113章のメモ書いてから114章を読んで寝たんですけど寝る前も起きてからも、それだけでなく仕事してる間もずっと黒幕について腹を立てていました。
自分でもなんでこんなに…て思うけど、定期的にフィクションのキャラクターに対して腹を立てているので、そういう病気なのだろう。
君吾こそ謝憐を苛ませ困難の道に突き落とした張本人であることは、物語の構成や構造としてはしっくりくる。ただし、スケールがでかすぎて憤りも大きい。
主人公に敵対する、相容れない立場のキャラクターという意味では、魔道祖師の薛洋と金瑶光を足して2で割った…いや、合わせて、一人の人間の別側面としてその性を表す感じ。
魔法騎士レイアースのエメロード姫ぽさもあるんだけど、別に君吾は救いは求めていない(最初は救いを求めていたところもあったかもしれない)ので、己の愉しみのみで世界をもてあそんだ、と私はとらえています。
すごくマメだね!?ていうくらい、めっちゃ自分で動いてるんですよ、この君吾っていう三界一の武神は。ありとあらゆる場所で信仰を集めていて、他の神官たちからも慕われていて、何が不満やねんていうポジションにいるのに、やることがあまりに利己的でおそろしい。
この利己的というのも、使う言葉のチョイスとしては間違っているように感じています。
というのも、君吾はすでに全てを手にしているので、凡人からすれば「何が不満なの?」て、行動原理が不思議でしょうがない。
しかし、その全てを手にした人はものすごくコンプレックスを抱いている元・人間で、それを刺激したのが謝憐だった…というのが、この物語の不幸の始まりなんですよね。
あまり深く考えずに思いついたことだけで書いていますが、この天官賜福は謝憐の物語ではあるんだけど、実は彼の行動が軸にはなっていない。謝憐は基本的に全て受け身です。そのように描かれている。彼自身が好奇心から首をつっこむことはほとんどない。彼がゆく場所ゆく場所で事件に遭遇しているように見えるのは、単なる謝憐の反応に過ぎません。彼の前に問題が起こるから、彼はそれから目を背けることができないので、反応しているだけ。
物語の軸を動かしているのは君吾の強烈なコンプレックスなんだと思います。
彼は、彼が至ることができなかった「身在無間、心在桃源」を成すことができる人間が謝憐だと、理解してしまった。自分自身が卓越した神であるからこそ、謝憐の言葉が真実だとわかった。
だから、そうではないとわからせるために「身在無間」を味わわせる。
身の置き所をなくして、家族、親しい人との縁も絶ちきって、力も奪って、彼の存在すら人々の記憶から奪って、謝憐のいる場所を地獄としたけど、元から「身在無間、心在桃源」と言える人間は絶望しきれない。
謝憐に竹笠をくれた男の人のエピソードが私は好きです。彼にとっては日常の中の、取るに足りない、善行のうちにも入らないことだったかもしれません。いいことをしようと思ってしたんじゃない、ただ、ちょっぴり自分の中に罪悪感があって、悪かったよなあって思って戻ってきて、竹笠を渡した。
おぞましい行いをするのも人間ですが、勇気を与えてくれるのも人間です。
このエピソードはスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの「ボタンの穴から見た戦争」の中のエピソードも私に思い出させます。ソ連の人たちが列車で移動する、それをドイツの戦闘機が攻撃する、人々は列車から出て逃げますが機銃の乱射で命を落とす。そんな中で、列車にはまだ馬が乗っていて、それを逃がすために戻る人がいる。自分が死ぬかもしれないのに、馬のために戻るんです。馬も死ぬ可能性が高いのに。
理由もなくそうしてしまう善性が人間にはあって、謝憐もそれを信じているひとだと思うんですよ。だから、彼はずっと人間を応援しているんだと思います。自分も一時は人々を滅ぼそうとした。実際、永楽宮の落成のときには火を放って多くの人を巻き添えにしたでしょうし、朗蛍が白無相につけ入れられた遠因も謝憐にあります。もちろん、死ねない呪いもあるけれど、それを忘れることなく自分の中にそいつの居場所をつくって、抱えて生きてるんですよね。絶対の悪があることもわかっている。それをゆるすわけではない。でも、人の持つやさしさや憐憫の情を彼は知っている。それを与えてもらったことがある。だから、それを感じるとき「身在無間、心在桃源」だと心から言えるわけ。
なので、自分の苦しい想いをして人を助けて、でも助けられず、その中で力を自分の機嫌をなだめるためだけに使ってる君吾のことが許せないわけ、私は。そりゃ、烏庸国の民も悪いと思うよ。君吾も被害者ですよ。彼も傷ついてるよ。でも、自分が傷ついたことを理由に、他の人間を害するのは違うだろ。
ここでも他の作品を思い出しますけど「ぼくらの」を読んだ方がいいよ君吾は。
いちがいに断罪することはできないし、読者の私がすることでもないので一人でプリプリしている。君吾に何かすることはできるのは、彼と関わりを持ったひとたちにしかできないことだから。
一人で勝手に憤って一人でむしゃくしゃしているのだった。
あれだけの力があって「なぜ…」ってずっと思うよ〜!あと、私が涙した三人の家族がフェイクだったって知ったときの怒りはぶつけてもいいですよね!?人の気持ちをもてあそびやがって…!!!
この物語を紡いだのは墨香銅臭先生なんですけど、私は読んだときから自分の中に内在化させてサイトシーイングしてイマジナリーキャラたちと冒険を愉しんだので、この憤りも考えていることも全て私の脳内のものであることを一応、明記しておきます。まだ言い足りないから、思いついたらまた書いてると思う。