1月16日~公開の映画試写感想まとめ。気に入ったやつは⭐️つけてます。
試写感想は各種SNSでクロスポストしていますが、Blueskyのフィードが一番まとめとして見やすいかと思います。
・『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』⭐️
・『ウォーフェア 戦地最前線』
・『とれ!』
・『グッドワン』⭐️
・『サリー』
1月17日(土)公開
・『イマジナリーライン』
・『マライコッタイ・ヴァーリバン』
・『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』⭐️
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』⭐️
1月16日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開

強烈!!!むかしむかし、母の再婚で新しい家へとやってきたエルヴィラは、美しい義妹アグネス(シンデレラ)に出会い……誰もが知るシンデレラのお話を「醜い義姉」の視点から語る映画で、女性がモノとして「美」を基準に売り買いされる世界のグロテスクさを、ダイレクトにゴア描写満載で描く。衣装と美術が本当にかわいく、淡い夢のようなマカロンカラーに彩られていて、ドレスも舞踏会も本当に素敵で、それなのに内容が最悪!
当初のエルヴィラは王子様との恋を夢見る年相応に幼い少女なのだが、その容姿は花嫁のための学校に入った瞬間、王子様に「差し出す」に不十分であるとみなされる。そのため彼女は母の野心も手伝ってハードな美容整形や肉体改造などを行うことになるのだが、この描写がもう食欲を失うぐらいの陰惨さで、あまりにも痛々しく、悪臭が感じられそうに生々しくて……
そういう意味でボディホラーではあるのだが、この映画に出てくる施術というのは現実世界にあるものをちょっと戯画化しているだけで(骨切り、植毛、過度なダイエットなどなど)、この世界には麻酔がないからものすごくきついようにみえるけれど、実際起きていることとこれの距離はどのぐらいあるのか?と突きつけられる。
グリム童話版の恐ろしい結末を迎える「シンデレラ」を知っている人、「美」の概念がどう形成されるのか関心がある人にみてほしい、意欲的な再解釈だった。誰もが知っているような古典でも、要素の配置や文脈を変えれば違った側面が見えてきて、現代人にとっても切実なものが感じられるようになる……というあたり、変化球のようで意外と王道の新演出だったり。
『ウォーフェア 戦地最前線』
1月16日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

2006年イラク。アメリカ海軍の特殊部隊“シールズ” の小隊8名は不意の戦闘に巻き込まれる。いわゆる「戦争映画」らしい人物描写や背景描写などを廃し、ただ戦場に放り込まれた若者たちの感覚をリアルタイムで追体験させるという姿勢の作品。あまりにも音が怖すぎる。弾着音やら燃える音やら……
監督はアレックス・ガーランドと、実際にこの作戦に従事した経験がありいまは映画業界で働いている退役軍人のレイ・メンドーサ。いま人気の若手俳優たちがたくさん出ているのに、全く彼らを「キャラクター」として描こうとしておらず、徹底したリアリズムで戦場の「退屈さ」や死の「凡庸さ」を描く。
とにかく劇中の時間ほぼリアルタイムで戦況が進んでいくので、95分しかないのに妙に長く感じる。敵の姿もはっきりわからないし、ただ混乱している間に運が悪ければ死ぬっていう、安易なヒロイズムやロマンが入り込む余地のない虚無。ずっと怪我した人がうお~うお~とか言ってたりするし……前半の狙撃手が待機するだけの「退屈な時間」のほうがかえって不穏だったりするのが嫌だった。
彼らにはこういう事情があってどう……みたいなことは全く語られることはなく、そもそも作戦それ自体にどれだけの意味があるんだかないんだかも観ていてわからず、ただ交戦があって肉が引き裂かれて暴力があって、気づいたら人が燃えていたりするっていう、戦場や死の本来的なアンチ・ドラマ性が乾いた厳格な演出で淡々と描かれる。
音がとにかく臨場感があってすごいので劇場で観たほうが良い(実物大のイラクのセットをデカい敷地に組んで撮影したそう)。ベネズエラ軍事介入のあとに見ると、結局いろんなお題目こそあれ、戦闘というのは人が傷ついて死ぬわけで、虚無と混乱しかないとより生々しく感じられた。
あとそのうえで米軍の介入が現地の人々の生活をめちゃくちゃにしていること、都合よく協力者の存在を搾取していることも描かれていて、そりゃこの人たちにとってはこいつらが戦っている事自体勝手にやってきてなんなんだって話だもんな……と思った。
『とれ!』
1月16日(金)により東京・テアトル新宿ほか全国公開

