ベルリン・天使の詩

呼吸
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あべきり先生のおかげでパーフェクトデイズを映画館で観ることができた。勧めてくれる人があべきり先生じゃなかったら、観なかったかもしれない。あの映画を観ずに過ごす自分を思い浮かべると怖くてぞっとする。そんな大きすぎる欠落あってはならない、なくてよかった。こんなに素晴しく衝撃的な映画があるなんて。飛行機雲のようにあと引く余韻。光、音、頬を撫でる風に含まれる湿度。景色、人、記憶、出来事、人生。木の枝のゆらぎ、近づき重なりまた離れる葉のダンス。平山になりたいけどきっと私にはなれない。しかし、私の心の中には間違いなく平山らしき存在がいる。たまにかんじる。ずっといる。それがこの映画を見た時に高く強く、苦しくなるくらい共鳴した。スクリーンの中の平山と、私の胸の奥の平山的存在が響き合う。とけて一つになる。遠くて近い憧れ。おとぎ話と日常。不思議なシーソーに乗せられる2時間。クセになって4回観に行った。最後のシーンの衝撃はいまだに、そしてこれからも褪せる気配がない。自分もどんな顔になれば良いのか、どんな気持ちでいれば良いのかわからなくて、ただ涙を流す。決してわかってはいけない感じがする。だから涙を流す。今の自分に出せるひとつの答えとして。客席に響く観客たちの 重なるすすり泣きもまたひとつの木漏れ日の具現。一度きりの一瞬の、偶然と奇跡の積み重ね。私達は無限にすれ違い続ける。

先日、運良くあべきり先生と会うことができた。実に3年ぶり。さっそくあべきり先生にパーフェクトデイズの感想を伝えてみた。興奮しすぎてもはや感想にならない叫びのようなツギハギの言葉だったけど。先生はそれを聞くと、柔らかい言葉でベルリン・天使の詩を勧めてくれた。パーフェクトデイズと同じ、ヴィム・ベンダース監督の作品。名前だけは聞いたことがある。この、名前だけでは全くどんな内容か想像できない感じがなんとも近寄りがたい雰囲気の。だけど翌日、観てみることにした。だってあべきり先生のお勧めは絶対間違いないから。大当たりしかないから。実際、心底良くて 頭を抱えた。あ〜、私 この監督のことが大好きだと思った。画面づくり、セリフの選び方、シーンの切り取り、空気のにおい、人の影、静な高揚感、すべてが心を激しくかき乱しながら記憶に深く錨を下ろしていく。そう、錨が降りた。私はこれから先また何度もここに帰ってくるのだと思う。鮮やかで美しすぎるモノクローム。

天使の世界、平山の見る夢、白黒、ここではないどこか、いずれここにつながるどこか。そっと梯子をかける。

@chinchan
世界で一番愛に近い呪詛