名古屋に旅行に行く際、初めて夜行バスを利用した。 新幹線よりも数千円安く利用でき、早朝に到着するため観光に時間が充てられると判断したためだ。
予約サイトで予約し、乗車当日。 集合時刻の少し前にバス停に到着した。 待合室に入ったが、必要最低限の造りであり冬の寒さがもろに入ってくる。 設置してあるベンチも、座られることを拒否しているような冷たさだ。 しかし持っている荷物が重かったのと、夜行バスで移動する際の体力を残しておきたかったため、仕方なく座ってバスを待つことにした。 腰を下ろした瞬間の冷たさで眠気が吹き飛んだ。
高速道路に隣接している待合室のため、走行音がよく響く。夜のためトラックが多い。 目の前を高速で通過していく自動車をしばらく眺めていると、自動車はある程度のまとまりを持って走っていることに気付いた。 5台〜10台のまとまりが一気に過ぎ去ると、10秒ほどの空白の後次のまとまりがやってくる。 それを繰り返している。 音だけを聞いていると波の音に聞こえなくもない。
ベンチが体温になじみ始めた頃、バスが入ってきた。 ドアが開かれ、乗務員に予約の際発行した乗車券を見せる。 座席の確認ののち車内に入った。 バスの中はすでに照明が消え、常夜灯のみ点いている状態。 横3列のシートは新鮮に思えたが、通路は通常の4列よりも狭く感じる。 荷物を気にしながら席まで移動し、どうにか着席できた。
座席にはリクライニングとレッグレストがそれぞれ調整でき、前の座席に取り付けられた足置き台がある。 後席は空いていたが、これから座る人に考慮して控えめに倒す。 ブランケットを広げてかけ、いつでも寝られるようにしたが…… まだ寝るには早いような気がした。 せっかくの夜行バスなのだから、雰囲気をもう少し味わうことにした。
真ん中の席に座ったため外の景色は見られない。 バスがカーブを曲がって遠心力が働く時間とエンジンの音で、高速道なのか一般道なのかを判断することしかできない。 正確な位置はスマートフォンの地図アプリからのみ知ることができる。 外界からの情報がほぼ遮断されている。
眠くなるまで本を読もうと思っていたが常夜灯の明るさでは無理があるし、おとなしく座席に身を預けて目を閉じ、走行音を聞きながら眠気の訪れを待った。 バスはやかましさとおとなしさの中間の音を立てながら確実に名古屋に向かっている。 そのような音に包まれながら自然と眠りに落ちて気づけば名古屋にいる……
というわけにはいかなかった。 なかなか眠りにつけない。 寝ようとするときほど眠気は遠のいていく。 目を閉じたまま、常夜灯の気配を感じながら眠ってもいない起きてもいない状態が続いていたとき、バスのエンジンが止まった。 休憩にはまだ早い。 乗務員のアナウンスでバスが不調であることを知り、ついたり消えたりする照明の中で解決を待った。
トラブルもやがて解決して、再びバスは走り始める。 完全消灯された後でも、自分は相変わらず浅い眠りを続ける。 こんな睡眠で名古屋で行動できるのだろうかと不安になり、それがますます眠りを浅くしていく。 こうなってしまうともうダメだ。
結局深い眠りにつけないまま午前4時になり、愛知県豊川市の赤塚PAにて休憩となった。 長いこと座っていたため足取りがおぼつかない。 前を歩く人もフラフラとしている。
赤塚PA以降は常夜灯が点灯し、深く眠れる状態ではなくなった。目を閉じてうっすらと外音が入ってくる状態がしばらく続いた後、まもなく名鉄バスセンターに到着する旨のアナウンスがあったため、荷物の整理をする。
名鉄バスセンターに降り立って間もないころ、果たしてここは本当に名古屋なのだろうかと思ってしまった。 地下施設のような無骨な降り場からは外の景色は見えない。 階段を下っていき外に出て、薄明りの空に見える名鉄百貨店などの高いビル群やJR名古屋駅の広小路口を見て、初めて名古屋に来たんだなと実感することになった。
初めての夜行バスは何とも不思議な体験だった。 眠りが浅くなったほか、初乗車でバスがトラブルで停止するという運がいいのか悪いのか分からない体験もした。 しかし、目的地に到着した時の、一瞬自分がどこにいるのか分からなくなる感覚は癖になりそうだ。
遠くに旅行する際はまた使ってみたいと思う。