引玉を横たえながら、謝憐は君吾がなぜ呪枷を持っていったのかを訝ります。そしてひらめく。ただ血を吸い取ったからではなく、魂を捕らえているのではないかと。
で、めっちゃ怪我してる権一真を置いて君吾を追いかけます。神武殿に彼はいて、玉座に座って錯錯を撫でている。
呪枷をつかもうとするけど失敗する。まあ、なんの準備もせずに行ったらそうなるんでは…殿下、もうちょっと考えて行動してほしい。私の精神状態に影響するので。花城!早く花城、きてくれ!!
「引玉はあなたにとってはとるにたらない存在だったのに、なぜあんなことを言ったんです。その呪枷をどうするつもりですか!?」と怒って叫ぶと「そなたを怒らすことができたではないか」と平然と言う君吾。
「気違い!?」と謝憐。君吾は「その言い方は礼を失しているな」と、謝憐の首にある呪枷を締め付けて苦しめます。「前にもそなたに忠告したな。従順で敬意を持てと」それだけが君吾の怒りを回避できる方法だと告げ、「忘れてはいけない、そなたには呪枷がある。二つもだ」と言う。
国師が王都で謝憐の首に手をのばしたのは、絞殺しようとしたからではなく呪枷を取り払おうとしたからではないかと謝憐は気付きます。無意識に首に手をやり、花城がくれた銀の鎖と指輪が触れます。
うっ、この流れだけで花城の存在を感じ取れて、早く出てきてほしいと願わずにいられない。
君吾は謝憐をそっちのけで通霊を始めます。彼は相手に地師の事件から天界の警護を強めて通霊を制限したことを説明します。嘘とごまかしだー!まあ、何が起こったかを伝えてないだけで、そういう言い方ができるねという話ではある。千五百年も神武大帝として過ごしていたらこれくらいの手八丁口八丁はお手のものってわけだな。
通霊の相手は天界に来たいと言ったらしく、君吾は助けを必要としているから歓迎すると答えます。
誰と話していたのかを問うと「せっかちだな。いい子でいて協力するのだ。愚かな策略で邪魔をするな。私はそなたをよく知っている。何を考えているのか全てわかる」と言われる。このものの言い方はまさしく白無相のそれなんだよなあ…。彼は心の底から謝憐を教え諭しているんですね。
「そなたは引玉が私には取るにたらない存在だったと言ったな。全ての神官はどんなに偉大であっても私にはどれも取るにたらない存在だ」だから、誰が来ようと問題はないし、謝憐が何を明かしても何にもならないと言います。
果たして、神武殿にやってきたのは雨師篁でした。彼女は緑の道服に身を包み、黒い牛を連れて腰に剣を帯びていました。そして、大小さまざまな体格の農夫もやってきていました。
君吾は誰が来ても殺せるのに、なぜ通霊では彼女に丁寧に慎重に接していたのかと謝憐は不思議がります。
「殿下。陛下。ごきげんよう」と挨拶され、謝憐もなんでもないように挨拶を返します。そして彼女にどうやって真実を伝えようか考えを巡らせる。
三人は少し会話をしますが君吾は真実も嘘も織り交ぜて話し、雨師は異変には気づかない様子で、何か手伝えることはあるかと尋ねます。「今はない。が、捜査が完全に終わったら助けが必要だ」「では終わるまで私も天界に滞在しましょう」
彼女は神武殿を去る前に何かを思い出して振り返り、謝憐に話しかけます。
「長い間天界にいなかったので、お土産を持ってきたのです。殿下にも差し上げたいのですが、受け取っていただけますか?」
通常、君吾は贈り物を受け取りませんが、謝憐には受け取るように言います。まるで子どもに諭すように言われてなんやねんと思いつつもそうする他ないので頷く謝憐。連れてきた農夫の一人がしっかり包まれた贈り物を渡してくれます。
その瞬間、気づく謝憐。君吾に気取られないよう表情を隠し、出ていった雨師に続いて退出しようとしますが、呼び止められて贈り物は没収されてしまいます。君吾の行動、無茶苦茶。
仙楽殿で休んでいると「殿下」という声がして、急いで声の主を探す。すると、窓枠に粗末な服を着て頭を布で覆った青年が座っている。謝憐は大喜びで彼に駆け寄り、ちょっと曖昧に「君は三郎?」と尋ねます。青年が布を取ると、そこにはよく知る顔の彼、花城が。
わーん!!!待ってたよー!!!
