という言葉がある。
慶応の塾長だった小泉信三さんの言葉で、下記が原文。
直ぐ役に立つ人間は直ぐ役に立たなくなるとは至言である。同様の意味に於て、直ぐ役に立つ本は直ぐ役に立たなくなる本であるといへる。人を眼界廣き思想の山頂に登らしめ、精神を飛翔せしめ、人に思索と省察とを促して、人類の運命に影響を與へて來た古典といふものは、右にいふ卑近の意味では、寧ろ役に立たない本であらう。併しこの、直ぐには役に立たない本によつて、今日まで人間の精神は養はれ、人類の文化は進められて來たのである。
『読書論』p.12
ずいぶんと前から、世間では「速さ」が非常に大事な要素になっていて、ものごとがすごいスピードで巡っていくようになった。
そんな世間ではとにかく今すぐに役に立つものが求められていて、タイパだコスパだと、今すぐに役に立たないものにはリソースやコストをかけるに値しないなんて風潮も感じる。もちろん自分を含めて。
そんな時にタイトルの言葉をふと思い出した。
今すぐに役に立つものというのは、つまり誰でも今すぐにでも真似ができるものであって、みんなが同じようなことをすれば当然すぐに陳腐化する。
みんながコスパがいい!タイパがいい!と飛びついているものに自分も飛びついてみたところで、数年後自分の中で陳腐化せずに残っているものがどのくらいあるのだろうか。
今から数年前までを振り返って、何かじっくりと積み重ねてきたものがどのくらいあるだろうか。
もちろん役に立たたないよりは役に立つに越したことはないが、今すぐは役に立たないようなものにじっくりと時間をかけてあげることで、将来的に大きな実りを手にすることがあるかもしれない。
もちろん時間をかけた割に何の役にも立たないような「コスパやタイパの悪いこと」もあるかもしれないが、それも許容してあげられる余裕は、常に持っていたいものだ。
周りについていこうと焦ってしまいがちだけど、まずはひと呼吸おいて、同じことにじっくり取り組んでみたり、ちょっと寄り道してみたりして色々なものを学びながら歳を重ねていこう。
すぐに役に立つものはすぐに役に立たなくなる。
でも、すぐに役に立たないものは、役に立つまで待ってやれば、ずっと役に立ってくれるかもしれない。