作品内に登場するレッドとブルー、彼女らはありとあらゆる方法でお互いに文章を送り合う。そしてそのやりとりが他者にわからないように、痕跡をありとあらゆる方法で抹消する。抹消方法のうちの一つに、文章が記された物質そのものを食べることがある。決して秘匿のための責務などではなく、食べたものを丁寧に歯で感じ取り、舌で味わって、喉を通し、そして満たされていく。互いが互いを確実に意識をして摂り込んでいたのだと僕は思う。
外部のものを自身へと取り入れていく構造は、読む行為も食べる行為もよく似ていると僕は思う。気が付かずともきっと取り入れたものが心身の深いところまで行き渡っているはずだ。例えるなら、何万色もの糸が複雑に何層にも織り込まれて重ねられた大きな布。その中の1本の糸がどんな色(赤? 青?)だったのかはそこからはきっともうわからない。その色を確かめてやろうと意気込んで、鋏を入れたその切れ端からきっと血(どんな色?)が流れ出してすぐに変色していってしまうのだろうと僕は思ってしまう。一度取り入れたものを取り出して眺めることはできない不可逆性に、僕は少しの寂しさを感じた。
この本を読んでいる最中に、僕はミトコンドリアの起源について思い返していた。生物細胞とは別の生き物だった細菌が取り入って共生しミトコンドリアとなったと考えられている説だ。それぞれを今から物理的に切り分けることはもう不可能なのだろうけれども、ミクロサイズの壮大な出会いにあったであろう物語を、レッドとブルーのやり取りに重ねて僕は夢想してしまうのだ。