最近読んだもののうち、好きだ~と思ったものを記録します。
アンソニー・ドーア「すべての見えない光」新潮社、2016
作者は短編の名手らしく、フィルムの短編映画が次々と切られていくような描写を追いかけていくうちに読了しました。盲目の少女・マリーが主体となる場面では、指先から「見」た世界が、父親から伝え聞かされた博物学の知識と、透き通った感性で鮮やかに描かれていました。装飾の多い美文というよりは、楚々とした美文。氏の文体を形容する熟語をひとつ考えるのであれば、「発掘」がふさわしいと思います。手元に置いておきたい一冊。
青崎有吾「地雷グリコ」角川書店、2023
「早朝始発の殺風景」の作者の新作と知って読みました。高校生によるハッタリイカサマ何でもありの頭脳バトル。作中に登場するオリジナルゲームの中では「地雷グリコ」が一番好きでした。椚先輩、本当にいいキャラ。トリックスター・射守矢真兎が主要な語り部たる鉱田ちゃんに寄せる思いをもっともっと知りた~い!けれど、他人から見たら不可思議とも思える執着こそが、等身大の思春期と言う感じもします。つい先日「暗号学園のいろは」が完結してしまったので、ちょっぴり思いを馳せました。アロハ~……;
「ユリイカ:特集*ヤマシタトモコ」青土社、2023/9
「違国日記」を読了したため、取り寄せました。ヤマシタトモコさんの他作品にも言及しており、男同士の関係(BL、ホモソーシャル)や女同士の関係(フェミニズム、女性同士の連帯等)に関する論が多く寄せられていました。印象的だったのはヤマシタトモコさん自身が「ロマンスを理解しない人間」であると述べていたことでした。アロマンティック/アセクシュアル(Aro/Ace)という観念が世の中に広がって久しいですが、物語における恋情の暴力性は依然として強いものであると感じています。フィクションが作者にとっての夢物語であることと、それが読者の現実に響くことは両立すると信じています。ロマンスを理解しない人間の一人として、勝手に勇気づけられた気になりました。
アンドレイ・クルコフ「ペンギンの憂鬱」新潮社、2004/9
売れない小説家・ヴィクトルが皇帝ペンギン・ミーシャと「孤独な二人暮らし」を送る物語……と書くといかにも心が温まる物語らしいですが、ソ連の崩壊後、未だ社会主義の渦中にあるウクライナという舞台と、主人公に舞い込んできた「奇妙な仕事」によって、現実感と非現実感が綯い交ぜになっていく展開がふしぎな読み心地を与えていました。ペンギンであるミーシャは、ただのペンギンではなく、憂鬱症(うつ?)を患ったペンギンです。鳴かず、飛ばず、ヴィクトルと深く心を交わさず……男一人暮らしのアパートの部屋にぬっと立つ皇帝ペンギンは、非現実的なマスコットというだけではなく、異彩を放つ異物と言う一面があるのでしょう。「ヴィクトルは孤独だったけれど、ペンギンのミーシャがそこへさらに孤独をもちこんだので、今では孤独がふたつ補いあって、友情というより互いを頼りあう感じになっている」という一文が印象的です。孤独なもの同士、共生する一人と一羽の距離感がこの本の無二の魅力です。
普段の読書は断然家派ですが、GWなので所謂カフェ読書でもするか……と思い立ち、ミスドでコーヒーをおかわりしまくりながら読みました。ホットコーヒー×オールドファッション×ちょっとヨレたペーパーブックは幸せの組み合わせ。