少年はじっと少女を見ていました。
電車の窓のくるくると移り変わる景色も、うつらうつら船を漕ぐ男も、手元のちいさい液晶画面を見つめるベージュ色の睫毛の女だって、少年の気をそらすには値しませんでした。
少女は少年の視線にはとんと気がついていない風で、そのつるつるとした黒髪を時折指で梳くばかりです。
化粧っ気のない横顔はたいして面白くもなさそうに窓の外を眺めていましたが、しかし少年は少女の目がこちらに向けられることを望んではいませんでした。
キイと耳障りな音をたてて、ああ電車が駅に着いて、誰も少女には目もくれず、規則正しく開いたドアをくぐり抜ける。
横を向いていた少女の首がこちらにねじられて、ひたと少年の様子を伺っているように思えました。
思える、というのは、なぜならその顔にはぽかんと穴が空いているのです。
「わたしのこと、なぜ見ていたの」
少女のまろい輪郭に縁どられた、それは紛れもない穴でした。ふしぎに向こう側の景色が見えるということもなく、少女の内側の肉壁が見えるわけでもなく、穴の中にはただ暗がりが広がるばかりでいます。
「あなたがあんまり見ているから、こんな風になってしまったのよ」
やっぱりこちらを向かないでいてくれた方がよかったのになあ、少年はため息をつきました。