
右上の親知らずは思った以上にすんなり抜けた。そう、抜けたには抜けた。だがまさか、引っこ抜くためにトンカチでカンコンされるとは思いもよらなかった。きっと歯医者さんはきっと大工さんにもなれるだろうな。なにせ絶妙な力加減でカンコンできるからね。
最初の親知らず抜歯は左上下を一気に抜いたのでいまいち実感がなかったのだが、切開をするとほっぺたが腫れるもんなんだなと思った。左上の歯は横向きに生えていなかったもんね。四本の親知らずの中で一番スピーディーに抜けたのは左上だった。それに比べて右上は、私を釘だと自己暗示させうような生え方をしていた。閑話休題。
腫れた頬を癒すのに今回も保冷材をひっつけていたが、なんか芸がないなと思うようになっていた。治療に面白みを求める方がどうかしているが、あの時の私は冷静ではなかった。気付けば柑橘を一心不乱に剥いて容器に放り込み、お湯で溶かして作るタイプの牛乳寒天を注いで冷やしていた。そうだ、私はラスト親知らず抜歯に耐えた己の体を癒すため、柑橘が入った牛乳寒天をこしらえていた。今までの経験上、寒天の柔らかさは苦心せず食べられることが分かっていた。それに体を回復させるためにはタンパク質とビタミン類を摂る必要がある。しかも牛乳寒天はひんやりしていて頬に優しい。ナイスアイディア、という単純な思いからの行動である。
よく考えたら、腫れている方の頬で物を噛めないんだよなあ。これは食べる時に気付いたが、美味しいからまあいいかと思った。ちょうどいい弾力の牛乳寒天と甘酸っぱい柑橘が体に染みる。これをモリモリ食べて元気になるぞ、と腫れた頬を庇いつつ、のんびり食べ進めるのであった。