1週間も書いてなかったらフツーにどこで終わってたか忘れますね。5日間があっという間なんだけど、記憶力がゴミクズ過ぎる。
えーと、前はどこで終わっていたかというと、結局、謎の紅衣の男に蒸し饅頭…そう!蒸し饅頭を取られたんや。絶対許せない。火曜日までは私はこのことについて腹を立てていたんだけど、業務に追われて忘れてしまっていた。空腹の太子殿下から蒸し饅頭を奪うなんて許されざる行為ですよ。
段々思い出してきた。感想レターでももらって「ほんまや!」て思ったんですけど、1巻のころの殊勝な城主はどこへ行ったん?ショタ花城が蒸し饅頭奪うんだったら「かわいい〜」なので私も許そう。見た目がたぶん二十代の青年がやるのは許せない。
お前がたとえベッドの上ではトップだったとしてもお前は殿下に許しを請う立場だろうが…!と謎の太子殿下ファーストマインドが働くのだった。
だって、起きたらレイプ後ってあまりにあんまりじゃない?事件だよ…。本当はそうじゃないと知っているのでまだ平静でいられるけど、太子殿下の気持ちを考えたらSAN値は下がる一方だよ…。
まあ、それはともかく、蒸し饅頭を奪われてなんか言いくるめられて和解した後、ゴージャスなレストランに連れて行ってもらった太子殿下、そしてそこでなんかいやらしい情景が脳裏に浮かんできて…てところで137章に突入です。
中指に結ばれた赤い糸と情事のシーンが浮かんできて呆然とする謝憐に「何かあった?」と尋ねる花城。一気に頭に血が上り、「お前だったんだな!!!」とテーブルをたたきつける謝憐。
さて、殿下の馬鹿力に耐えられず、テーブルは粉々に砕け散ります。やっぱなんでも物理の武力だよね!
しかし三郎は攻撃をよけながら何処吹く風の余裕綽々です。「道長、どういう意味?」と腕を組んで問う。謝憐は真っ赤になって「騙そうとしないでくれ。あなたは私に何をしたか、知っているはずだ」と告げる。「残念ながら、俺はあなたをそんなに怒らせた理由がわからない、道長。どうか俺に詳しく教えてくれないかな」
謝憐の身に起こったことをこの昼日中に告げることはかなり難しい。こんな目に遭ったことはなく、謝憐は心の底から震えて怒ります。「黙れ!私はお前を殺してやる、恥知らずめ。変態で…不道徳で…」
育ちが良すぎて全然罵れてない!私だったらボケカスクソアホって言うけどな。
三郎はため息をついて「道長。あなたが私の親切にこのように応えるとは思っていなかったよ。いったい俺のどこか恥知らずで変態で不道徳なんだ?」「私にそのように振る舞うな。その指にある赤い糸が証明してる…」
「え?」と三郎は赤い糸を見る。「これのこと?この赤い糸に何かおかしなことでも?」「私は見たんだ。あの時、あなたの手にこんな風に赤い糸があって…」「あの時って、いつ?」
いよいよ窮地に追い込まれる謝憐。
くそっ、このときの姿がショタだったら全て許すのに…!!!
謝憐は目の前の男を死ぬまで殴りたいと思う。怒りに震えていると、下から店の人がやってきて「ちょっと店の中のもんめちゃくちゃにしないでくださいよ!」と注意する。もうテーブル粉々ですもんね。ごめんね。
謝憐は「ここは危険だ!行け…」と言いかけて、彼らの手にも赤い糸があるのを見て言葉を失う。そう、見たら、そこかしこの人たちはみんな赤い糸を手につけているのです!
「みんなのその赤い糸は?」「赤い糸?赤い糸は赤い糸でさあ。何も特別なことなんかないでしょう。たいしたことじゃない、クワックワッ」
まやかしだ!!!殿下、この人たちみんなあなたを謀ってますよ!!!
