大学のころ、同級生の何人かが似顔絵を描くアルバイトをやっていた。観光地なんかでたまに見る、異様に人のパーツを誇張したアレだ。
ああいった似顔絵があまり好きじゃなかった。誇張の仕方に悪意を感じるからだった。そして、その悪意の消化はそっちでやってくださいという態度が透けているのもまたあまり好きではなかった。「ちょっといじってる感じの似顔絵ですけど、いい大人なら笑って済ませられますよね?」
そんな似顔絵嫌いの自分がつい先日、似顔絵を描いてもらった。好きなアーティストの原画を購入したところ、似顔絵を描いてもらう権利が一緒についてきたのだった。
黒ペン一本、少ない線でさらさらと4,5分足らずで描かれた似顔絵はしかし、自分の特徴がしっかりと現れていた。
特に最後の数秒、黒目をぐりぐり塗ったとき。ほんの少し、1ミリほどの差をつけて離れ目に描かれた瞳。そうだ、自分ってちょっと目が離れてるんだよなと思った。それがすごくしっくりきた。
一瞬で特徴を見抜き、それを一発描きで二次元に落とし込む。途方もない鍛錬に裏打ちされた観察眼と線選びの発露を数分で見ることができた。プロの技術を特等席で味わえる面白さを知った。