龍(りゅう) 本名 G-48
享年14歳男、血は繋がっていないが終希の兄にあたる。好きなことは読書、インドア派で自分の感情を押し殺す癖がある。髪は赤だが生え際だけ紫がかっていて、瞳は赤紫色。背はそれほど高くは無い。
……と、基本情報を並べてみました。今回紹介するのは『灰の街』に出てくる終希の兄、龍です。彼は物語開始時には既に亡くなっているのですが、遺された手記が終希や一葉に大きな影響を与えていきます。
龍は終希と同い年の少年。誕生日も同じですが、龍がG型48番で終希が50番なので龍を兄としています。(49番の女の子は生まれた直後くらいに亡くなっています)
他のG型達は基本的には二人に順列をつけず同い年として扱っていますが、龍が落ち着いていて終希(その頃はフィフティと呼ばれていましたが、今回は便宜上全て「終希」で統一します)がやんちゃな子供だったため兄と弟として見ていることもありました。幼い頃から龍には兄の自覚があったのでしょう。
好き放題悪戯する終希を窘め、程よく一緒に遊んでいた龍。彼は根っからのインドア派でしたが、昔から終希の誘いを断れず外に出ています。しかし、弟が可愛かったので不満はなかったようです。龍は終希以外には弟や息子のように扱われていましたから、唯一慕ってきた終希が可愛く思えるようになるのは自然なことかと思います。
さて研究者に村が燃やされ、終希以外全員を失った龍。彼の兄弟愛は度を超えて増していきます。
終希は大好きな家族を失い、心を壊してほとんど喋らなくなってしまいました。今まですぐ人に迷惑をかけていたようなやんちゃさは嘘のように消え失せ、復讐以外何も考えなくなるほどの変貌ぶりです。
そんな終希の為に命を削り始めます。
終希も龍も家族を失って辛いのは同じ。しかし龍はそれより明日の生活を気にするようになりました。なにより終希を守らなければなりませんから。
龍は火傷で半分失った視力でほとんどやったことも無い家事の全てを担うことになりました。終希は生きるために最低限必要なことすら放り出して刃物を握るからです。龍がいなければ終希は餓死していたでしょう。
しかし最も良くなかったのは仕事量の偏りではなく、自分の悩みを相談できなかったことです。
復讐ばかり考える終希と、明日の生活を考えつつある龍は早くからすれ違ってしまい、ほとんど会話をしなくなりました。そんな状態では自分の存在意義すら分からなくなり、しっかり者で終希の初恋の人である「叶」が代わりに生きていればよかったと思うようになります。自分には終希を支えることは出来ないと気が付き、死にたくなったのはこの辺りから。
日に日に手首に傷が増え、首も何度か切り、傷が増えれば流石に終希も心配してくれるんじゃないかと思っていました。(家族の遺言の「生きろ」を守っていることを自傷で確認していたというのもあります)しかし、終希は気が付かなかったのです。
龍のおかげで生きてることも、龍が希死念慮を抱いていることも知らず、自分の感情だけを尊重する終希。何度か家事を少しやってほしいということや自分勝手に行動しないで欲しいということは伝えましたが、全く聞く耳を持ちません。
終希はもはや知らない人と言って良いほど別人になってしまいましたが、ふとした隙に表れる昔ながらの一面を見れただけでも龍にとっては守る意味になっていました。たった一人の家族のために身を削ることが辛くもありましたが、もはやそれくらいしか死なない理由が見当たりません。この時点で龍は平常な思考を失っていました。
そんな生活を3年ほど。
耐えきれなくなった龍は、自分には終希を支えることも復讐を止めることも出来ないことを認め、終希1人でも生きていけるように終活を始めました。
料理の仕方、洗濯の仕方、掃除の仕方、やらなければならないこと、亡くなった家族の想い。自分の知識全てを日記やメモ帳に散りばめ、家の至る所に置いていきます。
そして全てを書き記した時、日記の裏表紙に「誰か終希を助けて」と残して入水自殺しました。すれ違ったままの弟を1人にしてしまうことだけが心残りでしたが……
「誰か」なんて居ないのは分かっていました。やれることはやったので、あとは神頼みしか無かったのです。
助けてくれていたことに気がついたのは龍が亡くなった直後のこと。終希はいつもいつも復讐をやめろとうるさい龍を遠ざけていましたが、空っぽになった家に遺された大量のメモと血塗れの日記を見た時、ようやく事の重大さに気がついたのです。
メモに書いてある家事のやり方に従って生きることになった終希ですが、一葉が強制的に見せるまで日記を開くことは出来ませんでした。自分のせいで自殺した兄の日記など、どんな恨み言が書いてあるか想像もつかなかったからです。実際そこに書かれていたのが無償の愛だと知るまでに3年かかりました。