しかし、育ちがよくて素直な謝憐は、流行なのかと納得しかけて三郎を見る。三郎はいけしゃあしゃあと言う。「道長、あなたの考えていることは当たっているよ。指に赤い糸を結ぶのはここの習わしなんだ。たくさん指に結ぶ人もいる」
「いったい、どんな習わし?」と尋ねる謝憐。「うん、これは花城に由来してるんだ。彼と彼の連れ合いはどちらも指に赤い糸を結んでいる。それで、人々の多くは、未来の配偶者を見つけられるよう、愛の象徴として真似しているんだよ」
「花城は恐るべき人物なんだろう?なのに、人々は彼を真似するの?」と解せない謝憐に三郎は「彼が恐るべき人物かどうかは誰と比べるかだよ。それより道長、何か落としたみたいだ。拾っても?」と言う。
怒りを収めて、謝憐は攻撃の構えもといて、ひたすら三郎に謝ります。「本当に申し訳ない、三郎。本当に失礼だった。私は先走ってあなたをまた誤解した……」
当たってるからいいんですよ!殿下が謝ることないって!!なんで私は本の中に入られへんのや…。
粉々にされたテーブルの破片の間から、三郎は金箔を拾って「あなたが落としたもの?」と見せます。それは最初に攻撃したときに袖の中から落ちたものでした。答えようとしたとき、三郎は金箔を目に近づけて「見たことがあるな」と腰の巾着から金箔を取り出して二つを合わせます。なんと、金箔は対になるもんだったらしい。
「これはあなたのだったんだね」と謝憐は口を滑らせます。「お金を落としてしまって、それで探しに戻ったところだったんだ」と三郎。
えーん、こんなのまやかしだし嘘だしお前の芝居だろって思うのに私はそれを殿下に言ってあげることもできないんだ…。
彼が誤解するのを恐れて、謝憐は急いで言います。「三郎、説明させて」「心配しないで。道長、あなたの説明を聞こう」「こういうわけなんだ、私は早い時間にこの金箔を道で拾ったんだ。元の持ち主が戻ってくるまで待ちたかったんだけど、二時間以上待っても誰も来なかった。それで……」
謝憐は頭を下げて、少し情けなくなりながら、声も小さくなる。
「それで、私は、何か食べるものを買うために少し借りたんだ。それがあの蒸し饅頭で、借りた分のお返しをたくさんつけて返そうと考えていた。でも、どんな理由にせよ、私は聞く前に使った。私を許してほしい」
三郎は微笑みながら聞いて「そんな風にならなくてもいいよ、道長」と言う。「そういうことをするのは自然なことだ。それに、飲みに誘うつもりだったことはさておき、結局蒸し饅頭を食べたのは俺だよ。小さな事でくよくよしないで。でも、これってすごいことじゃないか。なんて偶然なんだろう、俺が落としたものをあなたが拾うなんて。運命だよ」
エッ……盗みをさせないためにあの蒸し饅頭を奪ったの…!?いや…?え?なんで?どうして??いやいや、金を落とすなよ。全部が罠に見えてきた。運命とか言ってんのも意味わかんないし…罠だろ…?
しかし、謝憐は疑われていないとわかって安心する。
「三郎、あなたはもっと注意してくださいね。道ばたできらきら光っていたんですよ。どうやったらなくせるんだろう?次からは注意深くして」
落ち着いたところで、アヒルの鬼ならぬ店の給仕がやってきて「落ち着きましたか?クワックワッ。では、壊したテーブルの弁償を。クワックワッ」と告げる。おい、茶番劇、いつまで続くねん。
謝憐は請求されて黙ってしまいます。彼のこれまでの人生で、どんなに高くったって賠償金はなんでもないことでした。太子殿下だからね。血税だと思うが…。800年前のことだし深く考えないでおこう。今や彼は蒸し饅頭一つ買えやしない身の上です。
「全て俺の勘定で」と三郎。
よく言った!私は受に全額払う攻が好き!
謝憐は自分が壊したテーブルを弁償してくれて、ますます三郎に感謝します。しなくていいのに。うっうっ、17歳の太子殿下、かわいそうに。これってグリム童話の「つぐみのひげの王様」のオマージュ?違うよね?なんでこんな目に遭わないといけないわけ。
粉々になったテーブルは片付けられ、新たに運ばれた立派なテーブルにつく二人。
「道長、始めに言っていたことだけど、一体何があったんだい?誰かがあなたに危害を加えたの?」と尋ねる三郎。体の中と外の傷はあなたのせいだと思いますよ!
