両眼視のホビー

倉田タカシ
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 プラモデルを組み立てたり眺めたりするのが趣味です。

 わたしにとっての模型趣味は、「両眼視のホビー」としての側面が重要であるように思います。両目で眺めることで、立体として知覚するだけでなく、サイズ(大抵は、小ささ)を物理的現実としてストレートに感じられるからこその快楽があるのだと思っているんです。「うわっ、小さい! 細かい! 心地よい!」みたいな。

 プラモデルの愉しみは、わたしにとっては以下のようなレイヤーをなしています。

●モチーフへの愛着(この飛行機の模型がほしい、みたいな)

●ミニチュアの喜び(小さいだけですごく嬉しい:両眼視の快楽、手にとり触れて形を楽しむ)

●組み立てのチャレンジと達成感(難しいほうが嬉しい)

●工作の喜び(たんに手を動かすこと自体が楽しい)

●プラスチックという素材そのものの質感の魅力

●購入・所有の快感(これはプラモデルに限らず)

●シンナーの匂い

 一般的な模型愛好家ならば、おそらくこのほかに「考証・資料収集の楽しみ」「ネットや展示会での交流の喜び」などもあるでしょうが、それはいまのところ自分にはあまり縁がありません。

 組み立ての楽しみ・達成感もわたしにとっては大きな要素です。一般的にいっても、模型を楽しむ人は自分の手先の器用さを確かめて喜ぶというところがあるように思います。

 全般にプラモデルというのは世間の人が思っているよりも組み立てが難しいもので、部品と部品がぴったり合わない、ぴったり合うようになっていても慎重に位置をあわせて接着しないとズレてしまう、ごく小さなズレでも各部品のそれらが重なると全体のフォルムが破綻する、など、色を塗らずにただ組み立てるだけでも落とし穴が無数にあります。それらを細かく調整して乗り越えていくのがすごく……楽しい……。有名なメーカー(タミヤ模型とかバンダイとか)のとくに近年のものは、ストレスなくだれでもきれいに組み立てられる優れた製品なのですが、そういう良品はプラモデルという巨大なカルチャーにおいては大海の一滴、旧東ドイツで生産されたキットがいまもオークションで入手できるなど、手の届く歴史的スパンがきわめて長いホビーなので、品質という面では玉石でいう石の割合がはちゃめちゃに多いのです。でもそれがいい。すべての部品の周囲に南部せんべいの縁のびろびろしたところみたいなのがついていて、それらを丁寧に削ぎ落とさなければ組み立てることができない、というようなの(とくに東ヨーロッパの前世紀の製品がそういう意味ですごくよい)がどんどん好きになり、組み立てばかりにかまけて色を塗るところまでさっぱりたどりつかない、そういう模型ライフを送っています。そもそもあまり時間をとれません。でも楽しいです。「両眼視のホビー」の話をするつもりが手仕事のホビーの話になってしまいました。

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