5/2 旅路の記録より 往路の船にて
生まれて初めての一人での船旅をしている。今、船の甲板で波音を聴きながら、旅の記録を忘れないうちにつけておきたくてiPadのメモ帳に、しずかなインターネットにあとでおくログの下書きを書いている。船のWi-Fiは弱くてオンラインのエディタに書くのは難儀そう。試してないけど。何より私はこのメモ帳機能が好きなので割と頻繁に使っている。ダークモードの設定で、黒い背景に白い文字、オレンジ色のアイコンやバーは馴染み深く使いやすいツールの一つ。
事前にYoutubeで船の乗り方を予習してから来れたので戸惑いは少なく乗船することができた。旅行系Youtuberのみなさんには旅の度に頼りにしている。本当に。
一人旅、女子旅のキーワードでブログで発信してくださっているインターネット先人たちも。おかげさまで昨日の夜は特2等の客室でゆっくり眠ることができた。女性専用の寝台二段の個室感ある空間は一晩眠るのにちょうど良かった。
船内には東京都の実証実験で一部衛星Wi-Fiが通っていて、「つながる東京」のキャッチフレーズと共に今後の通信環境の向上を目指してるらしいことを、知る。
インターネットと共に生きてもう二十年以上の私には、安心するとともに、どこにでもインターネットがないと不安になってしまう自分の脆さに気づいては不安になる。
つながらない権利、なんて言葉もあるけれど、生身のデータでなく加工された情報とつながり続けないと私には世界を理解することが難しい瞬間が多くて、それらと私を繋げてくれるインターネットがないと、一人旅は心細くてたまらない。インターネットと共に旅をしている。
昨晩ターミナルの乗船窓口で、乗船券の発行の時に小さく困ったことがあった。人混みのざわめきに紛れて、ガラス越しの窓口案内人の声がよく聞き取れないのだ。予約したスマホ画面を見せて指差し案内をしてもらったり、わからないなりに推測したりで、なんとか無事に往復の乗船券を手に入れることが、できた。
APDの傾向がある自覚はあったけれど、私の聞き取りの弱さは、それだけれはない。私は持病の影響もあって片耳の聴力が部分的に弱いのもきっと影響している。2年前、手術をして大きくは回復したけれど、それでも寝る前につけた耳栓の左右差の聴力の感度から、もう戻らない音の差を感じていた。聴力が弱ってからはずっと、テレビは字幕をオンにして観ている。脳としても視覚的に情報を受け取る方が楽なので、仕事のオンライン会議も、内容のわかる画面投影資料がなければ、字幕をオンにして参加することがある。
手に入った乗船券に必要事項を記入し、乗船に向かいながらもう一つ別のことを考えていた。ろう・難聴の当事者だったらば、あの乗船窓口の案内はどうやって対応お願いするのだろうか。私が一緒にいたらサポートできただろうか。インターネットの予約でも障害者割引を使う場合は窓口の対応が必須で、きっとボードを使った筆談などが必要な瞬間がありそうだな。予約番号をただ伝えて手帳を見せるだけ、なのに、私にはとても難しかった。初めてだったからなのもある、次からは、私が一緒に旅をしていたとしたら手伝えることはあるだろうか。
春から、区の手話講座に通い始めた。きっかけは去年、勤務先で手話ユーザーの先輩社員が入社したこと、が一番影響が大きい。部署は違えど、共に過ごす時間が増えた。オンライン会議は互いに字幕があるけれど、対面で字幕をつける手軽なテクノロジーやインターフェースはまだ弱いから、手話でもっと会話できるようになりたいな。
手話は高校生の頃に少しだけボランティア部の中で、指文字での自己紹介や手話歌をやったことがある。親しみを持つことができたので個人的な入り口には良かったかもしれないけれど、ろう文化や手話という言語の視点では片手落ちだ。そんなことをここ何年か、障害をオープンにして働く中で様々な障害について知っていく中で、あの時の学びに不足していた視点に気がつき、改めて今、学び直している。今の私ならば指文字だけでない自己紹介もできるし、簡単な挨拶や雑談もちょっとだけできる。でもまだ、全然足りないな。学校でやった程度の英語力にも及ばない。他の言語を学ぶことで知っている他の言語との対比も捗るので面白い。手話という言語にこれから何年かかけて、もっと知っていきたいなと思う。
船の就航アナウンスが流れている、島に上陸する時間を教えてくれた。このアナウンスを私は伝えられるほどまだ手話をつかいこなせてはいない、けれど、できるようになれるかな、なれたらいいな。でもまずはその前に下船の準備をしようね。忘れ物無くしものしないように、身体に鞄やスマホを紐づけたり、荷物は一覧表を作ったりした。短期記憶が弱くてすぐ何かを見失ってしまう私は、何がどこにあるか場所を決めておくのはとても大事。
船の中を探検しているときに車椅子マークのある船室も確認をした。共に働くさまざまな障害と共にある人々と、もしこの船に共に乗るならば私に何ができるだろうか。逆に私が配慮の調整や支援をお願いすることはなにがあるかな。脳内シミュレーターがいくつもの仮説を立てながらも、一人ひとり本人に聞かなければわからないこともたくさんあるなとひとり納得をしている。
私は私の障害と共に生き、共に旅していると共に、誰かの障害とも共に生き、共に旅をしている。社会の中で共生していくこと、について、私はまだよく未来が見えていないけれど、私なりの共生のあり方はこういうこと。こういうことを重ねていく中で、楽しい景色をたくさん、観たいね。目の前では水平線がどこまでも続いている。