花城から渡された霊力、その膨大な量が呪枷を外す。そんな方法は前代未聞で全員唖然とする。
謝憐は地面に倒れそうになりますが、花城が彼を引っ張り上げ「哥哥、もう一度戦ってみて!」と促します。
花城は「戦うな」とは言わない。謝憐が望むことを最大限助けて、できるように支える。この花城の寄り添い方が本当に好きだ…。
好きな人に傷ついてほしくないとか、俺が守るとか、そういう方向に考えそうなものじゃないですか。でも、自分自身の気持ち以前に、謝憐の存在を認めていて、ありのままの彼であってほしいっていう願いが一番にあるんだろう。無償の愛とも違う、とても純粋で根源からの信じて敬う気持ちという気がする。
花城が言った瞬間、君吾が誅心を振り下ろしますが、謝憐は考えるより前に腕を払う。するとはじかれる誅心。今までとまったく違う一撃に、自分の手のひらを見つめる謝憐。
こんな気持ちになったのは何百年かぶり。不屈の精神で彼自身の力をかろうじて制御するような…一歩一歩が山を揺るがすほどの力。一歩だけで千里を駆け抜け、一歩だけで天にも昇ることができるような力。かつてはこうだったことを忘れかけていた。
で、謝憐は拳を握ると君吾の顔にパンチをたたき込みます。
やっぱり物理なんだ〜!!!!!(大喜び)
まあ、地下にいる裴茗と霊文のところ行くのにも大地を拳で割ってましたからね。剣がなければ拳で殴ればいいんです。霊力ってなんなんだろうという疑問はさておいて…。
君吾の口の端から血が流れる。こんなときも気取りやがって!盛大に血を吐け!と私は野次を飛ばす。
誅心を放り投げて君吾も拳で戦うことに決める。そこから拳と拳のぶつかりあいです。なんていうか、天官賜福って少年漫画だったんだな…てなりますね。指輪物語だったらこれは起こらないもん。
さて、謝憐との戦いに夢中になり、風信と慕情の存在を忘れる君吾。
よかったですね。我を忘れて没頭できることができて。やっぱ、趣味を持たないとダメだよ。変な剣のコレクションとかしたり、他人のプライベートを知っていつかここぞというときに弱味として握っておこうみたいな考えを持たないで。これが趣味だったとしたら、ねじれすぎてるんで…でもこうなったのは飛昇しちゃったからで…。天が悪いのか!?でも天は「ただ飛昇させるだけ」なので、やっぱその後の行いは自分自身で作るものだよな。うーん、でもそしたら前の天界が最悪だったから…うーんうーん。すまん、二千年も経ってるからもう君吾を助けてあげられるルートがない。場所を変えて舞台をシュタインズゲートとかにしないと…。遙かなる時空の中で3とか…。そうすると天官賜福の話が変わるから、マルチバースで助けられたセカイを見つけるしかないのかな〜。教えてドクター・ストレンジ…。ていうか、段々、君吾のことがワンダに見えてきたかも。
風信と慕情は芳心を掴もうとしたのですが、まるで背中に目がついているかのように一撃を放たれ、橋の足下が崩れて溶岩の中に落ちそうになる二人。風信の足をつかんだのは国師で、風信は慕情の足を掴む。国師は二千歳のおじいちゃんなのに…!もう無理では?
国師は「誰が老いぼれだって!?さっさと上るんだ!」とかつての悪ガキ弟子二人に喚く。謝憐は力を使って三人を助けようとするけど邪魔する君吾。慕情は丸焼け寸前です。このひと、銅炉山に来てから碌な目にあってない…!