謝憐は彼に飛びついて抱きしめて、花城も軽く笑いながらなんの言葉もないけれど彼の背に腕を回します。
この再会の表現がいいですよね。お互いの間に信頼と愛情があってさ…。それに、謝憐が甘えられる相手がいるってのがいい!
しかし、嬉しいのは謝憐だけじゃなくて私もだよ。花城がいない間ずっと不安だったんだから!花城が不在のとき、それはすなわち殿下の受難のときだから!いついかなるときもそばにいて片時も離れるな。
謝憐は下界のことを心配しますが「対処はしてきたよ。少しの間ならバレない」と安心させます。殿下が言うと私は不安になるが、花城が言うと全幅の信頼を寄せてしまうのはなぜだろう。7巻分の行いのせいかな。
花城は嬉しそうに「俺がいなくてさみしかったみたいだ」と言います。
「あー、うーん、そうだ。君は誰かの助けが必要だと言った。雨師篁のことだったんだね」「その通り。雨師篁が天界に戻るのは当たり前のことだし、もし君吾がそれを正当な理由なく許さないなら、それはおかしなことだ。だから、奴は彼女を受け入れるってわかってた。哥哥、心配しないで。あなたはこんなふうに俺を頼っていい。気にしないから」
頼もしすぎる。ずっとそばにいてくれ!!!全ページにいてくれ!!!
なぜ君吾が雨師を大事に扱うかというと、彼女が農耕を司る唯一の神官だから。もし彼女が殺されでもしたら、代わりを務められる新刊はおらず、世界の農耕が立ち行かなくなりめちゃくちゃになる。人々は信仰するどころではなくなり、そうすれば霊力が枯渇して君吾に火の粉がふりかかってくるというわけ。雨師篁、めちゃくちゃ重要なポジションじゃん!!!
雨師という強力な助っ人を得た二人は、君吾まわりのことを知っているであろう国師を探すことにします。銀蝶を使って捜索しながら、神殿の屋根伝いに移動する二人。君吾にバレない?大丈夫?
屋根を移動中、一角で謝憐は何かを思い出しそうになります。前にも一度、こんな風景があったと。しかし、思いに耽る暇もなく花城が彼を抱きしめて屋根から落ちます。それは錯錯が動き回る音がしたからで、軒下に逆さ吊りになって息を潜める二人。
そうするとこんどは蘭菖の声がする。「走り回らないで。ここは奇妙で知らないところなのよ。あなたがいなくなったらお母さんは探せなくなってしまう。どうしてこっちへ来ないの?」
我が子を追いかけようとすると、胎児の霊が入ろうとしているところが南陽殿であることに気付き、ためらいます。そして、息子が何やら口にいれているのに気づいて「ぺってしなさい!」と言うと、めっちゃでかい大根食べてて、ぺっと吐き出したら南陽殿にそれが落ちて、錯錯は追いかけていってしまいます。
君吾の忠実な部下たちは錯錯が君吾のペットもしくは猟犬と思ってるみたいで、彼がどこに行こうと気にしない。蘭菖はしかたなく錯錯を追って中に入る。花城は彼女に銀蝶をつけて中の様子がわかるようにします。
大きな広間に彼女が入っていくと、そこには瞑想している風信がいました。風信は彼女に気づいて「剣蘭!」と喜びます。そこへ錯錯が二人の間に割って入り、大根を蹴って風信にシュート。風信は怒って錯錯につかみかかり、蘭菖もとい剣蘭(ここではもう剣蘭の方がよさそうなので呼び方を元の名前に戻そう)がそれを止めます。
「どうしてこの子は君吾側なんだ」と言うと、剣蘭は舌打ちして「あんたが父親としての勤めを果たしてないからでしょ。果たしていたら母親の胎から引き摺り出されてこんなふうになってないわよ。あんたがそうしたの」とやり返す。