「なんでもないよ。たいしたことじゃない」「言いたくない?三郎が助けられないかな」
くっ…このお兄さんムーブも悪くはないけど…でもこれって茶番だし…。
三郎はおそらく善意から言ってくれてるのでしょうが、謝憐は彼の質問が自分を追い詰めているように感じ、不快に感じて席を移動します。謝憐は「本当にたいしたことじゃない…」と力なく言い、「三郎、できることなら…もう聞かないでくれますか?」と頼みます。
「もちろん。じゃあ、どうしようか。花城に会いたい、それでいい?」「ああ。三郎は方法を知っている?」「もちろん。でも、彼に会うのは数日は難しい」「どうして?」「彼は連れ合いと一緒にいなければ。体調を崩しているらしい。何かに割く時間がないんだ」
なるほど、花城はなかなか感傷的な人でもあるらしい。謝憐は花城のイメージをワンランクアップする。
「わかった。会えるまでどれくらいかかるだろう」「早くて三日、長くて五日かな。心配しないで、道長。待っている間に過ごせる場所を探そう。行く当てがないなら、俺のところに来ない?俺の家は大きくて、あまり人が住んでいないんだ」
こうして花城が謝憐を家に誘うには二度目ですね。なんか、動物の求愛行動みたい。
謝憐はいっそう感謝する。「あなたはなんていい人なんだ」
これまで、このようにあけすけに人を褒めたことがない。ちょっぴり恥ずかしくなるけれども、これ以外に言葉が出てこないのだった。
三郎はとても喜んでいる様子で、「もうずっとお互いを知っているような気がするからだよ」と言う。
これ、花城はほんとに喜んでるんだろうな。太子殿下だったころ、いくつか言葉を交わしたかもしれないけれど、謝憐の視界に彼は入っていなかったわけで…。だから、突っかかってくるのもかわいいし、彼のやることなすこと何もかもが新鮮に見えているのかもしれない。
「そういえば、大事なことを聞き忘れていた。道長、あなたはいくつ?」「私は十七だ」「十七歳。俺より下だ」
これ!これも花城にとっては嬉しいシチュエーションなのでは?
謝憐の目には三郎は二十歳くらいに見える。より親しげに三郎は続けます。「じゃあ、道長は俺のことを哥哥って呼ばないとね」
謝憐は王族です。そんでもってこの上なく尊敬されるべき太子殿下です。なので、こんな風に親密に誰かと接したことはない。ましてや、兄と呼ぶような間柄はない。謝憐にとってはまったく革新的なアイデア。
「わかった。じゃあ、三郎兄さんだね」と微笑む謝憐。
三郎は笑顔でしたが、「兄さん」と聞いたとき、言い表すのが難しい奇妙なものが含まれていました。しかし、それは三郎の目が輝いたからかもしれない。彼がより熱心に見つめてくるので、謝憐は肌が焼けるような気になる。
「何かおかしい?」「なんでもないよ。ただ、幸せなだけだ」
笑いながら三郎は説明します。「俺より年下は家にはいなかった。だから、そういう風に呼ばれたこともない」「じゃあ、もし三郎が嫌じゃなければ、私はあなたをそう呼んでいい?」「もちろん。俺は気にしないよ。あなたの心のままに、道長」「わかった…。それで、三郎兄さんの家にはいつ行く?今、それとも、後で?」「今から行こう。ついてきて」
三郎の家はクソデカだった…。仙楽の宮殿と同じくらいデカかった。こんな家に住む三郎がフツーの男であるはずがない。
その夜、横になる謝憐。しかし、彼は夢見が悪くベッドの上で何度も寝返りを打ちます。夢の中で、彼は動きたいのに誰かに押さえつけられています。彼の耳元ではあるときは男の、あるときは少年の声がささやいてきます。それは哥哥と呼ぶこともあれば、殿下と呼ぶこともあった。やさしく、意地悪く、しかし一緒にいると嬉しく感じるようなそれ。