「早く引っ張り上げろ!」と二人に言いますが、一転、「待て。引っ張るな!」と言う。「何言ってんねん」「本気か!?落とすぞ」と二人。慕情は「見ろ!剣だ!」と溶岩の中に刺さった芳心を指さします。
芳心も二千年近いおじいちゃん剣なのに、めっちゃ大変な目に遭ってますよね。心を閉ざしてるんかな。閉ざさないとやってられないよね。謝憐の胸を百回刺すしその後謝憐とずっと一緒にいるけど別に本当の主じゃないし、使いにくいって思われてるし。その上、ここに来て何回溶岩の中に刺さってる?ほとんど足場として使われてるし…。
そういや、私は御剣のことが本当に意味わからんくて、出てくる度に不思議な気持ちになってたんですが、こないだ魔道祖師のファンアートでサーフボード、スケートボード、スノーボードを描いてる方がいらして、あっ、ようやくわかったかも〜!てなったんですよね。剣って武器なのに、乗ってたら使えねえだろって思ってたんだけど、ボードと同じ扱いならわかる。何がどうわかるかはうまく言えないが…。
友人は武士の魂だから乗ることが不敬だから納得できてなかったんじゃないかといってたんですけど、その理由は私にはなかったんですが、言われてみたら日本では刀は神に捧げるものでもあるし、神そのものという考え方もあり、それを足で踏みつけ空を飛ぶなんて考えられないことかもしれません。ここが日本と大陸の文化の違いだなあって思って興味深いです。大陸はあくまで人が主体なんだなあって。
慕情は腕を振って取ろうとするけどわずかに届かない。「あと少し下げてくれ。あと少しで届く!」しかし国師は額に血管が浮き出ていて、ほんと無理そう。「やり過ぎるな!この悪ガキ二人め。老骨に鞭打たせて!」と言いつつ言うとおりにしてあげる。このあたりは直訳でも翻訳でもなくニュアンスで読んでるので、あしからず。
なんとか芳心を手にして謝憐に投げます。「謝憐、受け取れ!」謝憐は芳心の柄を手にする!
国師は「もう二度とやらんぞ。早く上がってこい!」とぷるぷる震えている。風信がやばいなこれと思ってると、怨霊がまたぞろ出てきて風信の胸にまとわりついてくる。風信は胸に矢が刺さったままで傷ついているし、素手で怨霊とは戦えないし、国師も慕情も追い払うのは難しい。絶体絶命のところで、怨霊が離れていき、安全な場所に上がる。
「風信、お前の息子だ!」と慕情。怨霊を追い払ったのは、なんと錯錯だったのです。怨霊は二千年前の太古の霊です。彼らはこの小さな霊を取り囲む。錯錯はかみついたりひっかいたりしますが、その体はだんだんと熱で赤くなってしまいます。叫び声を上げるけど、それは全然かわいそうには聞こえずただ恐怖しか誘わない。が、それを聞いた風信は怒り狂って「大人がよってたかって子どもをいじめやがって。なんて恥知らずなクソどもだ。錯錯、こっちにおいで!」と錯錯を呼びます。
錯錯はたくさんの怨霊を倒すことができず、こわくなってきていましたが、誰かが立っているのを見てそちらに向かう。風信の肩の上におさまって泣き声を上げます。風信は弓を胸から引き抜くと、それを使って辺り一面を撃ちまくる。それを見て声を上げて喜ぶ錯錯であった。うっうっ、よかったね…。錯錯、君吾についてっちゃダメだよ。
仲間たちが危機を脱したのを見て安心しますが、そのすきに君吾が背後から羽交い締めにしてきます。動きが全てわかると言う君吾。ここから抜け出せなければ死んでしまう!が、どうやって?
「哥哥、恐れないで!彼が知らない動きがある!あなただけができて、そいつにはできない動きが!」と花城。なんて心強いサポーターなんだ…。
謝憐は君吾の腕の中で自分の方に向き直り、自分の腕を相手に回した。「これは知らないと賭ける!」と叫んで君吾を掴んで彼を運んでものすごい力で岩壁にたたきつける。何?裏投げされそうになってからの一本背負い?わからん…
ともあれ、攻撃は成功して白い鎧が粉々に砕け散ります。君吾は激昂して「失せろ、失せろ、失せろ!」と吼える。ハッとして君吾の顔を見ると、そこには三つの顔が浮かび上がっている。彼が殺したかつての部下、国師の親友たちです。
謝憐は芳心を使って彼の胸を突き刺します。岩肌に縫い止めるように。君吾の口から血がこぼれ出る。謝憐はありったけの霊力を一撃に込め、それは君吾に直撃し、いかに回復が早くともそれが追いつかないほどの傷を負わせます。
壁は崩れ、縫い止められていた君吾はそのまま転がり、地面に倒れます。
しかし、彼はまだ諦めていない。芳心を掴んで、何か呪文を、止めなければならない類いのものを口にしている。謝憐は手を上げて攻撃しようとしますが、国師が「殿下、放っておいてください!」と叫ぶ。