…これまで読んできた経験則からいうと、これも君吾がやったことだと思うんですが…。
「私は知らなかった。君は私に失せろと言ったじゃないか」
「あなたを助けるために失せろと言ったの。あなたはどこからともなく現れてこのあばずれ女の寝床にやってきたわね。何も私がわかってないとでも?あなたはあなたの太子殿下の世話をしなければならない、私の自由を買うためにお金を用意しようとした。同じ時期にね。あなたは傷ついて疲れてイライラしていた。あなたが諦めないで去ろうともしなかったから、私はあなたを送り出すことにしたのよ」
なんか、よくわかってなかったけど、戚容が剣蘭だと見抜いた時に妓楼のことを言っていたのは、彼女に悪口を言うためだけじゃなくて、本当に仙楽国が滅んだ後、身売りをしなきゃいけなかったってことなのか。だから鬼になっても厚化粧をして客引きをしていた?のか??うーん、ちゃんと読めてないな。
「確かに俺は疲れ切っていた。でも、君を迷惑に思っていない。俺は君を助けたかった!」と風信。彼は彼女を守ると約束したのです。
剣蘭は彼の胸を叩きます。「そんなことできっこなかったでしょ」となじります。風信が大道芸で稼いだお金は自分の主人と彼女に分けられ、自分を身請けするなど夢のまた夢だと。風信がくれたものは金腰帯だけ。赤ちゃんのためにくれたお守りだって守ってくれなかった。あのまま続けばきっと自分のことを憎んで顔を見るのも嫌になっただろうと。一つ言うたびに彼女はさらに怒り狂う。
それを聴きながら、謝憐は遠い昔のことを思い出します。風信は朝早くに出かけ夜遅くに帰ってきた。彼が気にもとめなかった風信の疲労、おかしな行動、お金を借りようとしたことは、すべて謝憐と剣蘭のためだったのです。
しかもこの間、謝憐は失踪したり盗みを働いたりしてるし…。
風信は従者であり彼の友人で、奴隷ではない。だから、家族を持つ自由があったのです。でも、全て謝憐の最初の追放で困難な時に起こっていて、みんなが傷ついていた。そして最後には続けていくことができなかった。剣蘭はこんな結末を予見していた。
それでも風信は謝憐を助けようとしたし、彼女には祈りの気持ちと共にお守りをあげた。彼女も生まれてこなかった我が子のための産衣とともにお守りを持っていた。役に立たなかったんだけど。
それ以上必要のないことを言う前に、剣蘭は錯錯を抱えて去ろうとします。
「戻ってきてくれ。俺はまだ…まだ、君たち二人の面倒を見たいんだ。そうしなければならない。そうする義務がある。約束する」「要らない。この子を軽蔑しているのを知っているから。いいの。気にしてないし」「軽蔑していない!」「じゃあ、どうしていつも意地悪なの?本当に息子として受け入れられる?」
私はちょっと難しいって思うんだけど…風信、できんのか…?だってこの胎児の霊、相当人殺してるんだよ…。凶でしょ…?いや、絶の花城と恋仲が許されて、同じく凶の半月も裴宿とラブ未満ならいけんのか…?
「もちろんだ」と答える風信。
「じゃあ、もう一度聞くわね。あなたは神官よ。この子を息子として認める勇気がある?」
錯錯の見た目は人のそれではなく、とても醜く、毒虫か凶悪な獣のよう。この子を息子として認めたなら、どんな神官であっても、おそらく信者と功徳に影響するに違いないのです。
答えられない風信……。
116章に続く。