親に負担をかけまいとバイトに勤しむ美咲は、軽い気持ちで投稿したVlogが心霊動画だとバズったことから、廃墟に潜入し心霊コンテンツを作ろうと思い立つが……Youtubeなどで活躍する動画クリエイターのコウイチが監督した作品で、軽いオカルト青春ものになっている。
『トーク・トゥ・ミー』もそうだけど、日本でもYoutuberがホラー映画を作るという流れが……と思いました。今後他の人もやっていくのだろうか。動画を作り始めるようになる流れのスムースさとか、収益の規模感とか、動画投稿周りのリアリティが妙にあるのに笑った。
『グッドワン』 ⭐️
1月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー

面白かった!17歳のサムは父クリスと父の友人マットとキャンプへ行くが……子どもであるサムが大人の男性たちのための感情労働を担う「いい子(グッドワン)」として扱われる様をさりげなく描き続ける、生々しく不穏な成長物語。繊細な音響と映像が素晴らしい。
親も人間だから、しょうもないところもあるし、ガッカリさせられることもあるし、自分に向けられた差別や暴力を理解してもらえないことも。それは誰しにもある痛みを伴う気づきでもあって、その瞬間をこの映画はなんでもない会話や表情、主人公の身体言語を通し純度高く描くことに成功している。
サムは娘なのに歳上の男性たちの「お世話」をせざるをえなくなる局面に追い込まれ、それが理不尽なことだと認識しつつもしょうがなくやるんだけど(主演のリリー・コリアスの「動じなさ」の演技がすごい、ずれたことを言われると間髪入れずに「何を言っとるんやお前」みたいな表情をする)、場のケア要員として自分が扱われることで溜まっていくものがあり……と静かな映画なのに異様にサスペンスフル。
男性二人に明確に悪意があるわけではないのだが、「される側」に慣れているので無意識にサムにそういう役割を回してしまっている、その雰囲気がとてもリアル。決まってるわけじゃないのに宴席で女性陣が片付けさせられる的な。その体験はサムにとって父親も一人の不完全な男性であり、配慮できない場合もあると諦めることでもある。若い女性の幻滅とそこからの成長をかなりシビアなトーンで描いている。
こういうことがあって……と語ったらすぐに終わってしまいそうな話を、ここまで強烈な感覚をもって伝えられるのは映像という非言語表現の強みだよなと。あとサムの恋人は同性なのだが、それが自然な背景の一部であり、同時にサムの経験や理解のされなさにクィアな文脈を与えているのもよかった。
同じように都市から隔絶された空間への移行とともにジェンダー表象の政治をさらりと揺らしていくケリー・ライカート『オールド・ジョイ』と確かに似ている部分もあるが、この映画は10代の少女の成長にポイントがあって、着地点とか流れはけっこう違うなと思った。ヤマシタトモコとか、FEEL YOUNGの良作読み切り的というか。
あとセリア・ホランダーの音楽がフィーレコ〜アンビエント〜フォークなムードで、サムの内的な葛藤を自然と調和させるのに一役買っており、かなり好きだった。89分の小品ながらインディ映画ができることを最大限無駄なく追求していく良作でした。次回作も楽しみになる出来でした。
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『サリー』
1月16日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