起きると汗でびしょびしょになっていて、ベッドに拳をたたきつけて頭をかきむしる。どうやったら忘れられるのか。このならず者を捕まえたら絶対に…と考えているうちに、ふと枕元を見ると服が用意されている。それは好きな色の装いで、デザインも気に入りました。
急いで風呂に入って、そこで初めて首に掛かった銀の細い鎖に気づく。とても美しい水晶のごとき透き通った指輪が通っていて、いつからつけていたのか全く意識していませんでした。
「こんなもの、持っていたっけ?」と不思議に思っていると、影が視界をよぎり、謝憐は水しぶきをかけます。よくよく見ると、そこにあるのは湾刀。柄のところにある銀色の細い線が動いたと思うと、ゆっくり開いて目玉がぎょろりと動き、ぐるぐる回り始める。
「なんやこれ!?」と驚く殿下。まるで生きているかのようです。しかしその動きは懐いているようであり、なんだか無碍にできない。そこへ紅い影もやってきて、湾刀を掴む。
「ここにいたんだな」
三郎は浴槽のそばに立ち、笑っているものの額に血管を浮かばせているのだった。そして「ここに来るなと言わなかったか?」と強く叩く。
「三郎、その湾刀はあなたの法器なの?」と尋ねる謝憐。こちらに向いたとき、彼の表情は落ち着いたものに戻っていました。
「たいしたことのない役立たずのゴミだよ。哥哥…じゃない、君の兄さんは馬鹿なことをした。許してほしい」
しかし謝憐は目を輝かせて三郎に尊敬の眼差しを向けます。
「ううん、三郎兄さんはすごいね!こんな法器を創り出せるなんて!」と褒めまくる。すると、三郎に叩かれてぐったりしていた湾刀は幸せそうに目をぐるぐる回し、殿下にすり寄るムーブをするが、三郎は許さない。そして冷たく、また叩くのだった。湾刀は床の上で、大人に叱られ駄々をこねる子どものごとくゴロゴロ転がる。厄命、かわいいですね。
かわいそうになって謝憐は立ち上がります。
「待って、三郎、許してあげて。もう叩かないで。この子は私に挨拶しにきただけだよ。そんな風に叱らなくて大丈夫」
ハッと自分が裸でいることに気づいて顔を真っ赤にしてすぐに浴槽につかります。
これ…お風呂イベントだったんか!?天官賜福のご褒美イベントっていつどこで起こるかわかんねえな…。
三郎はすでに出て行ってくれていました。よかった!(よかった?)
謝憐は新しい服に身を包んでホッと一息つきます。服はよい素材で作られており、やっと気持ちも落ち着く。
応接間に行くと、三郎が待っていました。そして、どうやって躾けたのやら、大人しく腰におさまっている湾刀。動いていないと、冷たくおそろしい武器に見えます。さっきの珍騒動など想像できません。
「目は覚めた?昨日の夜はよく眠れたかな」「それが、半分はうなされていて。でもその後はよく眠れたよ」「疲れたでしょう」
こんな何気ない会話をしてその日は過ごしました。花城に会えるまではこういう風にここで待つんだろうなと考える謝憐。
その夜も熱く休むことのできない夢を見ます。
……欲求不満なのでは!?違う!?
ともかく、また汗びっしょりになって途中で起きて、怒らずにはいられない。落ち着くために部屋を出て散歩していると、声が聞こえてくる。クソデカ屋敷の奥には花城の執務室があり、そこから聞こえているようです。この屋敷の遮音性は高く、声も小さかったのですが、殿下の優れた聴覚は聞き逃さないのであった。
扉の細い隙間から三郎が座っているのが見えます。何やら筆を持って書こうとしている様子。いつも謝憐と一緒にいるときとは雰囲気が違って、そのそばには鬼の面をつけた黒衣の男が控え、彼に報告していました。
引玉!よかったー!!復活してた!!!
