圧倒的な才能について

cild
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人には、誰にでも、なにかひとつ特技があって、それに気がついて、うまく活かせれば、良い仕事が見つかり良い人生を歩める──

そんな話し、聞いたことあるよね。

じつは僕にも、得意なことがあった。「あった」という、過去形なのが、一抹の寂しさを感じさせるけど、僕はそれに納得しているし、悲しいとも思っていない。

うん。僕には、圧倒的な文才があった。

文法的には欠点だらけ、荒削りでありながらも、なぜか人を惹きつける、そんな魅力的な文章を呼吸するように書く圧倒的なセンス。

これはおそらく、神様が与えてくれるカードでも、けっこうレアなタイプで、欲しがるひとも多いのかもしれない。

だけど僕は、そのカードを使わなかった。

理由は、なんかしんどそうだから。

こう書くと、ひどい妄想だとか、あるいは才能をドブに捨てただとか、そんなふうに思われるかもしれない。

でも、そうじゃないんだよ。

なにかを作ったり、なにかを想像したり、およそクリエイティブであるためには、それに見合った代償が必要になる。

それは、血の滲むような努力や、眠れぬ長い夜。孤独な苦悩と、るいるいと横たわる、あまたのしかばねのうえにのみ成りたつものなんだ。

そして手にする富と名声。

やっぱり、僕には必要ないものだ。

@cild
下天のうちをくらぶるよ