福岡出身です。そう言うとモツ鍋が好きなんですね! モツの国から来た王子様ですね! という話をされる。ところがどっこい、私は北九州の出身なので、実はあんまりモツを食べないのである。他県の方から見れば同じに見えるが、「福岡県(博多の方)」と「北九州市」は違うのだ。80年代における香港と中国のような関係にある。北九州は独立国家で、福岡とは距離があるのだ。そして北九州はモツよりも焼き鳥だ。とにかく鳥を焼く。カーネル・サンダーズも泣くほど鳥を焼くし、あとは全然関係ないが豚骨ラーメンも凄い。福岡の豚骨ラーメンは、まだ人畜無害な匂いをしているが、北九州のそれは、半径50mに及ぶ。創作だと疑うなら「魁龍 ラーメン」で検索してほしい。「魁龍」は北九州屈指の名店であり、客のこっちが近所迷惑を心配するほど強烈な獣臭を放つラーメン屋だ。
で、モツである。
私は10年ほど前に上京した。東京に来てビックリしたことの一つが、「焼きとん」、そして「もつ煮」という文化だ。これは北九州になかった(福岡県にもなかったかもしれない。福岡=モツの国と思われがちだが、東京の方がよほどモツ/ホルモンが身近にある。だから私がモツの魅力に気が付いたのは東京に来てからだ。私にとってモツ/ホルモンは東京の名物であり、東京の味だ。東京でしか味わえない食べ物だ。だから私がモツ/ホルモンに特別な思い入れがある。私にとってモツ/ホルモンを食べることは、東京で生きていると再確認する行為でもあるのだ。故郷を出て、前川清が砂漠と歌ったこの街で、自分の力で生きていると噛み締める。これまでの自分をねぎらって、明日への闘志を燃やす行為だ。それが私にとってモツ/ホルモンを食べることだ。
今、あれこれ頑張っている。だから、この頑張りが一区切りしたなら、私はモツを食べる。この街で生きていくために。
あ、ちなみに魚は北九州の方は安くて美味いです。九州の魚は、基本的に新鮮で脂が乗っているのが正義とされるので。北九州の中心地・小倉に「活鮨の虎」という回転寿司屋があって、ここが凄いんですよ。行きたいなぁ。