別れの練習

cia
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確か宇多田ヒカルだったと思うが、誰かとの別れが辛いのは、その人がいたことによって感じなくて済んでいた痛みを感じなくてはいけないから、というようなことを言っていた。

最近、わけがあってある一人の人との別れについて考えていた。なんなら、別れの練習をしていた。別れの練習とは、別れが目前に迫った他人との別れをシミュレーションして、その痛みに耐えたり泣いたりすることである。

この人がいるからなんとかうまく誤魔化していた。明日以降の未来に対するモヤモヤとした不安や、ああ、自分はなんで報われないんだろう、とか。この人と会えただけで、今までの不幸を補ってあまりあるくらいに、良かったと思っていた。そういう出会いがこの世にあるのだと。しばらく忘れていた劣等感。私は大企業で非正規雇用で働いている。隣で仕事するおそらく新卒で入ったのであろう、キラキラとした若者たち。他人がいるから大丈夫になるなんて、馬鹿だと思う。他人はいつか必ず去っていく。そんな水の中をたゆたう紙切れみたいに不確かなものに明日を託すなんて愚かだ。

結局、そんなことを考えて別れの練習を最後までやり抜くことはできなかった。どうしても、泣くことを辞められなかった。