3/24 無からは想像できない、世界のリアリティ

チェス記
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 12時ぐらいにノソノソと起き出し、母親と台湾茶を飲みに行った。明後日の卒業式に際しては振袖の着付けのために6時起きをする必要があり、非常に先が危ぶまれる。

 台湾茶はなかなか面白かった。筒状の湯呑みを小さくしたようなやつにほんの少しだけ茶が入れられており、その上に普通のお椀を小さくしたような形の湯呑みが伏せられた状態で供される。これをエイッとひっくり返し、筒状の湯呑みに入っているお茶をお椀の湯呑みにあけて飲むらしい。曰く、筒状の湯呑みに残った香りを楽しむ由。実際にふんわりといい香りがした。

 当然ティーポットに入ったお茶も別で出てくる。3煎までお湯のおかわりを頼めるお店だったのだが、回数によって味が全然違っていて面白かった。

 店では通販を利用し、壊れた電子レンジを新調した。そんなことあるんだ。母親が、「あなたが大きくなって色々な話ができるようになって嬉しい」と言っていた。なぜそんな話になったかは皆目思い出せず、普段はオナラの話等ばかりしているので今となっては見当もつかない。

 古本屋に寄り、本屋へと向かう。東ドイツの建築の写真集と『建築知識』を買った。イブン・バットゥータの『三大陸周遊記』があったら買いたいなと思っていたのだが、なかった。別の本屋に行ったら、同じレーベルの本はそこそこ揃っているものの『三大陸周遊記』があるはずの場所に本1冊分ほどの隙間があった。話のわかる人間がこの辺りに住んでいるなと思う。

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 『三大陸周遊記』は、世界史の授業で扱って名前と大まかな内容だけ知っていた。以前本屋で、知ってる本だし装丁がおしゃれだなと思ってめくってみたら、ちょうど面白いところに行き当たった。

「(少年と思しき名前)が、自分は実は女だと打ち明けてきた。女奴隷に調べさせると果たして実際にそうであった」という旨の箇所である。女性に身の危険が付き纏うことが今よりずっと多かった時代に、この少女はおそらくある程度著者を信用してこう打ち明けたのだろう。物語がある。

「性別がわからない人の体を女奴隷に調べさせる」というあたりも、イスラーム圏だなあと思わされる。うっかり女性が異性の肌を見てしまうことより、逆の方がより強いタブーとされていたのだろう。言われれば納得がいくが、想像だけで無から思いつくのは難しいラインだ。

 名前と大まかな内容だけ知っている本を半ページ読んだだけでこの密な情報に行き当たる。名前だけ知っている本の中にはその数だけ密な情報があって(つまらん名作も多いのでそうも言い切れないが)、そう思うと世界というのは途方もなく情報量が多い。どこまでも拡大できる。こう書いていてマンデルブロ集合を思い出し、私はあれが気持ち悪くて嫌いなので不快な気分になった。

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 本屋を去る。近くの電気屋で、親が千葉の家に忘れてきたHDMIケーブルと、明日届く予定の新しいスマホに貼る画面保護シールを買った。福引のセールをやっており、ガラポンを回す。係のお兄さんに何を買ったか訊ねられ、「ということはスマホ新しくしたんですか、キャリアって何使ってますか」と言われた。商魂を感じ、恐ろしかった。ガラポンからは白い球が出た。

 さらにロフトに足を伸ばし、卒業式(雨予報)に持っていく傘を物色。前のやつを5年ぐらい使ったのでそろそろ買い替えの時期であろう。あまりいいのがなかったので、明日街中に行った時にもう少し大きいお店で探してみる。特に意味もなく韓国の入浴剤を購入。

 スーパーでサーモンづくしの寿司を買い、家に帰って食す。

 風呂に湯を張り、早速韓国の入浴剤を投入。溶けるさまを見守る。しかし途中で飽き、蛇口で水をぶっかけたらすごい勢いでえぐれていく。水面を細かな泡がまだらに覆って薄靄のようになり、時折細かな泡が焼けるホットケーキの表面のようにふつふつと弾けて面白かった。子供の頃に味わっていたプリミティブな喜びを思い出す。

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 卒業式の日が雨予報なの、しみじみと嫌である。

 会場の入り口で避妊具みたいなビニール袋(人がこう言っているのを見てからそうとしか思えなくなった)が配られるんだろうな、人々がモタモタと傘にそれを装着し、会場から出る時は出る時でモタモタとはずし、出入り口の前に人だかりができるんだろうな、とか思うと今から本当にめんどくさくてしょうがない。

 式典が終わったあと、証書を受け取るため、会場から大学のキャンパスに移動する必要がある。雨だし振袖だし、おそらく数人でタクシーを乗り合わせることになろうが、私は京都のタクシーが京都の夏と京都の冬の次に嫌いなので、その点も憂鬱である。

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 明日は美容院に行き、風船に入れるヘリウムガスと風船につけるヒモを買って帰る。

@cesuki
他人の生活(善き人のためのソナタ)