3/7 白い雲は流れ流れて

チェス記
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 今日は昼からフォロワーさんと蔵前に行ってきた。

 駅前で待ち合わせ、カフェへと向かう。「国際通り」という国際色のない通りがあり、ナメやがってと思った。

 本日訪れたのはペリカンカフェというお店。フォロワーさんが探し出してくれた。私はあまり食に興味がない。食に興味がないと決まったものしか食べないため、結果的においしくないものへの耐性が低くなる。わがままだ。そんなわけでおいしいお店を探し出してくれる人には本当に感謝している。

 人気店なので30分ぐらい待ち時間があった。列を離れていいシステムだったので、どこかこの辺を見て回りましょうという話になる。すると、「カキモリこの辺ですよ」と教えてもらった。カキモリというのは文具店で、以前同じフォロワーさんがカキモリの話をしていたのに私が反応したのを覚えてくれていたのだ。当然行く。

 カキモリはとにかくすごいという噂を聞いていた。万年筆インクや高級紙を使ったノートをオーダーで作れるとあって、万年筆好き・インク好きの間では聖地のような場所である。

 すごいという噂を聞いていたが、思っていた以上にすごかった。大興奮して暴れ回りそうになったが、自分1人だけテンションが高い状況が苦手なので、堪えた。

 一番驚いたのは、トモエリバー(高級手帳紙)やバンクペーパー(高級紙)などが試筆用として店頭で提供されていたことである。これは非常に恐ろしいことである。トモエリバーは、A7(ハガキの半分)のノートで500円する化け物だ。バンクペーパーは、怖くて調べたことないけど、トモエリバーよりさらに高い。

 家にあるインクで試し書きをしたくて、店頭で試し書きした紙をこっそり持って帰ってきた。結果、最高であった。バンクペーパーにお目にかかるのは初めてであったが、表に書いた線はかなり綺麗に発色する一方、裏面の線は毛羽立って発色もイマイチだということがわかった。高級紙を片面使いなどと贅沢なことはできないので、この点は表も裏も70点のトモエリバーに軍配が上がるというわけである。トモエリバー、いいんだけど、手持ちのインクと相性が悪いんだよな〜。

 オタク内心大騒ぎも終わり、いよいよペリカンカフェへ。店内は白と黄色をベースとした木目調のナチュラルかつ洗練された内装だったが、なぜか照明だけむやみとイカツくて面白かった。

 「黄色いバタートースト」なるものと名物のハムカツサンドで迷う。「黄色いバタートースト」は、その名の通り黄色いバター(要するにモッツァレラとかではなく)にソースやビールを混ぜて焼いたものらしい。迷った挙句両者ハムカツサンドを注文。

 ハムカツサンドは美味しかった。とにかくまっすぐにおいしいので、引っ掛かりがなくスルスルと食べられる。一方このような場合には、味を形容するのが難しくなりがちである。私は、まずい飯はどこがまずいかを説明できるが、うまい飯を食べてもうまいなあとしか思えない。「幸福な家庭はどれも似通っているが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である」と言ったのはトルストイだったか。私にとって、うまい飯はどれもうまいが、まずい飯はそれぞれにまずいのである。

 その後、イタリアのなんかアイスみたいなのも食べた。記憶の片隅に同じ食感のアイスを食べた記憶がある。フォロワーさんに伝えたら「それ結構いいアイスじゃないですか」とリアクションをもらったが、そんなはずはない。安アイスのはずである。何だったんだぜ?

 ここからが本日のメインイベント。蔵前にあるハーチェクというチェコ雑貨店を訪問する。

 なんといってもチェコなのでさぞ狂うかと思いきや、私は実はチェコの工芸品にはあまり魅力を感じていないという一面がある。いわゆる「女の子っぽいもの」があまり好きではないのだが、日本に紹介されるチェコの工芸品は「女の子っぽいもの」ばかりが選択されて紹介されているように思う。チェコビーズとか。あと、日本に紹介されている時点で、それは「日本人の好きなように作り変えられたチェコ」では?とも思ってしまう。やっぱ現地に行きたい。

 工芸品はフーンで済んだ。問題は古本である。

 ハーチェクではチェコ絵本も取り扱われている。見覚えのない絵本画家の名前ばかりが並ぶ棚のその中に、私の研究対象の友達(本当に友達)の画集があり、失神寸前。パラパラめくっていたら研究対象にも言及があり、失神。本当に休日までつけ回してくるとは、全く油断がならない。逃れようがない。

 フォロワーさんが、ヨゼフ・チャペックの『こいぬとこねこ』を眺めて、「絵本って絵だけ見ててもあらすじが大体わかりますけど、これはどんな話か一切わかりませんね」「尻に寄生虫が入ってるようにしか見えない絵がありますね」と言っていた。同感である。

 研究対象の友達の画集を買って帰ろうか迷ったが、どうせ読まないのでやめ、推しが建てた城が書いてあるグラスと、チェコスロヴァキアの少年少女がソ連を訪問している絵柄のポストカードを買った。後者を買った理由は、明らかにチェコスロヴァキアの国民感情が反ソに傾いた後に生産されたものなのに、無理やり「ソ連との友好」のノリを押し付けられていてウケるからである。

 しかし絵本の品揃えはすごかった。チェコ美術を研究している読者におすすめである。つか、いたら速攻で連絡ください。トルンカの話しましょう。

 フォロワーさんと別れ、銀座伊藤屋(でかい文房具屋)、銀座ロフトに寄り道。

 その後、家の最寄りにて親と合流し、イタリアンを食って帰った。自家製プリンを頼んだら目の前で器から出して皿の上にひっくり返してくれて面白かった。

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 NHKで原発被災地の番組をやっており、最後に「悲しくてやりきれない」が流れていた。私はこの曲が流れると問答無用で泣くので、今回も少し泣きかけた。

 私は震災のとき小学生で、関東に住んでいた。震災で直接的に被った不利益は震災直後の品不足と計画停電ぐらいで済んだが、それでも小学校には家を失った転校生が何人も来たりして、震災は他人事ではないという感覚がある。

 大学進学に伴って関西に引っ越してから、土地に東日本大震災の記憶がないというのはこういう感じかと思ったというか、そういえばこの人たちの家はあの時揺れなかったのだ、と思うことが何回もあった。その代わりというのも変だが、あのあたりには阪神・淡路の記憶が強く根付いていると感じる。それは私にはないものだ。

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 人生において、いい人と出会うことがある。たまにだが、確かにある。もっと早くこの人と出会っていれば私の人間不信はもう少しマシだっただろうと思うこともあるが、それでも、やっぱり、今だったんだなあと思う。この言葉遣いはアイドルマスターのキャラクターの受け売りである。

@cesuki
他人の生活(善き人のためのソナタ)