2023の1/1にギターを始めた。
のうのうと生き恥を晒し老いさらばえた孤独な独身男性が、余生をすり減らすためのひとり遊びをこの国では特に「趣味」と呼ばれていることはみなさんご存知の通りです。クルマ、バイク、囲碁将棋、カメラ、ピュアオーディオ、蕎麦打ち、政治運動、文筆、ボランティア、そしてギターの 十の地獄。これに中年以降手を出したらもはや余人の生には戻れないとされています。
過日、すぐ終わる仕事を中身のない支離滅裂な雑談でダラダラと引き伸ばし、家に帰っても居場所がなく、コミュニケーション不全なのに長年組織にしがみついているから中間管理職にはなってしまったがために情報と処理の滞留を引き起こし各所から怒られ、怒られることで自分の存在が認められていると誤認しひきつけのような愉悦に浸るしか居場所を見つけることができなかった、そうして老いることしかおそらくできなかった出向先の上司と言葉をやり取りした時に、その相手が持っているはずの六十余年の手応えのなさに、運良くあと二十年生き延びてしまった先の自分の延長があるわけだ。ノネナールの臭いしか印象に残らないその名前も忘れた上司の事を思い出そうとすると、知らず知らずのうちに俺の頬を涙が伝い、ディラックの海となりました。
かつては、そこの位置に、やがて生き延びた俺を支えるものとしてゲームが、カードゲームなんかが入ると思っていました、MTGは一生遊べると思ってたし、実際今でも続いているし、なんならインターネットの普及により、くっさい会場で呼吸困難に陥らされることもなく、耳障りで甲高い声の対戦相手からツバを飛ばされながらターン終了宣言をされることもなく、手油と手垢と手汗に塗れてラーメン屋のグリストラップに落ちた煮卵みたいなデッキをシャッフルさせられることもなく、ただ対戦を楽しむことができるいい時代になりました。しかし、カードゲームってここだけの話頭使うんですよ。時間制限があるんですよ。そして何より文字が小せえ。これはPCでできるようになってもなお小せえ。今はまだ見えますけど真面目に初見のセットでゲームするとドラフトしただけで目がチカチカする。あと長年やってるから正直すこし飽きてきている。ゲームもそう。流行りのFPSなんかもうついてけないし、FF14でも零式レベルの決まりごとに沿って指を動かすだけの単純な作業に脳が処理できなくなってきた。娯楽の若さに自分の身体がついていかなくなってしまった。俺は老いを甘く見ていた。もはや本も読めぬ萎びた脳、旅もできぬ棒になった足、酒も飲めぬ肝臓、耳鳴りのする耳、ピントの合わぬ目、元から何も感じぬ鼻、情報の先入観に囚われるバカな舌、なにもかも役に立たなくなったとき、そいつらは楽しみではなく苦しみと空虚を従えてやってくるのだ。
いやだ、俺は遊んで暮らすんだ……! 美味いものを食べて……! 下の方からさらに下の奴らを見下して! 錯覚で得たうつろな優越感で自尊心を満たして! 幸福感が出る蛇口からチョロチョロ水がでっぱなしになるくらいに適度にぶっ壊したまま、タンクの残りが干からびると同時くらいに終わっていく予定なんだ……! 俺の走馬灯デッキは最強なんだ! 大会に出なければ負けないんだ!