この鬼の面をつけた男は気配がほとんどなく、注意しなければ気づかないような存在感のなさ。謝憐が聞き耳を立てていたときにすでに報告は終わっていましたが、かろうじて「長い間その妖怪は悪さをしていました」「おそらく、信者を助けにいって巻き込まれたのではないかと」「私が特定した場所です」というのが聞こえる。
「俺は彼のそばにいなければならないし、出かけられない。明晩までにそいつを捕らえて俺の前に連れてこい」「はい。虫の息の状態でいいでしょうか?」
三郎は筆を置き、自分が書いたものを一瞥して不満をあらわにしてすぐに紙をぐしゃぐしゃにしてしまいます。
「ああ。飲み込んだものを吐き出させて、その役立たずの頭を粉砕しろ。ゆっくり、痛みを与えながらな」
鬼の面をつけた男は三郎の命令にうなずいてその場を去る。急いで隠れながら、「三郎は一体何者なのだろう?妖怪って…?」と謎、増える一方。
なんやその妖怪はずーっと悪さして重要なもんを飲み込んでるらしい。そして三郎はめっちゃ怒ってて、そいつの頭を砕きたいけど謝憐と一緒にいるから無理で、自分ではできんらしい。
このざっくりとした捉え方、好きだな。(関西弁ではない)
謝憐は深刻に考えます。三郎は彼にできる限りのもてなしをしてくれたのです。そこでひらめく殿下。
どうしてこんなところで座っている必要がある?花城に会えるまでの間、彼のよき兄たる三郎のためにできることがあるのでは?彼のために妖怪を捕まえるのだ!
やめろー!殿下の「いいアイデア」ってよかった試し、ないから!(好きなキャラでも信用はない)
すっかり考えがまとまり(まとまってない)、「心配しないで、三郎兄さん、憐はすぐ戻ります」といったような書き置きを残して出発したのだった!行動が早すぎる!Fate/Stay Nightでいうとセイバーが花城で士郎が謝憐!ひとつも大人しくしてくれない。しかし、自分のこと「憐」って言うのかわいいな。
さて、鬼の面をつけた男が報告していた場所を見つけるのはそれほど難しくありませんでした。南にある、ありふれた山のありふれた洞窟の中でした。今や普通の身体能力ではない彼は三郎の部下より早く着くはず。案の定、二時間後には彼は問題の山に着き、突撃して泣きわめく鬼やら幽霊やらを手当たり次第にぶちのめす。やはり力!やはり物理!
目的地では、妖怪は三百か四百ほど手下を使って守らせていたようですが、殿下には三、四人くらいも同然の戦力です。
最初は相手が手強いのではないかと心配して無謀な行動はしなかったが、近くから洞窟を辛抱強く観察していると、噂話をする手下たちから、この怪物も数日間大変な日々を送っていたことを知ります。
ところで、この妖怪の名前は「山竹」というらしいのですが、マンゴスチンのこと?なんか由来があるのかな…。中華文化のことを全くわかっていないため、何もかも素直に、考察もせずに読んでいる私なのだった。
「お頭、死ぬほど怖がってるよな」「俺たちをみんなここに集めてさ、仕返しがこわいらしい」「道士をほとんどかじったんだろ?起き上がれないはずだよなあ」「あっという間にお頭をのしたんだぜ。こわがらないわけないだろ?」
そこで、今だ!と「こんにちは」と姿をあらわにする殿下。
手下たちは飛び上がって「誰だ!?」「こりゃまたこんなかわいい小さな少年が、一体どこから?」と騒ぎます。
謝憐はにっこり笑って、もちろん説明なんかせずにぶっ飛ばす。
「何がかわいくて小さな少年だ!やさしい顔してとんでもなく凶暴だ!」と蹴散らされる手下たち。道ばたに生える雑草を刈り取るごとくなぎ倒す。ようやく親玉を引きずり出すと、そいつは腹を押さえながら泣き叫んで転げ回ります。その腹はとんでもなく恐ろしいものを飲み込んだのか、めちゃくちゃ膨らんでいる。
謝憐はそいつに近づいて「何が起こった?」と尋ねます。
