OSS開発と年金の味

cocopon
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「年金の味」という言葉がある。ご年配の方が経営する飲食店で、相場よりだいぶ安い価格帯で提供される美味しい料理の味をそう表現するらしい。つまるところ、年金による収入があるからこそ維持できている品質ということになる。

消費者としては、安くて美味いごはんがいただけるのはありがたい。店主としても、お店が繁盛して生きがいを感じられるならwin-winだ。一方で、周囲の競合店はどうやっても敵わないので困ってしまう。健全な競争が阻害されることで、進出をやめたり撤退したりするお店が出てもおかしくないわけで、長期的にはあまりよいことではないと考えることもできる。

さいきん、OSS開発でも同じことが起きているのではないかと感じることがある。

ITエンジニアは売り手市場が続いており、特に優秀な人ほど待遇には困らない生活を送っているだろう。そういう人々が余暇で生み出した無料の成果物が、本来利益を産むべき機会を奪っていないだろうか?

かくいう自分もつい先月までは普通の生活を送っていたのだが、とある事情で仕事を失ってしまったときに、「自分の時間をそれなりに注ぎ込んできたこのOSS活動が、なぜこの生活を助けてくれないのだろうか?」とはじめて感じたのであった。

もちろん、OSS開発が負の側面ばかりを持っているわけではない。自分の技術を証明する場になるし、新たな仕事の機会を創出してくれたこともある。

それでもなお、膨大な数のOSSが当たり前に無料で消費される現状が本当に正しいのか、いまの自分にはわからなくなってしまった。OSSを作って感謝されているのは、もしかするとタダ働きをしているからではないか。おいしいカレーがそこらじゅうで無料配布されていたら、誰だってありがたがるのではないか。その活動は、本来生まれるはずだったライバルたちの食い扶持を潰してはいないだろうか。これは「年金の味」とは違うのだろうか?

すべての創作活動が、その活動を続け、また発展させるために十分な対価を得ることができる、持続可能な世界であってほしいと願うばかりである。

@cocopon
でべろっぱ〜/でざいな〜