Kindleまとめ買いセールの時に買っていた『鎮魂』を読みました。めっちゃ面白かった〜。
魔道祖師読んでみるか…その前にさはん1話をKindleのサンプルで読んで作者の感じ掴んどこう…て感じでKindleでダウンロードしたら、毎回おすすめで出てくるのがPriest先生の作品です。今もめっちゃ出てくる。
とりあえず完結してるやつ!ということで、鎮魂を買っておいたんですが、その後、魔道祖師と人渣反派自救系统と天官賜福で忙しかったので積ん読にしてたんですよね。
昨日、仕事を休んだので「今や〜!」と読みました。
舞台は中国の架空の都市、龍城。幽鬼の類いが起こす、奇怪な事件を主に取り扱う特別調査処(一応、警察の管轄ぽい)の所長・趙雲瀾が主人公です。彼は龍城大学で起きた殺人事件を捜査し、そこで教授の沈巍と出会います。物静かで穏やかな教授は捜査に協力してくれるものの、趙雲瀾にはどこかよそよそしい。賑やかな特別調査処の面子と怪事件を解決しながら沈巍に惚れた趙雲瀾は彼の気を惹こうとあの手この手を尽くすが…。
というのが冒頭でして、この後はネタバレです🎶
趙雲瀾はハンサムな快男児で横暴だけど魅力的…というキャラクター。特別調査処には人間はほぼおらず、鬼女や蛇女、生臭坊主にゾンビを操る罪人、そして人の言葉を喋るデブの黒猫…。
この特別調査処は冥界とつながりを持ち、なんか世界の秩序を保つ機関らしい。趙雲瀾は鎮魂令というお役目の証みたいなのを持っていて、その令主と呼ばれており、冥界の閻魔大王や獄卒にも敬意を払われる存在です。また、冥界からは斬魂使という黒マントに身を包んだ顔の見えない死に神みたいな鬼でもなく神でもない、獄卒たちも恐れる存在がいます。この斬魂使と趙雲瀾もよい関係です。趙雲瀾は憎めない男なのだ。
物語は郭長城くんというポンコツ青年が親戚のコネで特別調査処にトライアル入所?するところから始まります。まあ、いきなり、女性の腹が割かれてはらわたぜんぶ喰われる事件が起きるんですけど…。
大学で起きた凄惨な事件は人間が起こしたものではなく、冥界から逃げ出した餓鬼が犯人。犯人じゃないか。犯鬼…?第1部の「輪廻晷」では、タイトルにもなっている輪廻晷というアイテムがからんでおり、どうも餓鬼だけではなく、単発の事件じゃないらしいことが示唆されます。
ここで趙雲瀾は沈巍と出会い、彼に惹かれて告白までするのですが振られ、しかし振られたのにも関わらず沈巍とはその後も縁があり、「お前俺のこと好きだよね!?」と思いを募らせる。そして、なんやかんやで2人は1万年前から因縁があることがわかるのだった!!そして自分がトップだと思って猛攻していたが、くっついた後はボトムなのだった!!!
話自体は怪奇ものというか、伝奇ものっぽくて、笠井潔や夢枕獏のどろっとしたところがさっぱり描かれているような印象でとても読みやすいです。
主人公の趙雲瀾がとても明るくさばさばしているので、重たくなりすぎない。2000年代のラノベの主人公ぽい感じだな〜と思って、なんだか親しみやすかったです。
一方の攻たる沈巍は暗くはないけれど趙雲瀾とは対照的で冷静沈着で真面目、趙雲瀾がからかうのに顔を真っ赤にして照れてしまうような純朴な青年です。が、クソデカ感情を抱き、しかも輪廻転生を繰り返して毎回リセット、新しい人生を歩んでいる趙雲瀾と違って一万年生き続け、趙雲瀾を見守っていたので、だいぶ煮詰められています。
どれくらい煮詰められているかというと、自分の部屋に歴代(?)の趙雲瀾の肖像画を飾り、今世では写真を飾っています。サスペンスに出てくる犯人か???
が、すでに私は天官賜福で一万体の神像を彫った攻を知った身…。まあ、そういうこともあるかな、と流そうと思いましたが、趙雲瀾と面と向かって出会う前から彼の部屋に忍び込んで寝顔を見つめていたというエピソードを知って「ダメだろ!!!!!」と叫びました。叫んだのは比喩表現ですが「エッ」て声は出た。
いくら好きでも、まだお互い親しい身になってないときにそれは、あかんのとちゃうか???趙雲瀾はたぶん、知らないんですよね…!物語が終わってもこのことを…!いつかバレそうだけど。
どうして彼がこんなに煮詰まっちゃったかというと、1万年前の出会いにまで遡らねばなりません。2人の縁というのはそもそも彼らが世界に顕現したときから始まっています。趙雲瀾の魂は崑崙君という、崑崙山の化身で、ざっくり言うと山河を司る神です。
世界は盤古が作って伏羲と女媧が人と文化をつくり、しかし土の中に邪気というか怨念というか、そういう悪いものがたまってきて、人は泥から作ったものなので生まれながらに悪い気があり、進化していくごとに戦乱が起きるように…。盤古は天と地を分けたところで力尽きて「あとよろしく」と伏羲と女媧に世界を託し、伏羲は怨念がたまりすぎてもうダメ〜てなったところで「封印しとくからなんとか維持してな」と妻たる女媧と、崑崙君に世界を託して力つきます。
