かぎしっぽの猫へ

tsukeda
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私が学生の頃に、あなたは我が家にやってきました。

あなたはまだ子猫の時に拾われ、この家にやって来ました。とても不安だったことでしょう。

あなたはちょっぴり素直じゃないけど、かわいい甘えん坊になりました。

ごわごわとしてるけど、ふわふわした毛並み。 

あなたはキジトラではなく、「むぎわら」という種類なのだということを知ったのは、一緒になってから10年以上経ってからでした。

いつもちょっぴり怒っているような、三白眼。

眉間の皺のように刻まれた模様が、さらにあなたを怒っているような顔に見せました。

でも、あなたが怒っているわけではないことを知っています。

いつだって、眩しそうだけど優しく、こちらを見守っていましたね。

そして、少し不器用でした。

あなたは、他の猫のようにすらりとした姿勢で座ることはありませんでした。前足同士をくっつけて座ることはあまりなく、少しガニ股のように見えました。犬が座っている姿にも少し似ていたかもしれません。

そこがまた、わんぱくで愛らしかったです。

何か空の上でいたずらをされたのかもしれませんが、あなたの背中は、手で擦ってぼかしたような模様でしたね。お腹はくっきりとした模様だったのが不思議でした。生まれる前に空で、「いってらっしゃい」と背中を撫でてもらったのかもしれません。あなたの素敵な毛並みです。撫でたくなるのも無理はありません。

あなたのごわごわふわふわした毛ざわり。

最後まで忘れたくなくて、帰ってもなかなか手が洗えませんでした。

手を濡らしてしまうと、あなたの柔らかさを忘れてしまうような気がしたからです。

あなたは、母にだっこされたまま、私に撫でられるというのが大好きでしたね。

母といつも「よくばりやな」と笑ったことを覚えています。

母にだっこしてもらったら、私の方を振り向いて、呼んできました。だっこされたまま、私の姿を探していることもありましたね。

あなたは上手に、私の名前を鳴いて呼びました。

本当を言うと私は自分の名前が好きです。

言葉を持たないあなたが、上手に呼んでくれた名なのですから。

今、私と一緒にいる鳥たちも、あなたのように、私の名前をさりげなく呼ぶことがありますよ。

あなたは可愛いかぎしっぽを持っていました。

私は「かぎしっぽ」といものを、歌の中でしか聞いたことなく、触ったことも見たこともありませんでした。

私が生まれて初めて、「かぎしっぽ」を知ったのは、あなたと過ごしてからのことです。

だから、私の想像するかぎしっぽはいつだって、あなたのかぎしっぽなのです。

私の手首を優しく包んだあなたのかぎしっぽ。最期のあなたに触れたとき、かぎかどうかわからないほど、あなたのしっぽはさらりとした流れるような形となっていました。

かぎしっぽは生きている証だったのですね。

あんなに小さかった黒目も、あなたの目の青よりもどんどん大きくなって、あなたは見えない中でとても不安そうでした。壁にぶつかってもめげずに堂々と歩く姿はあなたらしくて、勝手ながらかっこいいと思っていました。

私は、あなたの18年間の中に、ずっとそばにいることはできませんでした。

結婚して家を離れる時、ちゃんとあなたたちに「行ってきます」の挨拶をしていませんでした。

なぜなら、きっと、いつでも会いに来ることができると思っていたし、会いに来るつもりだったからです。

今ではとても悔やんでいます。

離れてみて初めて気づきましたが、なかなかそうは気軽に会うことはできないものですね。

私の今いる場所と、あなたの場所は、私が想像していたよりもずっと、遠かったのかもしれません。

なので私はよく、母に電話をしましたね。

あなたは横で鳴いて返事をしてくれました。

通話する母の電話に、顔を擦り付けていたのだということを、母から聞きましたよ。

私から電話がきたときにしかやらないので、絶対に見ることはできない姿でしたが、見てみたかったです。きっと、あなたのことです。私だとわかって、お返事をしてくれていたのでしょう。

たまに、会いに行った時も、少しずつ私のことを思い出してくれましたね。

母に抱っこされたら、思い出したかのように、私の方を探して振り向いて、名前を呼んできましたね。

最後まで勝手な思いかもしれませんが、私は、あなたに親しみを感じていました。

そして、あなたにも少しだけ、私にそんな思いがあったのでは、と勝手ながら思っています。

だから、最期会いに行った時、私が呼んだら、つらい中でも顔を上げて返事をしてくれたのでしょうか。

あなたは痛そうで苦しそうでした。

これからはそんなつらさはもう忘れて、自由に遊んで休んでほしいです。

私は、あなたを失った母のことも心配です。

あなたが毎朝起こしてくれていたから、起きられるか不安だと言っていました。

だから、たまには母を起こしにきてください。夢でもどこでもいいので、会いに来てください。きっと、いつでもあなたのことを抱きしめるでしょう。

気が向いたら私のところにも会いにきてほしいです。

あなたの最期の横顔を見た時、あなたは姉妹である猫に似ていたことを知りました。

全く似ていない姉妹でしたから。

また、やさしいあのお姉ちゃんと会ったら、きっと仲良くしてください。甘えん坊でやんちゃの弟猫もいるでしょう。

残された妹猫は、たまにあなたのことを探しているそうです。あんなにマイペースな妹猫でしたが、あなたとともにあったのです。

また、弟猫や姉猫と一緒に、きっと会いに来てください。

ずっと、私のわがままですが、あなたはきっと幸せだったことだと願っています。これからもあなたが幸せであることを祈りたいです。

たくさん書きたいことがありますが、これくらいにしておかないときっと、あなたはむすっとしてどこかへ行ってしまうかもしれません。

あなたのことを忘れたくないので、また何か付け足して何か書くことを、こうして勝手な気持ちを書くことを許してください

今まで本当にありがとう しょこら

@dan5suke
趣味や創作 日常