台湾の山間部で養鶏業を営む38歳のフイジュンは、姪に勧められたマッチングアプリを軽い気持ちで始める。「サリー」という仮名でアプリを使うフイジュンは、ある日パリに住むという魅力的な男性と出会うが……台湾でも社会問題化しているロマンス詐欺を題材にした映画(台湾での被害者は男性ではなく女性のほうが多いのだそう)だけれど、トーンは明るくコメディ寄り。ゆっくり世界を広げていく女性の冒険と成長をやさしく描き出す。
思い切り恋をすることはいまの自分を超越していくことでもあるわけで、降ってわいたような機会を通して行動を起こし、変わっていく女性をエスター・リウが好演していた。農場のニワトリやイヌたちもかわいくて、題材から想像するよりはるかにあたたかくチャーミングな映画だった。
全編セリフがほとんど台湾語で、主人公の弟の結婚に関する験担ぎのしきたりや、なにかと世話を焼いてくる厄介な親戚などなど、台湾の地方在住の独身女性が直面する圧力が描かれる。そのうえでマッチングアプリを始めることがどちらかといえば硬直した状況から一歩踏み出す行為として描かれており、「被害者」としてのステレオタイプから距離をおいているのがよかった。
『イマジナリーライン』
1月17日(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

映画学校を卒業したばかりのフミコは、友人のユメと旅行に出かけるが、小さなすれ違いから大変な事態に……入管問題を真正面から描く作品で、タイトルは映画用語であると同時に二人の間にある「(想像上の)境界線」も意味している。シビアな描写に驚きつつそこに作り手の本気を感じた。
東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻18期の卒業制作作品らしくて、卒制でこんなリッチなルックの映画ができるの!?と。タイトル通り内容の流れと境界線の成立/不成立が連動していて、端正な演出がされているのが面白かった。役者みんなよかったけど、特に主演の二人に説得力があった。
打開策が現実的に考えるほど簡単には導き出せない問題なので、どう落とすのかなと思ったけどちゃんとまとめていてなるほどと思った。青春成長ものとしてアプローチした『マイスモールランド』とはまた違った、「相手を見て、想像する」行為そのものについて映像を通して考えるような映画。 この主題についてはとにかくいろんな作例がどんどん作られていってほしい。ちなみに監督はウィシュマさんのケースから影響を受けて作ったそう。
『マライコッタイ・ヴァーリバン』
1月17日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

諸国放浪の無双の武芸者マライコッタイ・ヴァーリバンが、師匠と弟分と3人で行く道場破りの旅を描く。型破りな神話のようなストーリーを極彩色の映像で描く、エキセントリックなアクション・ファンタジー大作。
象徴性の強い超現実的な映像と壮大な愛憎劇が、ゆったりとしたペースで展開するっていう、現代映画なのに古典の再解釈版みたいな雰囲気がありました。英雄を描いた叙事詩というか……途中の幻想的なシーンのスケール感がすごくて、これだけ贅沢にやりたいことをやれるあたりインド映画はやっぱり違うなと。
リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ監督、『ジャッリカットゥ 牛の怒り』も異様な世界を極端に様式化された映像の問答無用の勢いで納得させてしまう作品でしたが、この作品でもキン・フーの武侠映画とレオーネのマカロニ・ウェスタンをミックスして、それをケーララを舞台に原色で塗りつぶしたかような、ぶっ飛んだ濃厚な世界観が味わえます。
『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』 ⭐️
1月17日(土)シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開

ゲイの文学教授エリックは、教え子のランスと会食をする。コロナ禍背景のワンシチュエーション会話劇。パワーバランスがスリリングに推移する過程に、それぞれの立場や世代、セクシュアリティへの感覚の違いが滲む。
出てくる登場人物は大学で師弟関係にある二人、ほとんど会話のみで進行する映画というところから、デヴィッド・マメット『オレアナ』+ルイ・マル『My Dinner with Andre』を彷彿とさせる……のだが、そこにクィアなひねりが加わっており、舞台がコロナ禍のマニラのレストランというのが面白い。
『ダイ・ビューティフル』のジュン・ロブレス・ラナらしく、細かいクィア描写が生々しいというか、わりと身も蓋もないゲイあるあるも取り込みつつ、だんだん心理サスペンスになっていく。うまいのは二人の共通の知り合いの存在で、彼に対するそれぞれの見解の違いから、二人の人となりが見えてくる。
90分でスピーディーに着地する構成、このまま舞台にもできそうな……と思ったら、本当に今年マニラで舞台化するそう。『ゲームボーイズ』でランス役のイライジャくんを知った人にもおすすめしたい、彼のヒリつく演技が楽しめる強烈な一作。
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