もはや、本物でなくてもよい、哀れなハリボテで良い、ろくでもない時に片手間に逃避できる行き先が役に立たぬことがあるのなら、その行き先を少しでも脈絡も節操もなく増やすことに誰が拙僧を責められるでしょうかンフフ。死ぬまでのほんのひとときの慰みになれば良いのだ。
という人生の撤退戦について考えている時にぼざろのアニメがやってきたのでした。僥倖……っ!!(最近見なくなりましたね、僥倖)。ギターを……今初めても……ただのミーハーなオタクのフリができる!! これ今年何度も言ってますけどいまいち理解されてない気がするんで何度も言いますけど、俺はぼざろという作品も楽曲も好きだけどぼざろのオタクではないので、作中の楽器や機材と同じものが欲しいという気持ちは全くわかなかったんですよ。いまパシフィカ(212)もブルースドライバー(bd-2)も持ってますけど。それは結果的にそうなっただけなんですよ。フリじゃねえぞ。ミーハーなオタクのフリができることのメリット第一義は挫折しても心が傷まないからです。始めたとて絶対飽きると思っていたので。だって9割1年で辞めんのに俺が残れるはずないでしょって思うじゃん。かといって本気でやるとやめた時のダメージが鼻にくるし、かと言ってあまりに適当だと本当になんで始めたんだ? ってなるのでアホらしすぎる。お前は思いつきで始めたことすらも満足にできないお前の人生そのものだリストがただ無駄に潤ってしまうだけ。死にたくなる時に見返すとすぐに成仏できる便利な未来の道具です。
こういうことを喋ってると「そんな難しいこと考えて趣味/娯楽を始めてんの?」っていわれるけどそのうち何も考えなくなるし、後で考えるのが面倒だから先に考えておくだけなんじゃねえかなと思う。ちはやはリボ払いが心底嫌いです。
なんでまあここで「続ける」ことを目的にしようと考えるわけですね。超絶にうまくなりてえわけでも誰かとバンドを組みたいわけでも配信でギターヒーローになりたいわけでも新宿南口でポストとビッグイシューに挟まれてこの世に物申す愛の歌を叫びたいわけでもない。やがて1人で古い曲のフレーズを弾いて悦に入れりゃそれでいい。FFのシャキ待ちの間にBGMに合わせてベロベロ弾けたりしたら最高。長い目標すら低く低く見積もる。ギターに1年で9割の「諦め」が発生するのは目標がアホ高いからである。youtubeを見ると名の知れたギタリストや講師が新しい機材を良さそうに売り捌きながらかっこ良さげな音楽を奏でて口座へ勧誘したりしてるし、ギターを初めて一年です! みたいな顔してどう見ても一日16時間弾いてきたような超絶テクを若者が披露している動画などがごまんとでてくる。マジで勘違いさせられてはいけない。こうはなれないのである。はじめてまじめにやりつづけた3ヶ月くらいでこれが出てくると心底うんざりする。真面目にやり続けたとてたいてい1日1時間とかである。いまある人生チップをスポンジみてえな吸収力をもった柔らかい脳と指を持った若者に敵うわけがない。こうして言い訳と逃げ道を整えていく。自分を甘やかす理論武装を整える。もちろん異世界転生したら軍師になろうと思っている。
ここではじめてギターを物色し始める。のである、安いものの方がダメージも少ないが、高いものの方が勿体無さから続きやすい。何よりいいのは高いものをタダで借りることである。大晦日に隣室でおせちを仕込んで寝ていた老いた父を強めに揺するとフェンダーアメリカのストラトがドロップした。これはラッキーである。保守本流質実剛健麺類皆兄弟がモットーの父であるが、そのモットーに反し町で見かけたガラクタやネットで見かけたガラクタを大事そうに飾り立てていたりすることもあるが今回は当たりであった。タイムラインの識者たちからも「良いものを最初に使うのはよい。なぜならヘタクソな音が出ても楽器のせいではないことがわかるからである。良いギターはちゃんと弾けば必ず良い音を出すので」と言われ絶賛される。含蓄があるし実際そうなのだろう。
というわけで俺はそのフェンダーアメリカのストラトを片手にひたすらコードを弾いた。amplugというヘッドホンをギターにつなげてアンプ繋いだ音にできる最も簡単な機材を購入した。
1週間ほどやって思うのは、重い、指が痛い、ノイズがうるせえ、指が鉄臭い、Fが弾けない、Cも弾けない。である。Fが弾けないのは全ての初心者があまねくひっかかる話なのでこの時はどうでも良いと思ったが、Cに関しては不安があった、人差し指の肉が足りねえ気がしたのである。この不安は的中する。いまだに人差し指の肉が足りなくて1フレット目を人差し指で抑えると弦がビビる。一年やって指が多少固くなってこれなので、心底この楽器に指が向いていない。また、小指も内側に曲がっている上に短いのでsus4系のコードとかを抑えられなくて困っている。ただまあ指について調べてるとまた指が戦争で吹き飛んで3本短いのが残ってるだけだけど超絶ギター上手い人みたいなオモスゴ人間ビックリショーみたいなのがでてくるのでちょっと指がまがってるくらいで泣き言を言わせてくれない厳しい世界である。
