あといか

倉田タカシ
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 さきいかを製造したあとに残る、ちょっとした倦怠感のようなもの。

 それを袋詰めして製造所だけで販売しているので、近くに寄ったときに買っています。食べ物ではない。

 食べ物ではないが、食べるという営みの斜め向かいに建っている感じはあって、だからうっかり買ってしまう。あくまでもうっかりです。うっかり近くに寄ってしまい、うっかり財布をひらいてしまう。認知ハックを仕掛けられている。そんなに高いもんじゃないんですけど、毎回、レバー型のドアの取っ手にまたセーターの袖口を引っ掛けちゃった、みたいなくやしさがある。

 で、買って来たら食べるんですけど……

 そう、うっかり食べてしまう。あとを引くおいしさ。食べ物ではないのですが。

 味はちょっとわからないですね……。さっきうっかり「おいしさ」って書いちゃいましたけど。食べ物ではない。

 製造所にうっかり寄ってしまったときに、意志の力を総動員して、あといかじゃなくさきいかのほうを買えばいいと思うんですよね。そういうのは、お昼過ぎに目が覚めちゃったけどこれからペースを上げて挽回すればいいや、というのと同じできわめて実現性が低いことだと思いますけど。

 で、実際、さきいかは製造所で売ってないです。作ってるのに。いかの神に献上されているのだろうと思います。

 製造所ではいかとっくりも作っているようで、神のごとく巨大なそれが店先に置かれています。ロケットくらいのサイズで、固形燃料を詰めて実際にロケットとして飛ばしている動画も見ました。そういう奇祭もいかの神を楽しませているのだと思います。

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