インターネット上のサービスを使っていると、「このサービスは本当にメンテナンスされているのだろうか」と感じることがある。
新機能が出ない、UIが古い、ドキュメントの更新が少ない、という程度ならまだよい。古いサービスでも、枯れていて安定しているものはある。派手な改善はなくても、障害対応やセキュリティ修正がきちんと行われているなら、それはメンテナンスされているサービスだと思う。
問題は、セキュリティに関わる変更や、明らかなバグ修正すら長期間入らない場合である。
サービスは、動いていればよいわけではない。ログインできる、画面が表示される、既存ユーザーが使い続けている、というだけでは十分ではない。問題が起きたときに直るかどうか。報告された問題が放置されないかどうか。そこまで含めて、そのサービスが責任を持って提供されているかどうかが決まる。
以前、あるサービスを会社として利用していたことがある。
そのサービスにはTLS設定に関わる問題があり、特定のiOS環境から正常に利用できない状態になっていた。TLSは単なる便利機能ではない。現代のWebサービスでは、セキュリティの前提になる基本的な部分である。
個人としてなんとなく問い合わせたわけではない。会社の有料アカウント経由で、業務利用に関わる問題として伝えた。
しかし、その問題は年単位で直らなかった。そして今でも直っていない。
ここで問題にしたいのは、TLSの設定ミスそのものではない。もちろん設定ミスはよくないが、ソフトウェアやインフラに問題が起きること自体はある。重要なのは、それが報告された後に直るかどうかである。
年単位で直らないのであれば、それは単なるバグではない。そのサービスを継続的にメンテナンスする体制がない、ということだと思う。
その結果、会社で進めていた移行計画は止まった。検証や調整に使った時間も無駄になった。
メンテナンスされていないサービスの害は、提供側の中だけで完結しない。利用者側の時間、予算、社内調整、意思決定を壊す。
もちろん、外から見える情報には限界がある。内部でどういう議論が行われているのか、どれくらい人が足りないのか、どのような優先順位になっているのかは分からない。
ただ、ユーザーとしては、そこまで考える必要はないとも思っている。
あるサービスが長期間まともに修正されない理由は、大きく分けると2つしかない。エンジニアリング能力の問題で直せないのか、ビジネス上の優先度が低くて予算が付かないのかである。
しかし、ユーザーから見ると、その違いは本質的ではない。
理由が能力不足であっても、予算不足であっても、結果としてその会社はそのサービスをメンテナンスできていない。つまり、ユーザーから見れば、その会社はそのサービスを責任を持って提供する能力を持っていない、と判断してよい。
これはかなり厳しい言い方かもしれない。
しかし、「内部では頑張っているのかもしれない」「事情があるのかもしれない」「いつか直るのかもしれない」と考え続けても、利用者側の時間は戻ってこない。
実際に問題が放置されているのであれば、それがそのサービスの現在地である。
残っているサービスと、使うべきサービスは違う
これは個人向けサービスだけの話ではない。大きなクラウドサービスでも、似たようなことは起きる。
クラウド事業者は大量のサービスを持っている。表面上はどれも同じ会社が提供しているサービスに見えるが、実際にはかなり温度差がある。
活発に改善されているサービスもあれば、ほとんど互換性維持のために残っているだけのサービスもある。営業的にも積極的には勧められていないサービスがある。苦情が多い、日本市場に合っていない、代替サービスに移行してほしい、など理由はいろいろあるだろう。
しかし、公式サイトを見ているだけでは、その温度差は分かりにくい。
ある会社は、サービスを比較的早く終了させる印象がある。一方で、別の会社はサービスをあまり終了させない印象がある。
サービスが終了しにくいことは、利用者にとって大きな利点である。長く動き続けること自体には価値がある。
ただし、その代わりに別の難しさが出てくる。
つまり、「まだ存在しているサービス」と「今から使ってよいサービス」の区別がつきにくい。
サービス一覧に載っている。ドキュメントも残っている。APIも動いている。だからといって、今から新規に採用してよいとは限らない。
互換性のために残っているだけのサービスを、現役の選択肢として採用してしまうと、後で苦労することがある。新しい機能が入らない。問い合わせても反応が鈍い。既知の問題がなかなか直らない。周辺サービスとの統合も弱い。
「まだ使える」ことと「今から使ってよい」ことは違う。
この見極めは、かなり重要だと思っている。
問い合わせると温度感が見える
こういう判断には、ある種の審美眼が必要になる。
単に機能比較表を見るだけでは分からない。料金表を見ても分からない。ドキュメントがきれいに整っていても、それだけでは判断できない。
