幼馴染のN エピソード0

「もう忘れちゃったなぁ」

笑いながら幼馴染のNは呑気に言っている。

生まれた日が4日違いで同じ病院生まれ。互いの母親は同じ高校の同級生。互いの父親は同じ会社に勤めていて、社宅も近い。幼稚園も一緒。小中高も一緒。同じ予備校に通って東京に出てきたのも一緒。その後それぞれの道を歩むんだけど生まれた時から今に至るまでずっと友達。中学の時だけちょっと疎遠だったけど高校以降は親友と言える仲になった

Nは脱サラして故郷で自家焙煎珈琲の豆売り店をやっている

高校の時僕が部屋で淹れたコーヒーに感動してくれて、それから一緒に喫茶店に行ったり一緒に焙煎したりした。

受験で東京に出てきた時も東京の自家焙煎店巡りばっかしてたし、上京後も自家焙煎店で待ち合わせして一緒に遊んでた

1番多く待ち合わせ場所になった自家焙煎珈琲店は知る人ぞ知るネルドリップの名店で、Nはそこで半年位アルバイトしてたのです。僕の知る限り唯一。

古いコーヒー業界の人なら「あそこでバイトしてたの!!」って驚かれるような店です

その店は本当にすごいお店でね、もうずいぶん前に閉店してしまっているから一般にはもう覚えてる人も少ないけれど、古い業界の人には「ネルドリップの達人」として有名で

伝説の店として語り継がれている”御三家“の店主達とも交流があり、彼らが一目も二目も置く実力者でした。僕もたまにカウンターに入れてもらって抽出の手ほどきを受けたり、たくさん貴重な経験をさせてもらいました。教えてもらった事、今でも細かく覚えています。ある時は論理的に、ある時は文学的に。

理と感性が融合した静かなコーヒー。表現が難しいのですが、何気なく飲んでしまえば飲みやすい普通のコーヒーのようなんだけど、注意深く味わうと香味のバランスも味の情報量も凄いんですよ。あの構成力は他に比する人がいないです。足蹴く通う料理人の方も多かったそうです。

そんな店でアルバイトしながら、いったいどんな事をNは学んだんだろう。僕は抽出ばかりで焙煎の事はあまり聞けなかったし。Nにマスターは焙煎の事はどんな事言ってたの?と尋ねた時の回答が冒頭のセリフです

忘れるなよw

Nは自家焙煎珈琲の豆売り店の店主です

つづく

@congacoffee
音楽のこととか珈琲のこととかぼちぼち書いてみようかなと。。 打楽器は40年弱くらいやってまして、 焙煎は45年くらいやってます