恵方巻のはなし

caetla
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前述の記事で総合スーパーについて言及したので、ついでのように恵方巻のことも記事にしてみようと思う。なおこの記事は実体験ではあるけれど虚実が入り混じっているのと情報が古いので、フィクションとしてさらっと読んでください。あくまで個人の感想です。

恵方巻きとは、厳密に由来やら伝統があるわけではなく諸説ありな謎のイベントであるらしい。私は関西出身で節分には母の作った巻き寿司を食べていたのでなんの疑問も抱かずに入社1年目の節分に恵方巻きを予約したし、なんなら休憩のときに引き取った恵方巻きを社員食堂で丸かじりした。美味しかった。でもこのイベント、関東出身の同期たちはかなり戸惑っていたようだった。ん十年前の話なので、今だと関東の人にもすっかりお馴染みになっているのだろうか……

コンビニやスーパーの惣菜売場に山と積まれた恵方巻きを見ると、なんとなくワクワクしないだろうか?(少なくとも今の私はワクワクする)助六とかに入っている「地味な巻き寿司」ではなく「有名料亭監修の太巻き」だったり「高級食材をふんだんに使った海鮮巻き」だったり「ヒレカツ巻き」だったり「ご当地巻き」だったりと、趣向を凝らした巻きものが所狭しと売場に並んでいる。どれにしようかな〜〜〜どれが美味しいかな〜〜〜あ、おつとめ品になってるからそっちにしよう、しまった買いすぎた!みたいなことを毎年やっている。私が好きなのは「ヒレカツ巻き」です。

しかしこの恵方巻きイベント、『中の人=惣菜チーフ』にとっては超重要はイベントなのだ。一年で一番「巻き寿司」が売れる特異日で、数量を読み誤ると大変なことになる。1ヶ月以上前からお客さまや従業員から予約を取り、当日フリーで買いに来るお客さまの分も込みで昨年実績と曜日周りと天気予報を考慮して当日分の予定数量を出す。さらには何の種類を何本巻くか(店舗の地域によって品揃えが微妙に違ったりもする)、それを巻くための人員がどれぐらい必要になるか、時間単位で何本巻けるか、材料はどれぐらい発注するか、包装容器の在庫、その他諸々のすべてを計画に落とし込まなければいけない。そして当日は現場の指揮をしつつひたすら巻き寿司を巻きつづけるというちょっと狂気の入ったイベントだったりする。

そして当日。開店時には広告に載っている商品は全て売場に並べないといけない。9時開店の店だと少なくともチーフやサブは5時前には出勤している。6時には朝パートさんたちだけでなく他の時間帯のパートさんたちもスライドして出勤し、一斉に作業が始まる。立春といいつつその時期の作業場はめちゃくちゃ寒い。もちろん生鮮を扱っているから暖房なんてないし、作業工程を変わるたびに手洗いするから水は冷たいし、本当に冷える。ありとあらゆる防寒対策をして、ひたすらに巻く。予約の持ち帰り時間に気をつけつつ、売場は常にメンテナンスをして商品を補充しなければならないし、パートさんたちの休憩も回さないといけない。そして各売場から来る応援の人員を振り分けてそちらのフォローもし、店頭では声を出して恵方巻きを売る…いやもうほんとすごいんですよ当日の恵方巻き売場って。今年みたいに節分が土日だとそうでなくても客数が増えるし予約していない当日のフリー客も増える。売れ数に応じて出す量のコントロールもしないといけないし、数は減るとはいえ当日は恵方巻きだけではなく他のレギュラーのお惣菜も並行して作らないといけない。この日の惣菜チーフはキリッキリに張り詰めている。

肝心の巻き寿司もいろんな人が巻いている。高級食材盛り盛りの極太のやつなんかは、寿司担当のエースやベテランパートさんが巻いていたりする。応援者は比較的簡単な中巻きや具の少ないベーシックなやつを巻く。そして応援者も事前にちゃんと練習してから入っている。衛生教育もするし事前にやるべきことはちゃんとするし、応援するからには全力で応援する。中規模店なら店の社員が総出でバックアップするのである。巻かない人も「補充」「予約のお渡し」「包装資材の補充」「材料の補充」「レジ応援」等々いろいろやっているのである。そしてこれが夕方ごろまで続く。恵方巻きはだいたい夕飯で出されることが多いので、とりあえずその時間までは売場をきちんとした形で保たなければならないからだ。そして夕方が過ぎると順次売りきりが始まる……私の応援時間はだいたいが夕方ぐらいまでだったので(元の業務もあるから)わかるのはこのあたりぐらいまでになる。ちなみに昼ごはんも恵方巻きを食べて、夕飯も恵方巻きを食べる……お付き合いで二本ぐらい買うから……

ここまで書いた時点で書いている方も当時のことを思い出して背筋がちょっと寒くなる。絶対に失敗できないから。私は『当日に応援で入る人』だったので当日の状況以外は外野から見ていただけだが、それでもチーフがめちゃくちゃ真剣だったのをよく覚えている。上に書いた段取りがきちんとできなければ当日の恵方巻きの売場は成り立たないのだ。なのでもし節分に店舗で恵方巻きを買うことがあれば、中の人がどれだけ入念に準備して当日頑張ったのかをちょっとだけ思い出してもらえると嬉しい。あと元弊社の恵方巻きはアウトパック(外部業者)ではなく全て自店で巻いていたので、自分で巻いたものを自分で食べていたかもなあと思うとより美味しく感じるのだった。

@caetla
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