海士町2日目

チハヤ
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ぼんやりとした頭で最初に聞こえたのは、しとしとと静かに降る雨の音だった。案外心地よいその音を聴きながら、しばし二度寝を楽しむ。6時半ごろだろうか、町内のスピーカーからラジオ体操のような威勢の良いメロディーが流れてきてぎょっとする。町内全域早起きなのか、ここは。

早めに起きて身支度をしたり本を読んでゆっくりしてから、8時に昨日夕ご飯を食べた居酒屋スペースに入った。魚や卵、納豆、湯豆腐など、ザ・日本の朝食が並んでテンションが上がる。程なくして昨日お隣に座っていたご夫婦もいらして、並んで朝ごはんを食べた。特にあら汁が染みる美味しさだった。

朝食後、次の予定地のオープン時間まで時間があったため、共用スペースで流れる音楽を聴きながら漫画を読んだりした。ご夫婦の奥さんが帰り際、「楽しかったです、良い旅を!」とわたしに声をかけてくれたのがとても印象深く残っている。

10時前にチェックアウトを済ませ、宿のご主人が次の目的地である「あまマーレ」まで車で送ってくれた。道中の短い時間に少し話せたり、宿泊中もちょくちょく声をかけてくれたことも嬉しかった。ライブには結局行けなかったけれど、また泊まりたいと思える素敵な宿だった。

さて、到着したあまマーレは、元幼稚園の現在はコミュニティスペースのような場所になっていて、お子さん連れのお母さんたちが何組かいた。

古道具やさんや、キッズスペース、作業スペース、ピアノなどが置いてある遊戯室、コーヒーなどを自分で入れられるカフェコーナーがあり、わくわくした。

遊戯室で30分程度ピアノを弾いて遊び、その後カフェコーナーでハーブティーを入れて図書コーナーから本を選び、作業スペースで読書をした。

選んだ本はよしもとばななさんの「TUGUMI」である。窓の外の雨は強かったけれど、濡れる緑がとにかくきれいで、全く不快な音がなく、子どもの遊ぶ声が聞こえるけれど不思議と静かで集中できた。田舎の祖父の家にいるときのような、外と中が近いような、自然と自分が溶けるような時間だった。

読書を終え、タクシーに迎えにきてもらって港まで向かった。観光案内所の2階にある「セントラル亭」というレストランで休憩がてらフレンチトーストを食べた。

ふんわりパンとあんバターのあまじょっぱさが素朴なのと、コーヒーにほっとした。

そして15時近くなったので、本日のメインたる宿泊場所、「Ento」へ。

目の前に何も遮るものなく広がる海、洗練された建物の意匠、それらのせいかなんだか現実味がないような不思議な気持ちになった。とにかく開口が広いからか、先ほどとは違った方面で外をすごく近く感じられる場所だなと思った。

ジオパークに関する説明を受けたり、ライブラリースペースで本を物色してぺらぺらとページを巡ったり、気に入った本を海がよく見えるソファーに座って読んだりして、ゆったり過ごした。

18時からの夕食は、地産地消のディナー。ドリンクで頼んだ島根産のジン「森恩」はとても美味しく、これは絶対買いたいと思ったほど。食事はどれも見た目、味共に素晴らしく、外の景色をぼーっと見ながら幸せな時間を過ごした。特に燻製されたブリ、牡蠣と、隠岐牛は痺れるうまさだった。

美味しいものをいただくと、こういう時間のためにがんばれるんだなぁとしみじみ感じる。昨日のように初めましての人と一期一会を楽しむのも、静かに食事の美味しさを噛み締めるのもどちらも一人旅の醍醐味で、どちらもわたしは好きだ。両方味わえてラッキーである。

温泉にもゆっくり使って、部屋に戻り、また30分ほど恋人と今日の出来事などをおしゃべりした。町で会った人々の話をすると、小説の中のキャラクターみたいだねと言う。昼も夜も食事が同じ店だったミュージシャンのおじさんと建築家の女性、隣の席のご夫婦、島留学から島に移住した歳の近そうな女性、そのほかやたら会う何組かの観光客。ここに来ないと合わなかった人たちだと思うと、なんだか不思議な気持ちになった。

一日中雨だったけれど、のんびりと島を味わうような充実した1日だった。