「ああ!いいときに!!もう何も食べないよ、誓う!もう二度としない!あんたから飲み込んだものを返す!消化できないんだ…消化なんてできるものか!」「人違いじゃないかな?」と不思議に思いながら、先に封印しようと、さらさらと符を書いてそいつにはりつける。すると、驚くことに、妖怪は不倒翁に変わってしまいます。しかも、ふつうの不倒翁に比べると腹がふくれている。
符に書く言葉を間違えたかなと思いつつ、結果オーライ。山にも日が昇り意気揚々と街に帰る謝憐。
三郎に何かしてあげられた。ウキウキしながら、どうやって三郎に見せようか考える。とにかく驚いて、喜んでもらいたいのです。なんていじらしいんでしょう。
ずっと夜を徹して暴れ回って歩いたので足が疲れていた謝憐は、街に入ると適当な屋台に座って無料のお茶を飲みます。飲んで一息ついていると「謝憐!」と名を呼ばれる。
すぐに茶碗を置いて辺りを見回す。というのも、こんな公衆の場で彼の名が呼ばれることはあり得ないことです。彼の名を気軽に口にすることができるのは王族だけなのですから。
振り向くと、木のタンスを運んでいる男が呼んだようです。もちろん、一般の市民です。彼はもう一人に「待て!止まれ!謝憐を忘れているだろう。これも一緒に持って行け」などと言うではないか。
自分のことを呼んだのではないとわかったものの、同じ名前を持つ誰かがいることにショックを受けます。だって、王族の命名法なんて知らなくても、彼がそこらへんのひとと同じ名前をつけられるわけがないのだから…。でも実際には気軽に呼ばれている。
見守っていると、「謝憐」はどうやら人ではないらしい。
「謝憐を持ってきたよ。もう片方を忘れないようにな。迷信だと思っちゃいかん。一緒に祭らないととんでもない不運が舞い込むぞ」
いても立ってもいられず、謝憐は二人に声をかけます。
「そのタンスの中には何が?」「言わなかったかね、謝憐さ」「でも、それは仙楽太子でしょう」
二人の男はおかしなものを見る目になる。
「誰も彼が太子じゃないなんて言ってないよ」とタンスを開けて見せる。すると、その中には小さな神棚(と便宜上使います)があり、ホコリまみれの神像がありました。それは白い道服に竹笠を背負った道士でした。
「この神像が仙楽太子、謝憐なの?」「他に誰がいるんだ」「変な兄ちゃんだなあ。あんたも道士のようだが、そんな当たり前のことをなぜ知らないんだい」
すると、ぞろぞろと集まってきて人だかりができます。彼らは皆、神像を見て「かわいいガラクタ仙人の像だ」「このかわいそうな表情!」「疫病神の姿だねえ」なんて口々に言う。
「が、ガラクタ仙人?彼がガラクタ仙人ってどういう意味!?」と動揺を隠せない謝憐。
「道長、あんたは本当に変な人だな!謝憐は元々、ガラクタ収集家だっただろう」
謝憐はもともとすぐに怒るタチではないけれどもこれには我慢ができず「君たちには仙楽の王室に恨みでもあるのか?もしそうだったとしても、太子をこんな風に扱うのは適切ではないんじゃないか」と言います。すると、人々は顔を見合わせて笑い出します。
「何を言ってるんだ!何処の国の適切の話をしてるんだい。仙楽国は800年前に滅んだだろう!」
2時間後、謝憐はまだ通りをさまよっていました。
もうたくさんです。ぞっとすることばかり。
どうやって仙楽国が滅ぶ?父も母も素晴らしかった。私が滅ぼしただって?戦に負けたのか?私が自分の国を滅ぼす?2回も罰を受けた?ガラクタ集めになった?
何度も何度も考えてはそのたびに否定する。
しかし、800年は確かに過ぎていたのです。
どうやって?800年経って、どうしてこんなことに?
仙楽国は滅び、彼の両親は死に、風信と慕情は飛昇した。そして彼はガラクタ収集家です。
一体何が起こってこんなことに?
