3/26 チェス記初のおめでたい回

チェス記
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 大学を卒業した。

 別の大学の通信課程に1年間いたので、学部に5年いたことになる。他に例のあまりない謎の学歴になってしまったが、周囲の人たちは幸いあたたかく見守ってくれている。5年間でいただいた縁も選び取ったつながりも大切に、これからも頑張っていきたいのであった。

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 京都は前日から降り続くあいにくの雨であった。

 着付けの開始時刻が7時40分。メイクは自前なので6時ぐらいに起きないといけない。普段3時に寝て13時に寝ているので不安要素でしかなかったが、どうにか起きれた。雨の中をバスに乗って卒業式会場へ行く。

 卒業式のヘアセットといえば髪をフワフワさせるものという価値観を見事に打ち破り、タイトな黒髪ボブにて臨んだ。前日に行った美容院で美容師さんにいただいたアドバイスを丸パクリした形になる。さらにはバックカチューシャ(私物)を装着。こいつは1人では着けられない構造なので、次にいつ着けるかは全く不明である。

 そして振袖を着付けていただく。着付師さんはテキパキとしたベテランの方で、それはそれでいいのだが、周囲が中堅と思しき着付師さんと歓談している中真顔で立ち尽くすのはなかなかの経験であった。

 30分ぐらいボーッとし、親と合流して写真を撮ったら、お待ちかねの卒業式である。

 まず成績優秀者が学部の代表として証書を受け取る。文学部の人が証書を授与されているとき、隣の工学部生と思しき人が「あの人が一番文章書くの上手かったんかな」と言っていた。多分そう・部分的にそう

 次に総長からお話をいただく。海外にドシドシ出ていけみたいな話で、概ね同意。と思わされた。『赤毛のアン』を引用しており、文学少女か何かかと思った。

 最後に校歌斉唱があると思っていたが、なかった。言われてみれば国旗掲揚も国歌斉唱もなかった。さすがは左派の牙城だけあり、安定感がある。

 規制退場だったのでしっかり待たされた。ステージに登った卒業生が何人かおり、マイクでしっかり怒られていた。

 式のあとは大学に移動し、学部ごとに証書を授与される。移動中に嘘みたいなことが起こり、ウッソだろ!?と絶叫しそうになった。

 証書授与の会場に行くと、仮装をした同期がいた。最初「ジーザス」の仮装と思ったが、ジーザスにしては服が薄紫色である。そんなメシアは聞いたことがない。正解は「絵画《アテナイの学堂》の、プラトン」であった。そんな仮装は聞いたことがない。もうしばらく待っていたら片割れの「アリストテレス」が来た。

 学部長先生から証書を授与していただく。女性の先生で、両手には1つも指輪がはまっていなかった。指輪をはめていない女性が学問をするのは、先生の時代にはさぞ大変なことであったろう。背筋が伸びる。

 その後は同期ズと合流し、指導教官の研究室を訪問した。指導教官はプラトンの同期と紋付袴の同期と振袖の私を見て「みなさん、個性が。」と言った。みんなで一緒に写真を撮った。

 友達と写真を撮る約束をしてある。それまで時間を潰そうと、ワンオブ同期ズと一緒に専修室に向かう。就活中の先輩がスーツで寝ており、疑問が5つぐらい浮かんでは消えた。

 その後は大学で一番でかい広場に行き、親、友達、同期、研究室の先輩、などと合流して写真をたくさん撮った。

 この後は親と一緒に街中に出る約束をしていた。親と一緒に卒業式会場に戻り、振袖を脱いでいったん家に帰る。家に帰るバスを間違えてムヤミと東の方に運搬されるといったことがあった。

 そして街中へと出発。まず京都ロフトでコンシーラーとノーズシャドウを買った。普段使わないアイテムズであるが、今日親のを借りて使ったところ思った以上の効力を発揮したため、導入を決意したのである。その後は丸善で『三大陸周遊記』を購入。さらには高島屋のデパ地下でお祝いごはんを買った。

 腹も減り始めてきた頃合いで、次の目的地はアップルストアである。先日新しいスマホが届いたのだが、SIMカードを入れても認識せず、初期不良を疑ったかたちである。

 お客も店員さんも日本語母語話者っぽい人が少なく、日本語母語話者の店員さんの手があくまでしばらく待った。そして「とりあえずもう一回SIMカード入れてみましょうか」となり、入れてみたらまんまと認識しやがった。機械のくせに俺を弄びやがって…覚悟せえよ?

 その後は少し奥まったところにある個人経営のカフェに行く。

 ガチャッと開けた瞬間に、コンクリート打ちっぱなしの壁がオレンジ系の控えめな照明で照らし出されるダウナーな空間とこれまたダウナーな客どもが目に入り、これは親と来る場所ではない!と悟る。しかし親を恥じる方がダサいというような気持ちも確かにありて、気を取り直して堂々と侵入。名物のチーズケーキがどこかヨーグルトのような味で美味しい。「あの友達と来たいな」とか思っていたところにその人から連絡が来て照れた。

 帰宅し、高島屋で買ったお祝いごはんを食す。ラザニアとメンチカツであった。

 インスタグラムに振袖の写真を投稿したら、高校の友達から「久しぶりに会いたいね、次京都行くとき連絡するね」という連絡が来た。嬉しい。

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 こうして大学を卒業したわけだが、10日後には大学院の入学式が控えている。「出入り」という単語がふさわしいスピーディーさである。

@cesuki
他人の生活(善き人のためのソナタ)