技術書典で薄い本を書いた

chick-p
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技術書典 15 で技術同人誌を出した。少し前の話になるが、いい機会になったので本を書くにあたって考えていたことや気づきをまとめておく。

技術書典で書いた本

技術書典 15 で、「kintone プラグイン開発入門」という本を出した。kintone というサービスの思想とプラグインシステムという仕組みがとても好きなので、サービスの布教に貢献したいと思ったからだ。

モチベーション

技術同人誌を書こうと思ったモチベーションは、大きく 2 つある。

Web と書籍で文の書き方に違いがあるかを知りたい

私はテクニカルライターとして技術情報を書く業務に就いており、またプライベートでも学んだことを個人ブログに書いている。これらはすべて Web 媒体で発信している。一方で、技術同人誌は紙か電子かの違いはあるが、媒体としては書籍にあたる。

この媒体の違いは、読者のモチベーションや読み方の違いにも現れると思っている。読み手の意識が変わるのだから、文章の書き方にも影響するだろう。本当に違いは存在するのか、あるとしたらその違いを意識して文章を書いてみたいと思った。

複数トピックを扱う構成検討を練習したい

私がWeb 向けの記事を書くとき、1 記事 1 トピックで書いている。そのトピックの中で話のつながりを意識する。連載記事であればある程度は記事同士のつながりを意識するが、基本的には 1 記事でも読めるようにしている。

しかし、書籍になると 1 冊の中で複数トピックを扱い、章間のつながりも発生する。前の章で述べた話を受けて、話が展開していくこともしばしばだ。

ドキュメントは構成がすべてだと思っているので、大きな構成検討が必要となる書籍の執筆は、ライティングの良い勉強の機会になると思った。

テーマと出版媒体

上記のモチベーションで元々本を書いてみたいと思っていたので、技術書典 15 の募集が始まってすぐにサークル申込みをした。書くテーマは申込み時点で決まっていた。

書籍としては電子媒体(PDF)のみを出すことにした。印刷するとなると印刷業者さんとのやり取りや断ち切り線がどうこうなど、考えることが多そうだった。ニッチな内容なので部数も出ないだろう。そのため紙媒体には手を出さないことにした。

執筆に使用したツール

コンテンツは Re:View というツールを使って作成し、Git で管理することにした。Re:View は、紙書籍や電子書籍(PDF や ePub)の作成支援ツールで、コンテンツをプレーンテキストで書くことができる。技術同人誌を書くにはこのツールがよく使われていて、公式ドキュメントもしっかりあるし、 Tips も Web に転がっているのでトラブルシュートでも困らなさそう。

案の定、環境構築や Re:View での書き方に悩まされることはなかった。ただし「見た目を思い通りにする」ことにはそれなりの時間を取られたし、時間が足りずに断念した部分もあった。

執筆での気づき

気づき 1:構成の考え方

書籍の場合、ボリュームが多いこともあって、Web で書くよりも細やかに章構成を考える必要があった。私は Chapter と Section レベルでの章構成を最初に作成してから、コンテンツを書き始めた。Web の場合はこれで十分だったからだ。しかし実際のところこのレベルでの見出し構成を元に書いていくのは大変に難しかった。なぜなら、書籍の場合はもっと構成が深くなるからだ。1 つの Section のなかに、さらに Subsection や Subsubsection を設ける。

私がコンテンツを書いているとき、「Subsection をどの粒度でつけるか」や「Subsection 内での Paragrah の展開」はぼんやりと脳内にあった程度だったので、書いては消し Paragrah の並べ替えを繰り返した。少なくとも Subsection レベルも最初の時点で決めておくべきだったし、Subsection の中で箇条書きで何を書くのかどの順番で書くのかを決めておくと、スムーズに書けた可能性がある。

気づき2:Web と書籍の読み方と書き方の違い

Web と書籍の書き方の違いについては、WEB+DB PRESS の元編集長の inao さんの 資料 が大変勉強になった。この資料で紹介されている、「見出しは読み飛ばすもの」という内容は、Web 記事を書いている私には衝撃的だった。Web では、読者は F 字パターンでコンテンツを流し読みする、すなわち見出しだけを流し読みして得たい情報があるかを探索しているという考え方が一般的だからだ。

Web 記事を読むときと書籍を読むときはモチベーションが異なる(と思っている)。Web 記事は空いた時間にさらっと読んで情報をピックアップするもの、書籍は 1 つのテーマに関して深く学びたいときに腰を据えて読むものだからだ。

見出しが読み飛ばされるものだとしたら、見出しの最初の Paragrah では見出しで述べた内容を再度繰り返す必要がある。この Section で扱うトピックを本文を読んで理解してもらうためだ。

媒体による読み方の違いを意識して書くのに苦労した。私は Web 向けの書き方に慣れきっているからである。特に、Web では「見出しで述べてるからいいでしょ」で繰り返し書くことを避けていたから、改めてもう一度書くということに抵抗感があった。それを含め、媒体による書き方の違いは、まだまだ未達成な部分である。

気づき3:紙印刷でのレビューの重要さ

章のすべてを書き切ったら、紙に印刷して赤入れをすると、ディスプレイでレビューしていたときとは違う気持ちでレビューができる。今回赤入れしていたとき、学生時代の論文でも同様の気持ちを抱いたことを思い出した。

typo はもちろん、主語の欠落や、主語と述語のねじれは、なぜか印刷した文章を読む方が発見しやすい。また、紙の方が全体を通しで読みやすいからから、話の展開の違和感にも気づける。本を書いたら絶対に印刷してレビューさたほうがいい。

ちなみに、印刷にはキンコーズを利用した。コンビニのコピー機を使うより安価だし、とにかく印刷体験が良かった。キンコーズでは、スマートフォンとコピー機を専用アプリで接続してスマートフォン内の PDF を印刷できる。キンコーズのネットワークへの接続も QR コードを読むだけで実現できるのでとてもスムーズだった。

執筆期間のお気持ち

書籍のターゲットが狭いこともあり「これ読んで誰が嬉しいんだろう?」という考えに常に悩まされた。私はテクニカルライターなので、「この流れわかりづらい、ライターなのにいい文章が書けない」という思いも脳内を占めた。つらかった…!

今度また技術同人誌を出したいか

出してみてもいいと思っている。前述した inao さんの資料に書かれていた内容も、今回書いた本では十分に実践できていない。

ただ、次の本を書くなら、心にゆとりがあるときにしたい。技術書典のスタート日は福岡マラソンの前日だったし、出張もあってあまり余裕がなかった。

また、申込みの前に、あらかじめ細かい粒度で構成を考えておきたい。そうすれば執筆の目処がある程度つくからだ。

次の執筆には、Vivliostyle という CSS 組版ツールを使いたいと思っている。Vivliostyle は Markdown ベースでかけることと、スタイルを CSS で調整できることに魅力を感じている。今回見た目の調整に少し時間を取られたので、少しは書いた経験がある CSS のほうが扱いやすいのではと思っている。