カスタマーボイス。
それは、この世に売り手と買い手がいる限り絶えない声である。
わたしが勤めている会社も、モノを売る会社なので、お客様の声、というものが存在する。
ちなみに、前職もモノを売る会社だったので、お客様の声が存在していて、そのときに「まあそうだよね」と思ったことをひとつ前提としてお話ししたい。
基本的に、カスタマーセンター的なコールセンター的なところに電話やメールで送られてくるのは、六割七割、お叱りの声だ。
あの店員の態度が最悪だった、この商品が最悪だった、このサービスはどないやねん。などなど。
店員の態度が最高だったこと、商品が最高だったこと、サービスが最高だったことを、おそらく来店し手にした多くの人は感じることがあってもわざわざ声にしないのだ。
もちろん、まったくないわけではない。親切な接客を受けたりとてもよい商品だったときに思わずカスタマーセンターにお褒めの言葉を届けちゃう! という最高な人は当然、いる。
でもやはり、お叱りの言葉が圧倒的に多い。
なぜならば、個人的な視点で見解を述べるのであれば、受けた最高のサービス(接客から商品まですべてを含む)はお金を払っている以上当然享受できるものであり、わざわざ褒めるものではない。なぜなら消費者は対価を払っているのだから。
しかしその対価に見合うサービスでなかったとき、人は憤る。当たり前だ。そしてその憤りの向かう矛先が、カスタマーセンターなのだ。
お褒めの言葉を届けちゃうとき、それは、払った金額以上のサービスを受けた、と感じたときだ。
この、払った金額の価値は人によって違うので一概には言えないが、そもそも「この金額を払えばこうしたサービスが受けられる」と販売元が価値を決めているものに、支払ったのにそのサービスが受けられなかったら、まあそりゃクレームになる。
昨今カスハラや理不尽クレームも増えているのでどうにも、って感じではあるけれど、まあ、わたしも3万円で購入した裾のデザインが特徴的なデニムをデザインを保持したままの裾上げを頼んだら了承したくせに何のことはない平凡なまつり縫いで戻ってきて、ブチギレて超ド級のクレームを入れた経験があるので(これは今でも思い出したらはらわたがぐつぐつよ)、正当なクレームももちろんあるのである。
ちなみにデニムの件は、個人的には「価格に見合わないサービス」と言うより、「お金を払ってゴミを買わされた」くらいの体験だったな。
つまり、カスタマーセンターには日々お叱りの言葉が届いている、と言っても過言ではない。
もちろん弊社も例外ではなく、カスタマーセンターが日次で全社向けに共有している「お客様の声」のメールには日々商品への文句や店員の対応への文句がピックアップされている。
しかし、先日届いたメールは一味違った。
お褒めの言葉、と言うよりも、感謝の言葉がピックアップされていたのだ。
詳細は伏せるが、数年前に親族をご病気で亡くされた、そして今ご自分も同じ病を患っている方からの感謝の言葉だった。
メールでのお言葉だったのだろうか、メールであってほしい。こんな内容を電話で受けてみろ、わたしだったら職務を放り出して号泣する。というような、ほんとうに素晴らしい、感謝のお言葉だった。
何なら、同フロアにいてメールを受け取っていた人たちが、連鎖的に泣きだした。
「ねええ! 今日のカスタマーボイスメール見た!?」
「見てないです…」
「見て!」
「え、てか○○さんなんで泣いてるんですか!?」
「カスタマーボイスを、見て! ずびっ」
「ええ~……、……いやこれは泣く…!」
という具合に、連鎖してどんどん泣きだして、職場が一時幼稚園になった。
日々仕事をしていて、こうした感謝のお言葉に触れる機会はそう多くない。
けれどわたしたちが日々頑張って仕事をしていることは決して無駄ではないのだと、クレームも多いけど、わたしたちの仕事に感謝をしてくださる方も確かにいるのだと、思わせてくれるあまりにも優しいメッセージだった。
もう…これだけで向こう1年頑張りたい! そう思える、優しいカスタマーボイスだけを聞いていたい。人はこれを、エコーチェンバーとも、呼ぶ。