天界にやってきた謝憐は顔の半分を手で覆い、ふらふらと足元がおぼつかない。通りを急ぐ天界の下級神官たちは誰も彼に近づこうとしませんが、それでも皆、奇妙なものを見るように彼を見つめます。
謝憐は手を下ろして背筋をピンと伸ばし唇を擦ります。「あはは、唇が痛くて」と誤魔化しますがよけいあやしい。
花城にキスした時のことを思い出して悶々とする。ここ、口づけしたときに花城が笑顔になってたとか書かれてて、微笑ましいんですよ。800年生きてるのに思春期みたい!
さて、神武殿には裴茗、風信が戻ってきていて、郎千秋にも会います。話書けようとしますが彼はその前に君吾に、君吾が戚容を捕まえたのかどうか確認します。君吾は、引玉が戚容と宣姫を捕まえていることを教え、そのとき初めて、謝憐は引玉も神武殿にいることを知ります。引玉は神官であったときは位が低かったため、ここに入ることが許されなかったのに、鬼王に仕えるようになってから入れるというのは皮肉なものだと本文は記す…。そうだね。
郎千秋は戚容の引き渡しを要求。戚容に復讐した後はどうすると問われても「陛下には関係ない」と憤懣やるかたない様子。見かねた裴茗が口を挟みますが、それは突然やってきた慕情に邪魔されます。
「陛下、私はもう待てない」と言う慕情に「それで?」と尋ねる君吾。
……天界ってさあ……マネジメントできてないよね……この組織の中で絶対働きたくねえんだが……
慕情は「陛下はあの女を捕まえたんでしょう、なら直接相対させてください」と言い、郎千秋は「戚容を渡してください!」と言い、君吾の頭を痛くさせます。まあ、マネジメントできてないから、それは妥当だと思うよ。問題の先送りをするからそうなるんでしょ。
「静かに!二人とも、私が銅炉山の問題を解決するまで待てないのか」と言う君吾に慕情は「それならなおのこと私の手が必要では?なぜ拘留するんです?私が上天庭に戻って仕事ができるよう潔白の証明を許さないのは何故なんです。あなたが彼女をここに連れてきて向き合うことができれば真実は明るみに出ます」と、「小心で、視野が狭く、過敏で、被害妄想的で、性格が悪く、些細なことに執着しがちで、楽しいことは何も言わず、口うるさいのが好きで、いつも他人を怒らせていて、そのことで多くの嫌われ者になって…」と評される慕情が珍しく論理的にものを言う。(この小心で〜のフレーズ好きすぎて慕情のことを話すときにずっと引用すると思う)
そこで君吾は「剣蘭をここへ!」と命令します。もっとはよやれや。時間の意識ないわけ?(神様だからないのかも)
連れてこられた蘭菖(ほんとうの名は剣蘭ですが彼女が捨てた名前だというので私は蘭菖と呼びたい)は拘束されてはいませんでしたが、腕の中に陰の気を帯びた何かを抱いていました。それは拘束具でぐるぐる巻きにされてて、爪とかむき出しの歯が拘束具の束からはみ出ている。胎児の霊ぽい。
慕情は何故彼女の息子が自分を誹謗中傷したのか詰問。慕情が拘留されたのは錯錯が生まれる前に死んだのは彼のせいだと言ったからなんですよね。
風信は「彼女が息子にお前に罪をなすりつけさせたって言うのか。お前と彼女の間には何の遺恨もないだろう」と言いますが、慕情は「私と彼女の間にはない。だが、お前は?」と睨む。
「お前は剣蘭嬢と知り合いになった、それは太子殿下の最初の追放のときだった。そうだな?」
「それが何か関係あるのか?」
「あるさ、もちろん。あのとき、殿下との生活はとても困難だった。お前は中天庭に戻った私を骨の髄まで嫌っていた。お前は古い諍いを蒸し返しどんな過ちを指摘するのも好きだったよな?彼女はお前の情人だったんだ、どうして彼女も私を嫌わないっていうんだ?彼女は殿下のことも嫌うようになった。最後にはお前は彼女を選ばず、惨めな忠誠心を選んだってわけだ。事実上、見捨てた……」
慕情……本当にきみってやつは……どうして……。嫌われ者になるわけだよ……。慕情のことは好きでも嫌いでもないが付き合うのは難しそうだなって思っちゃうよ……。絶対に一緒に生活したくない。扉をちゃんと閉めてなくても怒られるし、トイレットペーパーの使い方にも文句言ってきそう!
キレた風信は慕情を殴り慕情も殴り返す。蘭菖が止めようとするけど、錯錯が金切り声で泣き始めるので、裴茗と引玉が二人を引き剥がします。
そこで、謝憐が「陛下、優先すべきは白無相を探すこと、そして人面疫を対処することです。我々が捕まえた人物がこの謎解きの鍵となるでしょう」と進言する。……わりと殿下もこの問題の原因の一つですけどね?また片付けないで進むわけ??