無間の闇が彼を追ってきて、それから逃れるように走り出す。
うっ…かわいそかわいい…ごめん殿下…この愚かな考えをゆるしてくれ…かわいい…
そこへ紅い影がやってくる。
「道長、どこに行くの。俺はずっとあなたを探していた」
三郎は微笑んで近づき、彼の手を取ろうとします。
「近づくな!」と叫び、飛び退る。「何かあった?」三郎の手は空を切ります。謝憐は拳を強く握って冷たく問います。「あなたは一体誰だ?何を求めている?」「俺たちは昨日、楽しく過ごしたでしょう。細かいことを議論しなくてもいいんじゃないかな」「あなたは私に嘘をついた」「わかったんだね」
今は800年後であること。彼が隠す必要などなかったはずです。
「殿下」「近づくな。近づいてみろ。あなたを打つ」
恐ろしさで謝憐の体は震えていました。魔や神が現れようと恐れはしません。この見知らぬ世界がこわかったのです。ここでは誇りも栄光も忠実な部下も彼を愛した両親も国も彼を慕う人々もいないのです。何も、何も、彼にはない。
「こわがらないで、殿下」
それを聞いて謝憐は表情を変えます。夢の中で彼にささやいていた、あの声と同じです。
「あなただったんだ…本当は、あなただった」
この男こそが、彼をこの輪のなかにおさめて感謝で彼を泣かせてよい気持ちにさせて、彼のことを哥哥と呼んだ人物なのです。(英語でも何を言ってるのかわからん…)
「嘘つき!」
彼の一撃は三郎の胸を打ちます。続けざまに打とうとしたとき、体が動かなくなる。体が拒否しているのです。三郎に手を掴まれて「触るな!嘘つき、嘘をついた!絶対に信じない!」と喚きます。
「殿下、信じて」「嫌だ!私は…」
しかし、またも「信じない」という言葉が出せなくなります。
三郎は彼を抱き寄せ、髪に何度も口づけを落として優しく、柔らかくささやきます。
「こわがらないで、殿下。全部過去のことだ。殿下、終わったんだよ」
抱きしめられながら、夢の中での彼の声はいつもやさしかったことを考えます。何故、彼を最初に見たときに信じようとしたのか。800年後に何か複雑なことがあったのだろうとようやく理解する。体も心も彼と戦いたくないのです。
「どうして私は800年の間のことを忘れているんだろう」「俺のせいだ。二日前、真夜中に信者からの祈りが届いたんだ。あなたに法力を補充する前、そしてかみついた妖怪が記憶を奪うことを警告する前にあなたは飛び出していってしまった」「あなたのせいじゃない。私がめちゃくちゃだっただけだ」「殿下はめちゃくちゃにはならないよ」
「三郎、それで、私はどうやって仙楽を滅ぼしたんだろう」
謝憐は人々を愛していました。国を、千年続くものにしたかったのです。
もっと強く抱きしめて、三郎は言います。「あなたのせいじゃない」「どう失敗したんだろう?どうやってこんな風になった?」
謝憐には自分が原因であるという確信がありました。そうでなければ、三郎が、謝憐が800年後の未来にいることを隠すはずがないのです。
「失敗してないさ」「でも、私には1人の信者もいない」「いるよ」「ゴミ集めのガラクタ仙人なんだよ。私に信者はいないし、誰も神として扱ってくれない。誰がガラクタ集めを敬ってくれるんだ?」
「言わなかった?あなたには信者がいる」
謝憐が見上げると、三郎は彼に向かって笑いかけます。
「殿下、花城に会えると言ったでしょう。今、彼に会った」
彼の顔を見つめて、謝憐は困惑して尋ねます。
「三郎、あなたはいつ私に出会ったの?」「ずっとずっと昔に。あなたが飛昇する前に」
謝憐はゆっくりと目を瞬かせます。
「殿下、今のあなたは800年前の失敗について考えていると思う。失望しているし、受け入れられないと思う。でも、俺を信じてほしい。それが真実じゃないと言ったことを」
彼の輝く左の瞳が謝憐を見つめます。そして、彼の声には光がありました。
