにのみ出店で他は専門店という構成が多い。他社も同様だ。
上のニュースのコメントを見ていても「そもそも近くにモールがない」というコメントも見られた。東京などの大都市は狭い範囲に専門店が多いし百貨店並みに規模の大きい駅ビルもあるので大規模モールは少ない。蒲田に巨大なイオンモールは無いだろうし、東雲とか日の出はちょっと遠いから近くでいいわ……と言われたら都内だとそうだろうなあとは思う。でもちょっと郊外に出ると大型モールはまだまだ需要はある。雨の日なんて駐車場が満車で入庫待ちになることもあるぐらいには混雑する。じゃあ総合スーパーも混むんじゃないの?と言われたらそうでもないところがヨーカドーの話に繋がっていく。
総合スーパーは大きく「食料品(食品スーパーゾーン)」と「衣料品」「暮らしの品」「ヘルス&ビューティ」みたいな感じに分かれている。2〜30年前だと衣料品や暮らしの品が利益の稼ぎ頭で売上高は食料品、みたいな状況だったのがここ最近はこれらの部門が切り離される傾向が強い。それぞれ「ユニクロGU等のファストファッション系専門店」「ニトリ・イケア・ホームセンター等のホームファッション系専門店」に取って代わられつつある。総合スーパーを維持するよりも専門店にその機能を担ってもらう方が楽、という判断になると総合スーパーはとたんに重荷になってしまう。人件費も維持費もめちゃくちゃかかる業態だからだ。ただお客さんの立場からだとこの変化にはあまり気がつくことはないと思う。むしろ便利になって良かった〜ぐらいかもしれない。
でも葬儀の準備を例にして考えると、ユニクロにブラックフォーマルは売っていないし(それに準ずる商品はあるかもしれないけれど)、革靴を買いにわざわざ靴専門店に行き香典袋を買いに文具専門店を探す。真っ白のハンカチはユニクロに売ってる?黒のストッキングを買い忘れたから靴下専門店を探さないと……なんていうまどろっこしいことをしなければならなくなってしまう。とりあえずモールの中で買い物は完結させられるものの、移動距離がけっこうしんどい。超巨大モールだとへとへとになってしまうだろう。入学準備用品だったりお盆の準備だったりでも同じことが言える。総合スーパーならその中だけで完結させることができるのだ。こと社会行事に関しては総合スーパーのほうがまだまだ使い勝手が良かったりする。「割引パスがあるから今日はだいたいの買い物をここで済ませてしまうぞ!」とか「ポイントn倍だからまとめ買い!」とか……そこのスーパーのクレカを持っていることが前提になってしまうけれども、けっこう便利なんですよ総合スーパー。
おそらくこれからも総合スーパーという業態は衰退していくと思われる。でもいざという時にはまだまだ頼れる業態でもある、というのは書き残しておきたいなと思って書いてみた。そんな私は元総合スーパーの社員だったりするのだった。もうちょっと踏ん張ってよね元弊社。