ナックはぼーっと考えていた。
『主様は、私のことをどう思っているのでしょうか……』
「なーにぼーっとしてるんだよナック!」
「!!」
突然やってきたラムリに驚いたナックだったが
「ラムリ… 突然おどかさないで下さい、仕事はどうしたんですか?」
「やってますー、ちょっと通りかかっただけだってば、ナックが休憩してたから」
「休憩なんてしてませんよ。ちょっと考え事をしていただけで…」
「へー何考えてたの?」
「もちろん、主様のことです!」
頭の中にある主の思いが抑えきれず、思わずラムリにも心のうちを漏らしてしまう。
「主様は……私たち…いえ私に好かれて迷惑ではないのかと…
もし向こうの世界に大切な人がいたとしたらどうしたら…
主様は私たちを傷つけないように自分の思いを黙っているのではないかと…」
「は?何言ってんの?主様のことだから向こうの世界にだって大切な人くらいいるでしょ。それに主様のことを大切に思ってる人もたくさんいると思うんだ」
「ラムリ…」
「でもさ、だからこそ、僕は主様の1番になりたいんだよね!みんなから愛されてみんなのことを大切に思っている主様……でもその中でも自分が一番になれるって…素敵じゃない?」
「ラムリ………確かに、そうですね。………ですが、ひとつまちがっていますよ。主様の1番にあるのはラムリ、あなたではなくこの、私です」
「は?真似しないでくれる?僕が先に1番になるって言ったんだから僕だからね!」
「先も後もありませんよ、主様の1番になれるかどうか、それはまだこれからの話ですからね。それより、いつまでサボってるんですかまだ終わってないんじゃないですか」
「あーあ、気づかれちゃった、もっと休めると思ったのに」
「私と話すフリをしてサボらないでください」
「あーはいはい、さっさと行きますよー」
「はぁ……全くあの人は…」
『それにしても…』
あのラムリがあのように思っていたとは予想外であった。
てっきり、自分は主の一番であると信じて疑ってはいない花畑のような頭の中だろうと思っていたのに、まさか、あそこまで冷ややかに主と已れのことを分析していたとは…
全くの予想外であった。
そう、主と関わりあるのは自分たちだけではないのだ。自分の知り得ない、あちらの世界にもまた全く知らない人たちが主と関わりを持っているのだ。
ラムリより、むしろ自分の方が浮ついているのかもしれない、そんなことを一瞬頭に掠めながらも
「ですが」
自分はかつては裏稼業で名を馳せていたシュタイン家の血を引く人間。たとえ今はただの執事だとしても…自分の狙った獲物は逃すまいと…かつての血が沸き立ってくるのを感じた。
「もしもあちらの世界に主様の大切な方がいるというのなら…私は主様を自分の方に向けさせて差し上げましょう」