そのサービスが本当に投資されているのか。問題が起きたときに直るのか。問い合わせにまともな返事が返ってくるのか。ユーザーからのフィードバックがプロダクトに反映されるのか。
こういう情報は、表には出にくい。
自分はそのために、バグや問題を見つけたらなるべく問い合わせるようにしている。問い合わせた結果、どれくらいの速度で返信が来るのか。調査してくれるのか。修正されるのか。仕様として片付けられるのか。そもそも返事が来ないのか。
そういう反応を見ている。
もちろん、問い合わせをしたからといって必ず直るわけではない。こちらの勘違いであることもあるし、優先度が低いと判断されることもある。それは仕方がない。
ただ、何度か問い合わせていると、そのサービスや会社の姿勢は見えてくる。
きちんと見てくれるところは、すぐには直らなくても反応がある。再現条件を聞いてくる。回避策を示してくれる。将来的な改善予定を教えてくれることもある。
一方で、メンテナンスされていないサービスは、反応の仕方も鈍い。テンプレートの回答で終わる。明らかな問題でも修正されない。そもそも問い合わせ先が機能していないこともある。
サポート対応は、単なるサポート品質の話ではない。その裏側に、エンジニアリング体制やプロダクトへの投資状況が出る。
この温度感は、実際に問い合わせてみないと分からない。
誰も本当の温度感は教えてくれない
厄介なのは、こういう情報を誰も積極的には教えてくれないことである。
公式には「このサービスはあまりおすすめではありません」とは書かれない。営業資料にも「このサービスはメンテナンスが弱いです」とは書かれない。ドキュメントにも「互換性のために残しています」と明確には書かれないことが多い。
だから、利用者側で見極めるしかない。
自分の場合は普段からいろいろ文句を言っているので、たまに中の人から事情を教えてもらえることもある。あのサービスは今はあまり勧めていない、この機能は新規では使わない方がよい、こちらのサービスを使った方がよい、といった話だ。
しかし、普通はそういう情報は流れてこない。
だからこそ、自分で問い合わせることには意味がある。問題を見つけたときに、ただ諦めるのではなく、実際に聞いてみる。その反応を見る。修正の速度を見る。放置されるなら、それも重要な情報として扱う。
サービス選定では、機能や価格だけでなく、メンテナンスされるかどうかを見る必要がある。
特に会社で使うサービスなら、これはかなり重要である。移行には時間がかかる。検証にも時間がかかる。社内調整も必要になる。いったん採用すると、簡単には戻れない。
個人で使うサービスでも同じである。個人の文章、写真、ログ、アカウント、コミュニティも重要な資産である。無料だから、昔から使っているから、という理由だけで使い続けると、いつか困るかもしれない。
個人でも会社でも、利用するサービスは、社会的責任を果たしているサービスを選んだ方がよい。
終了する責任もある
これは利用者側だけの話ではない。
メンテナンスできないサービスを残し続けることは、優しさではない。既存ユーザーがいるから終わらせられない、批判されるから終わらせられない、という気持ちは分かる。
しかし、直せない問題を抱えたままサービスを残し続けることも、別の形で利用者に迷惑をかける。
使われ続けていることは、信頼されていることと同じではない。
本当は積極的に使ってほしくない。新規利用には向いていない。問題があっても直せない。それでもサービス一覧には残っていて、ドキュメントも残っていて、利用者からは普通に使えるように見える。
それは不誠実な状態だと思う。
もちろん、サービスを終了すると批判される。困る人もいる。移行先を用意する必要もある。猶予期間も必要になる。終了すること自体にも責任がある。
それでも、メンテナンスできないものを残し続けるより、きちんと終了を告知して、移行期間を設けて、責任を持って畳む方が誠実な場合がある。
終了する責任もある。
自分が関わっているサービスでも、メンテナンスができていないなら、批判を恐れずに終了する判断が必要になることがあると思っている。
静かに見捨てる
問い合わせる。待つ。判断する。
それでも直らないなら、静かに使うのをやめる。
これは諦めではなく、利用者としての意思表示である。
炎上させる必要はない。大声で糾弾し続ける必要もない。ただ、自分の時間や会社のリソースをこれ以上使わない。信頼できないサービスから離れる。
サービスは、存在しているだけでは足りない。
ちゃんとメンテナンスされているか。問題が起きたときに直るか。利用者に対して社会的責任を果たしているか。
そこを見る必要がある。
そして、年単位で問題が直らないサービスに、自分の時間を使い続ける必要はない。
静かに使うのをやめる。静かに見捨てる。
それも、インターネットでサービスを使う側にできる判断のひとつだと思う。