君吾は蘭菖と錯錯を下がらせて梅念卿を連れてこさせます。その名前を聞いて驚く慕情と風信。
謝憐は下界で何が起こったかを簡潔に説明し、それを聞いていた神官たちは口々に「烏庸国など聞いたこともない」と言う。
「国師、烏庸国の太子は白無相ですね?」という謝憐の問いに「そうだ」と答える梅念卿。
「じゃあ、誰があの壁画を残したんだ?そして、誰が最後の絵を破壊した?」という裴茗の問いかけには謝憐が答えます。
「誰が壁画を残したかはわからない。しかし、最後の絵を破壊したのは白無相か、彼の部下だろう。彼は誰にも自分の出自を明らかにしたくなかったんだ。あなたが烏庸太子の部下でしょう?」
「白無相はどこに?」「なぜ白無相は仙楽国の滅亡を望んだんです?」「何故、貴方は私を殺そうとしたんですか?」
いくつかの問いかけに対して無言だった梅念卿でしたが、最後の質問にだけは「私は貴方を殺したかったのではないよ」と答えます。
「では、何故私の首を絞めようとしたんですか」「もし私が首を絞めても、君は死んだかな?それに、君の傍にいた彼がそれを許したかな」と返されて、それもそうだなと納得する。が、殺意がない証拠にはなりません。
「あなたは私の中の何を覚醒させようとしたんです?」
君吾の言葉を思い出して謝憐は質問します。烏庸国の太子の運命は謝憐のそれに似ていて、そこに白無相との隠されたつながりがあるのではないかと不安な気持ちになる謝憐。
梅念卿は不思議そうに謝憐を見つめ、そして答えます。「殿下、まだ貴方の質問に答えるときではないようです。それに、私が答えても貴方は信じないでしょう。しかし、私が答えられることが一つ、あります。白無相はこの神武殿の中にいます。彼は私の前に立っている!」
梅念卿の前に立っているのは謝憐です。謝憐は飛びのき、彼の近くにいた風信は「国師、よく見てください、あなたの前にいるのは殿下です。あなたの弟子です!」
しかし、そこにいた神官たちは「殿下と白無相は分裂した魂なのか?」「なんなんだそれは」「一人の魂が分裂して二つに分かれるんだよ。それぞれが記憶や人格や能力を別々に得るんだ」「そんなことが…」「私は聞いたことがあるぞ」と噂話をし始める。暇なんか???
謝憐もその声を聞いていて「私が白無相なのか?」と疑い始める。
殿下!気をしっかり!!流されすぎですよ!!
ここに花城がいたら絶対違うって言ってくれるのに。っていうか、花城がいなくても自信持ってほしいです。それほどまでに、白無相はトラウマで、彼自身もそれになりかけたから、自分が信じられないかもしれないけど。でも、そしたら、無名が人面疫に取り込まれていなくなってから、彼が歩んだ780年ばかりの道のりは、どうなるっていうの?その間、あなたは白無相じゃなかったじゃん。あんたが白無相だったらとっくの昔にこの世界はなくなってるよ!!って思うんですけど、どうやったら私の言葉は伝わるんでしょうね。
墨香銅臭先生のお話のすごいのは、物語にのめり込むことができるってことなんだよな。イマーシブ体験なのだ。
「絶対そうじゃないってわかってる」のに「そうかも?」て疑わせる力があるんだよな〜〜〜〜〜。
呆然とする謝憐に風信も何も言えず(いや、そこは言って。道徳経を千回言わせるパスコード設定した太子殿下やぞ)、君吾が「落ち着くのだ」と声をかけます。
全部私がやったことか…と絶望する謝憐の頭の中で、「それは不可能だ。私はあなたがあなただって誓える。あなたは他の誰でもない。俺を信じて」という花城の声が響く。
それで正気を取り戻す謝憐。やっぱ花城がいないとな!(ここで、私が言わなくても花城がいるから大丈夫なんだったと思い出すのであった)
君吾は玉座から降りて謝憐のそばに立ち「落ち着きなさい」と再び声をかけます。そのとき、梅念卿は素早く動いて風信の剣を抜き取り君吾に突きつけます。
謝憐は二本の指で刃を止めます。
君吾は武神の中でも最高神、そして謝憐も類い希なる武神、周りにも多くの武神がいる中、これは自殺行為に等しい。
梅念卿は気にせず謝憐に言います。「見なさい、見るんだ、早く!」
謝憐は立ち尽くします。そこは伏魔殿のようで、彼は白い刃に映ったものを見て動かない。
そこには顔がありました。整った美しい顔が。そして、そこには三つの他の顔が浮かび上がってきます。より小さな顔はその男の顔の中に押しつぶされていき、整った顔はゆがみ、やがて半分笑って半分泣いている顔になります。謝憐には見慣れた、異質で恐ろしい顔。
風信の剣は邪なものをあらわにする力があるのです。
梅念卿の突き出した剣は謝憐の背後にいる人物を映していました。
後ろにいた君吾が謝憐の手首を掴み微笑みます。「仙楽、何を見ているのだ?」
112章に続く。