どちらに向かって「殿下」と言ったのかわからないけれど、謝憐は動きを止めます。国師は君吾のそばに跪く。君吾は咳とともに血を吐きながら言う。「私から離れろ」
「殿下、もうやめましょう。本当に、全てやめましょう。戦いを続けることは無意味です」「お前は何もわかっていない。失せろ!」「ええ、あなたは正しい。私は理解していない。長い時が経ちました。あなたは神であり鬼王だった。殺されて当然の者は皆死にました。あなたの望むものは全てあなたの手の届くところにあります。なぜこんなことをするんです?本当のあなたの望みはなんなのですか?何を証明しようとしているんです?」
国師の言葉を聞いて君吾の表情に困惑の色が浮かびます。しかし、それも長くは続かず、すぐに国師の首を掴む君吾。首掴むの好きすぎない?好きって話じゃない?でもすぐこのひと首掴む。
「私に説教をするな。お前にその権利はない。誰もその権利はない!」
説教受け付けないタイプだった…だから私が本の外で何言ってもダメなんだ…せめて本の中の同じ世界の住人からの言葉には耳を傾けてほしかったけど。二千年ずーっとこの人、一人で抱え込んでたんですね。しんどいな。まったく同情してないんだけど、生きる喜びがなにもないやん。
謝憐は国師を助けようと動きますが、彼は手を振って何もしないように合図します。
「殿下」国師の言葉に君吾は冷たく睨みます。君吾の力が弱まったとはいえ、まだ首をひねることはたやすい。しかし国師はなされるがままで、話し続けます。「私が殿下を教えようとしたとき、間違った道を歩んだことのない殿下を育てようとか、あなたを辱めるために殿下を利用しようという意図はなかった。彼はたった一人の彼で、あなたもたった一人です。あなたたちはまったくの別人で、別々の道をゆく。それは当たり前のことです。私は前に言いましたね、でもあなたは私を信じなかった。今はどうです?」
睨んだまま何も言わない君吾になおも言葉を続ける国師。ここの言葉が日本語でなんて言えばいいのか適当な言葉が私の語彙にはないんですが、こういう感じだろうか。「私は本当に殿下をとても懐かしく思います。烏庸国が懐かしい。かつていた人々が。飛昇する前の日々が懐かしい。それだけです」
I miss〜と続けてるんですけど、さみしいとか懐かしいとか、様々な意味をはらんでると思うので、難しい…原文だとどう書いているのか。邦訳版〜!早く〜!
「長い時が経ちました。あなたを見守ることに疲れました。とても。あなたはどうです?疲れていませんか?」
三界一の武神はいつも完璧で汚れなき存在だった。しかし今やその光は失われ、謝憐が見ることができるのは、蒼白の面立ちです。穏やかで優しい彼はどこにもない。
「殿下、あなたは負けたんです。もう自由になりましょう」とやさしく言う国師。
待って待って待って、何を勝手なこと言ってんねん何が自由だその前に裁きが必要では???少なくとも、謝憐は百万回君吾を殴る権利があるが…。
君吾は「負けた?」と途方に暮れた声を出す。
強い霊力は岩窟の天蓋を砕き、ひび割れて太陽の光が差し込んできていました。そして雨だれも落ちてくる。謝憐は君吾を見下ろす。彼は地面に横たわっていて、その表情は安堵していた。ようやく重荷を下ろせたように。
謝憐は、君吾は誰かに負かされたかったのかもしれないと考える。この破壊と狂気に終止符を打ってほしかったのかもしれないと。
とりあえず、これについても言いたいことがあるけど、クライマックスなので黙っておきます。
「あの動き。あれはなんという?」君吾に尋ねられ、技の名前?を言う謝憐。こればかりはもう英語でもわからん。「胸の上で岩を砕く」って絶対なんか熟語だと思うんだけど英語の限界を感じる。技の名前を尋ねるのは武神だからなのだろうか…。
しかし、この後君吾が驚いてるので、技の名前でもなんでもなく、ただ行ったことを説明しただけなのかも。
「見事だ」と言って笑い、ため息をつき、目を閉じる。もう彼は何も言わなかった。
謝憐は芳心から手を放し、何をしていいやらわからず花城を見つめる。花城は変わらず同じ場所にいました。彼は長い間腕を組んで謝憐を見守っていた。謝憐が振り返ったのを見て、微笑みます。
国師は君吾のそばを離れず、「殿下、あなたたちはもう行きなさい」と告げる。「師匠は来ないんですか?」「私は殿下のお供をします。結局、あの時、私はそばにはいなかった」
降り注ぐ雨は強くなり、君吾の傷口からあふれ出る血を洗い流します。三つの顔が消えたように見えましたが、それは謝憐の想像だったかもしれない。
謝憐は竹笠を背から取ると……取ると……って、戦ってる間ずっと竹笠があったの!?すごい戦いだったけど!?確かに慕情が友達になりたかった告白回の挿絵では背中にあったけど!?