そうこうするうちに怨念はたまりまくるし、人は戦争しまくるし、怨念から魂を持たない鬼族が生まれたり、巫族という人とは違う種族もいたんだけど、二つの種族も人族と協力したり裏切ったり裏切られたりを繰り返して、結局巫族は滅亡。天に穴まで開いてしまい雨が降り続けて洪水が起き、もはや全て滅亡寸前…というところで、今度は女媧が最後の力を振り絞って五色の石で穴をうめる。崑崙君は崑崙君で自分の体を使って伏羲の敷いた封印「大封」を維持するために消える。魂は、神農がつくった輪廻の輪に入れられて、崑崙君としての力も記憶もないまま人生を全うしては再び生まれることに…。で、何度目かの人生が趙雲瀾としての生なわけです。
この、太古の記憶というのは物語の中でそこまで大半を占めてるわけではないんですが、タイトルが何故「鎮魂」なのか。生と死とはなんなのか。生きるということはどういうことなのか、というテーマの発端となっています。
崑崙君は顕現してから生と死というものに諦観みたいなものを持っていて、女媧が人間をつくってその行く末がわかってかなしむこともわからないし、どうとでもなれ、みたいな投げやりなところもあった。
彼の持つ魂火がうっかり神農のミスで大封にぶつかり、そこから鬼が生まれるようになったのですが、崑崙君がぶらぶらと歩いているときにとても美しい鬼と出会う。それが沈巍でした。彼は生まれながらにして強い力を持ち、少年鬼王と称されていました。他の鬼と同じく弱い同胞を食べて暮らしていましたが、崑崙君と出会って「文化」に目覚めます。ひよこみたいに崑崙君についていって慕う。鬼の歯を集めて作ったネックレスをあげたりする。かわいい。
少年鬼王は彼が抱く感情が恋慕というものだと知らず、崑崙君に「ずっと一緒にいたい」と願いますが、すでに崑崙君は体を封印に使っていて、消える定めでした。崑崙君は自分の背骨を彼に与えて、神の属性を持たせます。鬼でもあり神でもあり、鬼でもなく神でもなくなった沈巍は彼の代わりに大封を守ることを誓います。そして、彼の前に名乗り出ないこと、接触しないことを神農に誓わされ、一万年の間、崑崙君の魂を持つ人間を見守ってきたのでした。
少年鬼王がかわいすぎるんでずっとそのままでいろ!と願いましたが、物語の始まりからすでに沈巍だったので、私の願いはむなしいのだった…。
沈巍は「彼を守るため」と言っていろんな策を講じて趙雲瀾が再び大封に自らを捧げないように暗躍します。そのため、物語のほとんどの謎は沈巍が原因です。いや、他の鬼とか、冥界の権力構造によるいざこざとかあるんやけど、たいてい、何かやってるのは沈巍です。斬魂使は沈巍で、彼は顔を隠したまま趙雲瀾とよい関係を築こうとしていました。……いや、会ってるやん!!!全然我慢できてない!!!
鎮魂令を持つ令主と協力して封印がほころびないよう対処しないといけないから、職務ではあるんですけど、基本的に趙雲瀾と共に過ごすチャンスは逃さない、が沈巍の行動原理です。そのくせ、趙雲瀾と必要以上に仲良くなってはいけないと思っているので距離を取ろうとするのに、趙雲瀾が見ていないところではずっと見つめているんですよ。
物語の中盤で趙雲瀾は断片的に自分が崑崙君であることを思い出し、沈巍も自分を好いていることを知って、2人は結ばれます。結ばれた後は沈巍はますます趙雲瀾を一番に考え、煮詰められた想いの丈をぶつけ、肝心なことは話さなかったりするので、ねじれたりします。趙雲瀾はずっと真っ直ぐなのにな…。行き過ぎた愛情をぶつけられて趙雲瀾が「なんなんだこいつ」って若干思ってるとこがあるのが面白いんですよね。
しかしいかにねじれていようが、私は3巻の表紙だけで全部オッケーになってしまう…出会いがおねショタだから…。年下攻って本当に素晴らしいな!額に口づけされたのが嬉しくて、50年後に大きくなって再会したとき崑崙君にほしいものを聞かれて「あれをしてほしい」って言って唇に口づけされるの、かわいくて噛みしめてしまう。真心しかあげられないっていう崑崙君もすごく好きだ。
1万年の縁であっても、重たさを感じないのは、話が2人のことだけで進まないからでしょう。特別調査処の仲間たちがいい味を出していて、呼んでいてとても楽しい。それに、趙雲瀾は沈巍のことを愛しているし今世では彼と共に添い遂げることを覚悟していますが、彼だけが趙雲瀾の世界ではない。
趙雲瀾は終盤、沈巍とともに死ぬことを覚悟します。それは彼にとって普通のこと。しかし、神農のすり鉢(薬草などを砕いていたすり鉢が神格化したのだ)に、「自分が死んだら、自分の姿になって親父と母ちゃんのそばにいてくれ」って頼むんです。誰かを切り離したりするんじゃなくて、心の中に誰かを置いたまま、選ぶ人なんだなあと思った。ここが一番好きなとこだな。
1万年前の神話のことと現代のことをコンパクトに三巻にまとめているのは本当にすごい。あと、濡れ場は描かれていないんですが、濡れ場の前後の描写がエロい。描かない方がいやらしくなるんだ。
崑崙君は神で泰然としているけど、趙雲瀾は崑崙君であり趙雲瀾であって、人として生きてきた彼の魅力が描かれてるのもよかった。趙雲瀾だから、このルートを選べたんだなって思う。
崑崙君と少年鬼王のやりとりも好きなんで、もっと読みたかったというのはあるけれど、メインは今世の彼らなので、我慢しよう。妄想することにする。
メイン2人のことばかり書いてしまったけれど、この話が魅力的なのは特別調査処のメンバーたちがめちゃくちゃで素敵だから。初めてのPriest先生の作品がこれでよかった。次は英語版の杀破狼を読もうと思ってます。