うさぎと一緒に暮らしているのだが、その子の父親はとあるお店で看板うさぎをやっている。彼が結構なお年で、さいきん急に立てなくなってしまって食欲も落ちてきた、いつまで持つかわからないとのことだったので、雨の降るなか電車に乗って、久しぶりにお店を訪れた。
すっかり弱って寝たきりになった彼の姿をみて、心臓がキュッとなる。可哀想とも少し違う感情。老衰も死も、すべての生物に平等に訪れるものだ。日々のほほんと暮らしているとたまに忘れてしまうが、自分だって例外ではない。時の流れが冷酷すぎて、目の前の光景を受け止めきれない自分はどこかに逃げてしまいたくなる。
そういった感情とは別に、愛おしさも感じる。ひとりでは何もできなくなってしまったが、それでも懸命に水を飲み、ごはんを食べ、そしてすやすや寝ている姿は、元気だったころとはまた別のかわいさで溢れている。「生きものは歳をとると、また赤ちゃんにかえっていくんだね」と妻が言った。
ゆっくりと撫でると、温かさと息遣いが伝わってくる。またね、と言ってお店を後にした。