ともかく、竹笠を君吾の顔にかぶせます。
背中にあったことに動揺したけど、ここもじーんときてしまう。この竹笠が800年前のものであるはずはないんだけど、竹笠をかぶせてくれた名もなき人のやさしさを思い出すから。
慕情の手首にあった呪枷はなくなり元の慕情に。錯錯は風信の方から降りて君吾にそっと触れる。その態度は風信に対するものとはまったく違っていて、釈然としない風信。
謝憐はボロボロの顔で、まるで生まれ変わったかのように花城に向かって走る。実際、謝憐は死ぬギリギリだった。そして花城に飛びつく。「三郎!」
花城は謝憐に手を伸ばしたところで、彼が抱きついてきて一歩押し戻される。うーん、この力関係がよすぎる。花城は謝憐を腕で包み、幸せそうに笑う。「哥哥、ほらね。言ったでしょう、あなたは勝つって。ね?」
そして謝憐の顔を上げて、注意深く調べてため息をつきます。「また擦り傷だらけになってる」
ちいさな銀蝶が花城の指が撫でたところにひらひらと舞って傷口を塞ぎます。謝憐も幸せそうに笑って応えます。「次はもっと注意するね!」
花城は怖い顔になって「次はないよ」と返す。
謝憐はすぐに笑顔を引っ込めて真剣に言います。「三郎、銅炉山の仲に入ったとき、私は言った。ここから出たら君に伝えたいことがあるって。覚えている?」花城は笑顔になって「もちろん。哥哥が言ったことは全て覚えているよ」
謝憐は顔を上げて、真実を告げるための勇気を振り絞ります。「君吾がこのことについて少し口にしていたけど。本当は、もっと前に君に言わなければならなかった。ただ、その勇気がなかった。君が、知ったときに、どんな反応をするかがこわくて……」「あなたが白衣禍世になりかけていたってことを知ったときに。違う?」
謝憐は衝撃で口ごもる。「君は…?」
花城ははっきり応えず、ただ、片膝を折り曲げて彼の前で跪く。そして頭を上げて満面の笑みで彼を見つめます。「どう?哥哥、思い出した?」
どうして思い出さないなんてことがあるだろうか!名前のない鬼はいつだって同じように片膝をついていた。蒼白の笑った仮面の幻影が花城の笑顔に重なります。謝憐の心臓は震え、膝がくだけて彼の前で地面にへたり込んでしまう。
「三郎……ずっと……ずっと君だったんだ!」「殿下、私はいつもあなたを見守っていました」「君は……君は……」
謝憐は、花城が発していた一見意図的ではない数々の言葉の意味をようやく理解。
謝憐は今まで一度も無名が花城だと想像したこともなかった。
花城は全て知っていた。彼は全て見てきた。彼はいつだって一緒にいた!