そんなんでやはりコードをひたすら弾く。U-fretという広告死ぬほどウザすぎるサイトでたいていの流行りの曲のコード譜があるのでそれをひたすらなぞると曲を弾いてる気分になれる。正直これやってるだけでしばらく楽しかったし、この頃からあまり自分では上手くなっている気はしていない。上手くなりたい人はなんかちゃんとやった方がいと思います。結局メトロノームとかうるせ〜!! つって使ってない、ちなみにアレクサにお願いすると指定のリズムを刻んでくれるのでちょう便利です。
Fがなんとな〜く弾けるようになると、U-fretとにらめっこする態度が変わる。勉強が嫌いなので、とりあえずコードの抑え方〜くらいは見るが理論とかここがお前のダメなところ! みたいな教科書や動画はほとんど見てないので自分でなにかこのギターという楽器のギミックに気づくことができるとうれしくなるものである。
「ワッ……! Fの形を移動すればなんでも弾ける……ってコト……!?」
みんな知ってるし多分教科書に書いてあるしなんならパワーコードの一言で片付く話であるがこれに気づいたのは確か半年続けたあたりである。望みを低くしておくと歩みがカタツムリでもそこそこ楽しい。いやでも「Fでみんな挫折するけど、F弾けるとなんかすごく弾けた感じ出て上がるからそこまでやって」みたいなのは真だなと思いました。
というわけでここからは最初のギターを選んだ顛末を語ろうと思います。最近またタイムラインでギターをやろうとする人がいて、たまに「おすすめとか……あるの? チラッチラッ」みたいな空気を感じるので、一年続けたおじさん視点の話が他山の石として役にたつかもしんねえなと思って残しておかんとす。
フェンダーアメリカストラトくん+アンプラグド時代はあまり長く続かなかった。俺が初心者なのもあるがネックがでかくて指が届かない(これは指の置き方と姿勢が悪い)のと、重い(フェンダーストラトはギターの中では軽い方)のと、ギターの色(ギターで最もメジャーな色、サンバースト)が死ぬほどダサくて気に食わない(個人の感想)と思っていたからである。1ヶ月練習が続いた俺はまだFもすぐ弾けない感じではあったがもうちょっと続きそうだな。と思っていた。ぼざろアニメでギターを始めたポンコツオタクどもは俺の目論見通り俺以外にもたくさんいた。俺の計算違いだったのは「アニメで取り上げられるようなギターは玄人好みだったりそこそこいいくらいのギターで初心者が買うにふさわしいコスパの良いギターみたいなのが別にあるだろう」と思っていたが、初心者が買うにふさわしいと万人が「まあ……初心者これかっとけばマジで間違いない」と選んでくるギターがぼざろ作中のギターのシリーズ、パシフィカだったので猫も杓子も作品を知らない一般市民もこぞってそれを求め市場から姿を消していたことである。
ミーハーだけどあんまり人と同じようなものを選びたくない面倒なオタクみなみちはやは、自分の気分を上げてくれて、手に取りやすく、弾きやすく、まあできればせっかくだからおもしれえものを選びたいと思っていた。そうして楽器屋に行って思ったことはまったく違いがわからない。フェンダーストラトと似たような形とレスポールに似たような形の2種類が存在し、クソ高くなるとちょっと面白い形や色のものが出てくる。ということしかわからなかった。どうせ使ってない親父のフェンダーストラト使い続けるのが一番丸い案であることはこの時点で分かってしまったが、やはり俺はあのアメリカンでウエスタンなタバコサンバーストの色がダッサく見えて(個人の感想です)仕方がなかったから続けるためにはなんとしてでも別のものを見つける必要があった。
候補に上がっていたのはヤマハが出しているギターシリーズの一つ、すでに名前を出したストラトキャスターよりのフォルムを持つパシフィカではないシリーズ、丸さのあるギブソンレスポール(というよりはSG)よりのシリーズ、レヴスターである。外見がカラフルでかわいく、ボディに添えられたラインが良いと思っていたのだが、相談した知人曰く「学校の体育ジャージっぽい」という
そう言われると……確かにそうにしか見えなくなっちゃった……ダサ……本当にダサいのは学校ジャージなんか着たこともない人生のくせに他人の印象に惑わされるお前自身〜! といった葛藤をへてこの時の候補から外れた、半年後にパシフィカと一緒に買うんだけどな。なんて??
