人には、誰にでも、なにかひとつ特技があって、それに気がついて、うまく活かせれば、良い仕事が見つかり良い人生を歩める──
そんな話し、聞いたことあるよね。
じつは僕にも、得意なことがあった。「あった」という、過去形なのが、一抹の寂しさを感じさせるけど、僕はそれに納得しているし、悲しいとも思っていない。
うん。僕には、圧倒的な文才があった。
文法的には欠点だらけ、荒削りでありながらも、なぜか人を惹きつける、そんな魅力的な文章を呼吸するように書く圧倒的なセンス。
これはおそらく、神様が与えてくれるカードでも、けっこうレアなタイプで、欲しがるひとも多いのかもしれない。
だけど僕は、そのカードを使わなかった。
理由は、なんかしんどそうだから。
こう書くと、ひどい妄想だとか、あるいは才能をドブに捨てただとか、そんなふうに思われるかもしれない。
でも、そうじゃないんだよ。
なにかを作ったり、なにかを想像したり、およそクリエイティブであるためには、それに見合った代償が必要になる。
それは、血の滲むような努力や、眠れぬ長い夜。孤独な苦悩と、るいるいと横たわる、あまたのしかばねのうえにのみ成りたつものなんだ。
そして手にする富と名声。
やっぱり、僕には必要ないものだ。