一度に何千もの感情と何百万もの言葉が彼の頭の中に押し寄せる。感謝もあり、恥もあり、心痛もあり、穏やかな喜びもあったが、何よりも不滅の愛があった。
うっうっ、もう泣いてええか!?胸がいっぱいになる。
謝憐は感極まってなんて自分の感情を言えばいいのか、一言も出てこない。ただ、花城に抱きついて「三郎!」って叫ぶことしかできない。もう、それしか言うことができなくて、ただ「三郎」って叫ぶ。
花城は受け止めきれなくて地面の上に座って謝憐を抱きしめて、こころから笑う。恐れも心配も全てなくなって、謝憐は花城の首に腕をまわし、笑う。泣きたくなるような気持ちになって笑う。
涙が流れる前に、謝憐は突然、何かがおかしいことに気づきます。
花城が鬼であっても、彼の身体は普通の人間と何ら変わりはない。しかし、今や彼の鮮やかな紅い服が透けている。
「三郎!?何が起こっている!?」
花城は落ち着いた様子で「なんでもないよ。ちょっとやり過ぎただけ」「どうしてもっと早く言わない!?なんでもないなんて、どうして言えるんだ!?」
花城が自分の霊力を謝憐に注いだためです。
謝憐は花城の顔を手で包み、「君に戻すよ」と言って口づける。
風信と慕情もそこにいたんですけど、二人はこの光景を見てすぐさま離れます。
呪枷はもはやなく、謝憐は自分の霊力を注ぎます。彼がすぐによくなるようにと願って。長い間キスをして離れたとき、しかし、袖も銀の腕輪も透けたまま。
謝憐はおそろしくなって再びキスをします。しかし、花城は口を笑みの形にしたまま、謝憐の顔を離します。
「哥哥が積極的なのは嬉しいけど、これ以上俺に霊力を与える必要はないよ。でも、哥哥がただ俺に霊力を貸してくれるんじゃなくて……ただキスしたいだけだったら、構わないよ。そっちの方がいいな。大歓迎だ」
「一体何が起こっているんだ?」「ちょっと休憩するだけ。それだけだよ。哥哥、怖がらないで」「怖がらずにいられるか?おかしくなりそうだ!」
花城は重大な問題でもなんでもないことのように見せるところがあるものの、もはや隠し通せるものでもない。二つの呪枷を粉々にできるほどの霊力は海くらいの量が必要で、それを渡した花城がどうして無事でいられるというのか。
謝憐が笑顔いっぱいの顔で花城の腕の中に駆け込もうとしたとき、彼を迎えたのは消えそうな花城だった。怖くないわけがない。
ああ……仙京で錦衣仙を探すときにキスで確かめようとしてた頃が懐かしい…。
慕情と風信が何が起こっているのか尋ねようとしますが、謝憐にはもはや構ってる余裕はない。心臓が止まりそうになりながら、「私に何ができる?」と尋ねます。
花城は静かにため息をついて、腕を広げ、もう一度謝憐を抱きしめます。「殿下。私はいつもあなたを見守ってきた」
これを聞くのは二回目。しかし、前より優しく柔らかい声。謝憐は頭の中が真っ白になって、ただ花城の胸あたりの服をつかみます。
「知ってる、知ってるよ。私は今、何をしたらいい?」
花城の長くて細い指が謝憐のぐちゃぐちゃになった髪を梳きます。
「殿下。なぜ私が去るのを拒んだか知っていますか?」
なぜこのときも落ち着いていられるのかわからず、おそろしくてぶるぶる震えながらも謝憐は「なぜ?」と尋ねます。
「それは、私にはまだこの世に存在している、最愛の人がいるから」
花城は静かに応えて、謝憐はかたまってしまう。この言葉は前にも聞いたことがあった。
「私の最愛の人は勇敢で気高く、優美で特別な人だ。彼は私の命を救い、幼い頃から尊敬していた。でも、彼のために追いつきたい、もっと強くなりたいと思った。私のことをよく覚えていなくても……私たちはきちんと話したことがなかったから……それでも、私は彼を守りたかった」
花城は謝憐を見つめます。「あなたの望みが衆生を救うことなら、私の望みはあなただけだ」
「でもこのままでは……成仏できないじゃないか……?」「私は成仏することを祈ったことはないよ」
その言葉を聞いて、小さな鬼火のことを思い出す。そして、誰かが尋ねて、それに答える、二つの声が聞こえる。
「もし最愛の人が、自分のせいであなたが成仏できないと知ったら、悩んだり罪悪感を感じたりするかもしれない」「それなら、なぜ私が行かないのかを知らせないだけだ」「頻繁に会っていれば、遅かれ早かれバレるよ」「それなら、彼らにも私が守っていることを悟らせない」
小さな鬼火は謝憐がいくばくかのお金で買ったものだった。鬼火は謝憐を墓場から引き上げようとした。鬼火は白無相の盾になろうとして危険に近づけさせないようにした。鬼火は剣が百回彼の心臓を貫いたとき、彼に代わって苦しみの叫びを上げた。