条件を改めて整理する。第一条件は「続けられるギター」である。今一番親父のストラトでありそうなのは手に取るのが面倒になって触らなくなること。なのだ。とりあえずパソコンの前で口半開きでトドのようにアウアウ涎を垂らしながら動画を再生してアヘアヘのたうっている間にふと隣を見たらギターが手に取れる環境がなければ続かないと言う確信があった。軽さ。これである。改めてその点を持って店内を見渡すと特価コーナーにヘッドのないギターが並んでいるのを見つけた。
これ。
だいたいギターは木材によって違いがあるが普通のストラトが3.5kgくらいでレスポールが4.0kgくらいの重さ。しかしこのibanez Qシリーズはヘッドレスギターで2.5kg程度しかない。ホームページだと定価が爆高だが展示品特価で半額。本当にござるか? おあつらえ向きに色も青だし(塗装はしみじみ安っぽいが)名前にQが入っているのもQ太郎感がある(俺はF作品の中でもQ太郎そんなに好きではないが)。そういう些事はともかく軽い。俺の中で「俺が求めていたのはこれでは!?」ポイントが爆上がりした。と同時に懸念が出てくる。「軽い方がいいに決まっているのに、世の中にこのヘッドレスタイプのものがあまり多いように見えない(クソ高いのはある)のはなぜ?」この疑問点の最大の問題は、軽い方がいいに決まっているわけではないところだが、ちはやくんはそれに気づかないまま店員に質問するのでしばらく会話が噛み合わないのであった。当時俺が汲み取れたニュアンスとしては、世の人はギターを選ぶ時にわりと保守的な選択をしているという印象。軽ければいいものではないと言うこと。チューニングは普通にできるし弦も一般的なものを使えるが部品を交換したりする時に汎用性のあるものではないと言うこと。つまり俺が求めている点を毀損するものはほとんどないのである。買った。(今思うと引きやすさと言う点ではそれほどでもない。弦の張る力が強いので断然他のギターの方が軽く弾けるのである)
このギターを自分の最初のギターに選んだのは正解だったなと思っている。やっぱり多少抑えにくさや引きにくさはあろうが、手に取りやすさは正義。ギターを複数買って手に取るのが習慣化しても、3.5kgのヘッド付きを部屋の中で片手で取り回すのは気を使う。手軽に出し入れしたい時にはこのQ52を手に取るので、やはりこの安っぽい塗装は気に食わないが、手軽さ軽さメンテナンス性の良さ、そして今になってわかってくるがわりと音がいいのである。(特にパシフィカ212と比べて)とはいえ、部屋が広くて不精者でなくて弦の抑えやすい、弾きやすいギターを選びたいなら他のを選んだ方がいいと思う。
今日の日記、長すぎ謙信〜。(義務感)