「あなたは俺を守ってくれた。俺はずっと見守ってきた。あなたより成功した人はたくさんいたが、誰も俺を、あなたがしたようには救わなかった。あなたがしたようには誰もできない。あなたにはわからないだろう、どれだけの勇気を俺に与えてくれたか。今の俺があるのは導いてくれたあなたがいたからだってこと。俺の心の中では、あなただけが神だ」
「それで、あなたは永遠に私の、最も敬虔な信者なんだね」
謝憐は袖の中に妖怪を入れていたことを思い出し「これが私の記憶を飲み込んだんだね」と取り出します。それを花城は謝憐の手から取ります。「そいつの新しい縄張りに侵入したのは殿下だったんだね」
「私の記憶を元に戻そう。どう?」
花城の手のひらの上で不倒翁は大きく口を開ける。すると、無数の火花が出てきて殿下の周りで踊るように煌めきます。
「殿下、それに触れたらあなたは800年分の過去の記憶を取り戻せるよ」
謝憐は火花に触れてかたまります。800年の記憶が中に流れ込んできて、旅をするように駆け巡る。100回心臓を刺された苦しさも、敗北の屈辱も、無力なことへの怒りも蘇る。
後ろに立つ花城に身を預けて記憶を受け取る。花城は謝憐の腰に腕を回して支えてくれます。
「時間がかかってもいいよ。いつだってあなたを待つ。また会えるよ。信じて」
そう、また会えるのです。謝憐は全ての光が彼の中に入る前に言います。「あなたに会えて幸せだ」
ゆっくりと前に倒れる謝憐をつかむ花城。目を開けるや否や、「哥哥?」と尋ねます。謝憐は花城の顔を両の手で包み、満面の笑みを浮かべる。
「また会えた」「言ったでしょう、俺を信じてって」「これって、また会うのに800年かかったってことなのかな」「いくら時間がかかっても、いつだってあなたを待つって言わなかった?でも…」
謝憐を抱き寄せて顔を合わせ、花城は手を握って笑います。
「今は、もう1分だって離れたくないな」
「おかえり、哥哥」「むう」「ね、また会えるって言ったでしょう。嘘はついてないよ」「本当かな?」「もちろん。俺が殿下に嘘をついたことがあった?」
謝憐は花城の服から紙を取り出します。
「憐は三郎兄さんの親切にお返しができません。そこで、私の兄さんの心配を全て解決したいと思います。少しの間離れますが、心配しないで。三郎兄さん、憐はすぐに戻ります」
謝憐が読み上げるのを聞いて、眉を上げて、手を背中に回して黙る花城。
「三郎兄さん。すてきな兄さん。君はずいぶんいい人だったみたいだ」
花城は笑い出します。「俺がどれだけいい人か、哥哥は知ってるでしょう?」
謝憐は少し顔を赤らめます。「君が何を言っているかわからないな。ともかく、ここ数日、君は一線を越えている。自分の行いを振り返ること」
「哥哥、そんな風にしないで。この48時間、ずっと俺は礼儀正しく過ごしていたんだよ。自分を抑えるのはとても大変だった」「礼儀正しいって?君は…君は…」
わなわな震える謝憐。彼は明らかに謝憐をからかって楽しんでいたのです。この二日間のこと……無邪気で、世間知らずで、愚かで、甘やかされ、ちやほやされ17歳のクソガキに逆戻りして何度も何度も花城に翻弄されたこの二日間を思い出して、自分自身を直視するのがやっとの謝憐。うめいて額に手をあてるしかできない。
真面目な声で花城は付け加えます。「本当だよ。たとえ哥哥に怒鳴られ、卑劣で恥知らずな変態野郎と罵られたとしても、三郎に不満や後悔はない」「……」「哥哥、もし嫌なことがあったら、彼に怒鳴ったらいい。三郎は気にしないよ」
これ以上聞いていられない。謝憐は額に手を当てたまま忍び足で歩き始め、花城が振り返った時にはもういなかった。
「哥哥?逃げないで。わかった、俺がばかだった。哥哥!」
「哥哥」はもうやめてくれ!と思う謝憐なのだった…。
終わり!