「殿下、私はあなたのことを全て知っている」花城は静かに言います。「あなたの勇気、あなたの絶望。あなたの優しさ、あなたの痛み。あなたの憤り、あなたの憎しみ。あなたの思慮深さ、あなたの愚かさ。もしできることなら、私を踏み台にしてもらいたい。渡った後にバラバラにする橋、登り坂で踏みつけるために必要な骨、百万本の刃の苦しみに耐える罪人にね。でも、あなたはそうしない」
喋っているうちに、どんどん消えかかっていく。謝憐は服を掴んで消えないようにする。ずっと霊力を送り続けようとしたけれど、消えていくことを止められない。
「わかった、もう何も言わないで。わかったよ…でもこんなふうになっちゃダメだ。わかった?三郎?君にたくさん霊力を借りていてまだ返してないんだ。言いたいこともまだ全て言えてない。まだまだいっぱいあるんだ。私の話を誰かに聞いてもらうのはとても久しぶりだった。ここに残って。だめだ、耐えられない。もう二度起こってるんだ……三度目はだめだ」
花城は彼のせいで二度、この世界から消えているのです。しかし、花城は「あなたのために戦いの中で死ぬのは名誉だ」と言う。それは致命傷の言葉で、謝憐の目からは涙があふれこぼれていきます。
「君は言ったじゃないか……どこにもいかないって」「終わりのない宴はこの世にはないんだよ」
もはや何も話せず、花城の胸に顔をうずめる謝憐。
「でも、俺はどこにも行かないよ」
顔を上げる謝憐に「戻ってくるよ。殿下、信じて」
彼の声はしっかりしていたけれど、もう顔も消えかかっていました。謝憐は彼の頬に触れようとし、しかし指先は空を切るばかり。彼はしっかりと花城を見つめます。花城の目はやさしく、輝いていました。彼の瞳は愛にあふれていて、何か言うけれどもう声はなく、唇が動くだけ。謝憐は諦められず、腕の中に留めようとします。しかし、彼が抱きしめて、彼を抱きしめてくれていたひとは消えてしまう。
一瞬のうちに、花城の体は何千もの銀蝶になってきらきらと煌めく。
何もなくなって、ただ腕を抱きしめる形にしたまま、動けないでいる謝憐。夢のような蝶の群れの中で膝をつき、目を見開いたままそこにいる。
風信と慕情がやってきて、「どうしてこんなことに?さっきまで元気だったじゃないか。それが呪枷のせいだって!?」と風信。慕情は「血雨探花、死んでないなら地獄から出てこい!」と言う。
銀蝶は何も答えず空に昇っていく。風信は謝憐を引っ張り上げようとしましたが、石のように動かない謝憐。
風信は「俺たちにできることは?霊力が必要ですか?」と尋ね、すでに何が起こったかを悟った慕情は「口を閉じろ。できることはない」と言う。
銀蝶は空に昇っていきますが、いくつかはさよならを言うように謝憐の体に触れる。楽しそうに羽をはためかせ、謝憐のために残っている。しかし、それも長くは続かず、風に乗って散り散りになるまで、そう時間はかからない。
ただ、謝憐の中指には輝く、鮮やかな紅の糸が残っていました。
***
さて、時は流れて……そんなに経ってないけど、裴茗の登場。
「それで?」「終わった」「終わった?」「終わった」
「それは不可能だ。これがすべてであるはずがない。私のような素人でも、まだ終わっていないことはわかる」
慕情は重い帳簿をテーブルに置いて「これが私の分だ、そして、終わった」と告げる。「全てもう一度計算できる。よく聞いてくれ、裴将軍。888万引いて666万足して……」
何やら功徳を計算しているらしい。
仙京が破壊されたあと、ちりぢりになった神官たちは集まって太蒼山に上天庭をつくることにし、新たな仙京を建設することに熱い議論を交わしておりました。大火は彼らの輝かしい黄金の宮殿を破壊し、巻物も全て燃えて、日々レンガを運ぶものの、全然口座(功徳の口座?)を整理できないのだった。
「気のせいか、最近の玄真はさらに皮肉っぽくなったような……」と言う裴茗。
権一真は未だちまきのように包帯で頭からつま先までぐるぐる巻きにされていて、巻き毛だけが頭からちょっとのぞいている。もごもごとはっきりしない声で「俺たちは何をすればいいんだ?誰がこの計算をする?」と尋ねる。
皆、視線を交わし合うが、だれもこのような仕事はしたくないのだった。
功徳の会計ってなんなの!!??8巻も読んだのに何一つわからん。
「霊文さえいたらなあ」とため息をつく裴茗。そういうことばかり言ってるから霊文はキレたんだと思いますけど。他の神官たちもみな、「二度と霊文殿が役立たずとは言わない」と口を揃える。
私は「ばーかばーか!!バックオフィスがしっかりして兵站が整ってるから前線で戦えるんだろうが!!」て気持ちですね。
雨師がやってきたことが告げられ、皆出迎える。そして別の声が「殿下!あなたもいらしたのですね!」と告げる。
131章に続く〜!